
記憶というものは、時に人を惑わせるものだ。1970年代のオーストラリアで、子どもだった私は6気筒のホールデン・トラーナを小型車だとは思ってはいなかった。しかし、現代の肥大化した基準で見れば、決して大きいとも言えないこの車は、オーストラリアやニュージーランドのサーキットで、フォード・オーストラリア社の5.8リッターV8のファルコンGTHOと競い、時おり打ち破るほどの「ジャイアントキラー」であった。にもかかわらず、現地生産されていたトラーナは、実際のところイギリス製のコンパクトな1.2リッター4気筒のヴォクスホール・ビバHBをベースにしていた。
【画像】想像以上のドライブが楽しめる!半世紀以上前のホールデン・トラーナ(写真5点)
1969年に直列6気筒のLCトラーナが発売された際、HBシリーズのシャシーはホイールベース拡大のため107mm延長された。また、より大型のエンジンを収めるべくフロントノーズは延長され、リアはファストバックスタイルが採用された。この仕様は、1972年から2年生産された後継モデルのLJシリーズでも変更されなかった。そしてその生産終了後、かなり大型化された新しいプラットフォームが採用されることになった。
レースにインスパイアされたLCとLJシリーズのトラーナGTR XU-1の各モデルは、オーストラリアとニュージーランドのマッスルカー界において、神聖な地位を保っている。そういうわけで、タスマニアの実業家マット・イーストウッド氏が所有する、希少かつ完璧にレストアされたファントムグレーの1972年LJを運転するのは、ひときわ胸が高鳴る体験となる。
1970年代を彷彿とさせるスポーツステアリングの後ろへ滑り込むと、ステアリングがセンターからずれていることに気づかされる。ペダルが右側に寄っているのと同じくらい、ステアリングは左側に寄っているのだ。そしてそのペダルは間隔が広すぎるため、ヒールアンドトゥによるシフトダウンは、ほぼ不可能に近い。内装は、伸縮性のあるブラックのビニールで仕上げられ、同色のループパイルカーペットと調和している。これでは暗い印象にもなりかねないが、細いピラーと広いガラスエリアにより、車内は驚くほど明るく開放感がある。
3.3リッター直列6気筒のエンジンには、トリプルのCD-175ゼニス・ストロムバーグ製のサイドドラフトキャブレター、強化シリンダーヘッド、ハイパフォーマンスカム、鋳鉄製ヘッダーが装備されている。その始動には何度か試行錯誤が必要だが、ひとたびかかると、荒々しくも安定したアイドリングに落ち着く。厳密にオリジナル仕様へリビルドされたエグゾーストは、予想以上に静かだ。それでも、思わずブリッピングしたくなるほどの魅力がある。
70年代のホールデンによくあるように、1速と3速に入れるには腕を伸ばす必要がある。しかしフロアシフトの操作感は、メカニカルで心地よい。トランスミッション自体は、オーストラリア製のクロスレシオの4速だ。標準より高いファイナルギア比のLSDを介して後輪を駆動し、公称最高速度は217km/h(136mph)となっている。これは当時の基準からすれば見事な数値だ。
XU-1のエンジンは滑らかかつトルキーで、鋭い加速を可能にしつつ、吸気音と排気音が織りなす素晴らしいハーモニーを生み出す。ステアリングは低速での操作は重めだが、高速走行時には程よく軽くなる。センター付近ではやや曖昧な感触があるが、トラーナは素直に曲がり、荷重が増すと十分なフィードバックが得られる。
ブレーキには、パワーアシスト付きのフロントディスクとリアドラムが採用されている。”時代相応”ではあるものの、右足を踏み込めば十分に効く。サスペンションも同様に、時代を感じさせるものだ。フロントは路面にしっかりと接地感がある一方、コイルスプリング式のライブリアアクスルは、路面の凹凸で暴れやすい傾向がある。しかしながら、コーナリング時の姿勢は全体的に安定している。オプションの13×6インチのスプリントマスター製ホイールには、当時の仕様のままの185/65のタイヤが組み合わせされており、グリップは十分だ。
どうやら私の記憶は、現実とは違っているようだ。確かに、トラーナは物理的には大きくない。とはいえ、ある点において私の認識は正しかった。トラーナGR XU-1がモータースポーツに与えた影響は大きく、一般消費者に対する魅力も同様だった。その結果、このモデルはオーストラリアの自動車文化において、際立った地位を獲得した。そして、そのドライビング体験は、私が想像していた以上のものだった。それこそが、トラーナを大きな車と思う理由だった。
文・写真:Alastair Watson