
この記事は「まだ真価に気付かれていない?|ロックスターが選んだフェラーリ412【前編】」の続きです。
【画像】ロックバンド”ザ・フー”のピート・タウンゼントが選んだフェラーリ412(写真5点)
412のことを大きな車だと思っている人は少なくないだろう。しかし、現代の標準から見れば大きすぎるとはいえず、全幅は1798mmに過ぎない。また、3ボックス・スタイルとガラス面積が大きいおかげで、たとえイギリスの狭いB級道路でも車線内のポジション取りは容易。インテリアは、長身のドライバーにも十分なヘッドルームが確保されている。だが、右ハンドルゆえか、ペダル類は右側に大きくオフセットしていて、クラッチペダルはステアリングコラムの真下に位置している。運転中はこのことに気づきにくいだろうが、整骨医がアナタの身体をチェックしたら、下半身のゆがみについてなにか指摘されるかもしれない。
V12エンジンを始動する際にも、現代のスーパーカーのような儀式は不要。まずはキーをひねって数秒間待つ。その間にスターターモーターは猛烈な勢いで回転し、燃料ポンプは12のシリンダーにガソリンを送り込む。するとエンジンはなんなく回り始めてスムーズなアイドリングを開始する。静かといってもいいくらいだ。そのわずかな鼓動から本物のエンジンであることが知れるものの、エグゾーストノートは驚くほど控えめ。その傾向は順にシフトアップしていってからも変わらず、V12は叫ぶこともなければ吠えることもしない(ただし自分が412に追い越されるときにはドラマチックなサウンドが堪能できる)。
もちろん、スロットルペダルを踏み込めば踏み込むほど音色の輪郭は明瞭になるが、それはあくまでも上品で、まるでタービンが回っているような音に聞こえる。90mph(どこで出したかは聞かないで欲しい)はリラックスできるクルージングスピードであり、エンジンは4000rpmを少し下回るあたりで回っているだけ。レッドラインが引かれた6500rpmははるか先で、風切り音以外はほとんど気にならない。やはり、このGTは大陸横断エクスプレスの資格を有しているというべきだろう。
もっとも、412の絶対的なパフォーマンスは同時期にデビューしたテスタロッサに比べればマイルドで、サスペンションも相応にソフトな仕立てとなっている。人によってはダンピング不足と感じるかもしれないが、長距離ドライブにはこのくらいがちょうどいいはず。それでいてロールはしっかりと抑えられていて、アンダーステア傾向の強かった400に比べると412には明らかに修正の手が加わっている。したがってハンドリングはダイレクトと評していい。しかも、たとえコーナーで攻めてもドライバーの期待を裏切るような挙動は示さない。そもそも、自分の腕と車の限界のどちらがより高いかを見極めるために、イチかバチかのコーナリングを試す必要はないはずだ。
今後、1万ポンド(約200万円)を切る価格でフェラーリが買える時代がやってくるとは思わないが、仲介業者たちはまだ400や412の真の価値には気づいていないようだ。2023年から24年のオークション結果を見る限り、400と412の取引価格は、コンディションのいい車両でも5万ポンド(約1000万円)から7万ポンド(約1400万円)の範囲に留まっている。これは新車時には412よりずっと安かった328GTBの相場を下回るもの。今回取り上げた個体を所有するニール・ディケンズは、これよりも高い価格で売りに出すつもりだが、それにしても際立って高価とはいいきれない。そして、誰が手に入れることになろうとも、その人物が優れた見識を有し、高品質なものを歓迎するコノサーであることは間違いなさそうだ。
1989フェラーリ 412GT
エンジン:4942cc、24バルブ V12、DOHC、ボッシュK-ジェトロニック
最高出力:340bhp/ 6000rpm 最大トルク:332lb-ft/ 4200rpm
変速機:5段 MT、後輪駆動 ステアリング:ZF製ウォーム&ローラー、パワーアシスト
サスペンション(前・後):等長アーム・ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー(前)、自動車高調整(後)
ブレーキ:ベンチレーテッド・ディスク、ABS
車重:1805kg 最高速度:155mph 0-60mph加速:6.4秒
編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI
Words:Mark Dixon Photography:Barry Hayden
THANKS TO the owner, to Giuliano Silli, the Frua family archivist Roberto Rigoli, Stefan Dierkes and Philippe Murari.