テレビ、配信、SNSと、スポーツコンテンツをめぐる視聴環境が大きく変化する中、放送・配信事業者は現状をどのように捉えているのか。

U-NEXTの本多利彦取締役COOと、FODを展開するフジテレビの野村和生コンテンツ事業局プラットフォーム事業センター室長が、26日に都内で開催されたスポーツメディア業界の関係者を対象にしたイベント「WSC Sports Summit Tokyo」に登壇し、メディアによる役割分担や、放映権料高騰という課題にどう向き合うべきかについて議論を交わした。

  • (左から)U-NEXTの本多利彦取締役COO、FODを展開するフジテレビの野村和生コンテンツ事業局プラットフォーム事業センター室長

    (左から)U-NEXTの本多利彦取締役COO、FODを展開するフジテレビの野村和生コンテンツ事業局プラットフォーム事業センター室長

放送局の人間としては複雑な気持ちも…

直近の象徴的な出来事として挙げられたのは、やはりワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の放映権をめぐる動きだ。Netflixによる日本国内独占配信は、従来の地上波による「誰でも見られるスポーツ」という前提を揺るがした一方で、新たな視聴行動も生んだ。

U-NEXTの本多氏は「普段OTT(配信サービス)を使わない層が利用するきっかけになったと思います」と、その波及効果を評価。フジの野村氏は「WBCは放送局の人間としては非常に複雑な気持ちで見ていました」としつつも、「絶対に課金したくない人に対してNetflixさんに切り開いていただくと、こちらにもビジネスチャンスが来るので、今回果たした役割は大きかったのかなと思います」と見解を述べた。

課金して楽しめる価値を――コアファンを対象に

一方で大きなトレンドとして、視聴形態がテレビ、配信、SNSへと分散してきている。この中で、それぞれのメディアの役割をどう捉えているのか。

本多氏は、サッカーの日本代表戦を例に、地上波と配信サービスの役割の違いを明示。3月29日・4月1日のヨーロッパ遠征2試合が、NHKとU-NEXTで放送・配信されているが、「我々はコアファンにターゲットを寄せて、より専門的な実況を作りますし、解説もしていただきます。今までになかった展開を広げますので、U-NEXTに課金して楽しんでいただけるような価値を十分作れているのではないかと思います」と自負する。

地上波、配信の両方を持つフジの野村氏は、フィギュアスケートの事例を紹介。「全日本フィギュアスケート選手権」「世界フィギュアスケート選手権」などは、競技が午前中や昼間から行われており、メインである最後のグループを地上波で中継するスタイルだったが、FODやCS放送で全選手・全演技を完全生中継することで、「本当のファンの方にしっかり見てもらえる形にしています」。さらに、大きな大会が空いてしまう期間には、地方大会の中継や選手のドキュメンタリーを配信することで、「点と点を線にすることも考えています」と戦略を明かした。

地上波と無料配信で裾野拡大→有料会員獲得へ

スポーツコンテンツの議論で避けて通れないのが、放映権料の高騰。プラットフォーム側としては頭の痛いトレンドだが、本多氏は「OTTやテレビ局が権利料金を支払い、それがスポーツ団体に行き、選手に行って、その活動を支える。そこからまた新たなファンエンゲージメントが生まれるというエコシステムが重要だと思います」とも捉える。

野村氏は「ここ最近の権利料の上がり方はちょっとえげつないです」とした上で、「最初から(収益)回収前提でやってしまうと、競技の広がりに対して蓋をしてしまうことになる」と指摘。放送と配信の両方を持つテレビ局の強みを生かし、「地上波放送とAVOD(無料配信)でしっかり裾野を広げて有料の会員獲得にもつながるスキームができてきたので、この方法を模索しながらやっていくことが大事かなと思います」と解決への方策を示した。

フジは2026年から5年間にわたり、F1と日本国内の独占オールライツ契約を締結。地上波・有料放送・配信を組み合わせ、新規ファン層の開拓を狙う考えで、清水賢治社長も「かつてのアイルトン・セナやアラン・プロストの時代のような熱狂をもう一度巻き起こしたい」と意気込んでいる。

このイベントは、世界で650以上のリーグや放送局のスポーツの試合映像からAIを活用してハイライト動画を自動生成・配信するプラットフォームを提供するグローバル企業・WSC Sportsが初開催したもの。野村氏と本多氏のセッションのほかにも、Jリーグ・Bリーグ、DAZN、YouTubeの担当者がメディア戦略を語り、WSCの担当者が2030年のビジネスビジョンなどを示した。