野球日本代表侍ジャパンの井端弘和監督(写真:Getty Images)

 

 WBCで過去最低の結果に終わった侍ジャパン。その敗因を巡り、NPBの“飛ばないボール”や戦術面への議論が噴出している。守備力向上と打低環境が進む現代野球において、従来のスモールベースボールは通用するのか――国際基準とのズレから浮かび上がる課題を検証する。(文:ニコ・トスカーニ)

過去最低の結果。その裏で浮上した課題とは

 

 去る2026年3月18日、現状唯一世界最高峰のプロリーグ、MLBの選手が参加可能な国際大会ワールドベースボールクラシック(WBC)が閉幕した。準々決勝で日本を破ったベネズエラが初優勝の快挙を成し遂げた一方、日本は6回目にして初めて準決勝に進出できず過去最低の成績に終わった。

 

 一発勝負のWBCでは、組み合わせの問題やコンディションなど状況や運に左右される要素も大きいため「結果的に」という注釈はつくものの過去最低成績であることに違いはない。

 

 

 

 そうすると敗因探しをしたくなるのが人情だが、今大会に関しては「NPBの飛ばないボール批判」がSNSでトレンド入りしており、極端な投高打低環境が続くNPBの環境を問題視する意見が多数見られた。

 

 筆者も、飛ばないボール問題は国際大会で勝つためにも是正が必要だと考えている。

 

 

スモールベースボールは通用するのか。守備力向上がもたらした変化

 

 

 

 今大会、日本は送りバントや盗塁、エンドランを絡めるいわゆる「スモールベースボール」を仕掛ける場面が少なかった。

 

 敗退後に案の定、そういった戦略を執るべきだったとの意見が見られたが、戦術的に有効性があるか甚だ疑問である。

 

 MLBが公式に発表していることだが、今大会は本塁打数が急増した一方、打率、出塁率、長打率は軒並み低下し、全体的な打撃成績は下がったとのことだ。

 

 言い換えるなら本塁打以外のインフィールドの打球がヒットにならなかった。

 

 

 

 セイバーメトリクスの指標にDERという「本塁打以外のフィールドに飛んだ打球がアウトになった確率」を示すものがあるが、今大会は前大会と比べてDERが大幅に上昇している。

 

 ここから導き出せる推論は、「全体的に守備のレベルが上がっている」ため「相手守備の影響を受けない本塁打に得点を依存せざるを得ない」ということだ。

 

 スモールベースボールは長打に依存しない戦術だが、小技で進塁するにしてもまず出塁しなければならない。

 

出塁すら困難に。長打力がなければ四球も奪えない現実

 

 

 

 出塁するには「安打を打つ」か「四球を選ぶ」か「運任せ」(死球、エラー、振り逃げ、打撃妨害)の三択になる。

 

 運を戦術に組み込むわけにはいかないので、実質「安打を打つ」か「四球を選ぶ」二択になるが、守備レベル向上の背景を考えると、長打を捨てて半端に前に飛ばしたところで一つ目の選択肢である「安打を打つ」が期待できない。

 

 小技が上手いタイプの選手でスモールベースボールをやろうとすると長打力不足になるが、長打力不足は本塁打で得点が取れないだけでなく、「四球を選んで出塁」にも影響してくる。

 

 吉田正尚はNPBからMLBに移籍した2022年→2023年で打率が.335→.289に低下したが、出塁率の下がり幅はさらに大きく.447→.338まで低下した。

 

 その理由だが、吉田程度の長打力では怖さがそれほどないためMLBの投手がゾーン内で攻めていく投球を選択したことが考えられる。

 

 

 

 吉田は本来、辛抱強く選球眼のいい打者だが、早めのカウントから打ちにいく選択を迫られ、結果的に出塁率が大きく低下した。

 

 鈴木誠也は2024年に2023年の吉田よりわずかに下の打率.283だったが、出塁率は大きく上回り.366だった。

 

 15本塁打・長打率.445の吉田より、21本塁打・長打率.482の鈴木の方が打率は下でも警戒すべきと判断されたのだ。

 

 鈴木はP/PA(一打席あたりに投げさせた球数)が2024年シーズンMLB全体でも25位と好成績で、キャリアハイの32本塁打を記録した2025年は全体15位まで上昇した。辛抱強かっただけでなく、長打があるので相手が警戒してきたという理由もあるのだろう。

 

 スモールベースボールをやるにはまず出塁しなければならないが、コンタクトが上手いだけの選手は、仮に選球眼に優れていてもゾーン内で攻められるので四球をもぎとるのが難しく、コンタクトして前に飛ばしても守備能力の向上で中々ヒットにならない。

 

 そのためスモールベースボールの前提である出塁をするには、ある程度以上の長打力が必要になってしまう。

 

 

 

 ある程度以上の長打力と出塁能力のある選手を揃えられるならバントやエンドランなどの小技を使うより、普通に打った方がいい。

 

 結局、スモールベースボールをやる意味が乏しくなってしまう。

 

 東京ヤクルトスワローズ一筋に活躍した宮本慎也氏はシーズン67犠打の日本記録保持者で、典型的なスモールベースボール型の選手だが、引退後は一貫してスモールベースボールの戦術的価値に否定的である。今大会後も「スモールベースボールへの回帰は危険」と発言している。

 

 当事者ですら価値に否定的な作戦を執るのは、賢明な判断ではないだろう。

 

飛ばないボールの問題。長打と奪三振の必要性

 

 

 

 そしてこの問題は、NPB現環境の飛ばないボール問題に関係してくる。それは打者と投手の両方に影響する。

 

 事実としてNPBのボールはMLBより反発係数が低く、飛ばない。MLB公式球の反発係数(※凡その値)0.53-0.57に対して、NPBは0.40-0.42である。

 

 ルールで定められた基準値内ではあるが、年々上昇する平均球速をはじめとする投手レベルの向上もあって、NPBは極端な打低環境に振れている。

 

 その結果、打者は長打が打てなくなり、コンタクトしていく方向に行かざるを得なくなった。

 

 2025年シーズンは佐藤輝明(阪神)がこの打低環境で異次元の40本塁打を放ったが、セ・パ両リーグ併せても30本塁打以上はフランミル・レイエス(日本ハム)と佐藤の二人しかいなかった。

 

 この状況下において、投手はコンタクトされても長打を打たれるリスクが低いため三振を奪う重要度が低くなる。

 

 

 

 石井大智(阪神)は2025年シーズン、世界新記録の50試合連続無失点を達成し53イニングで防御率は0.17だった。

 

 その一方で、奪三振率は2024年シーズンの10.73から7.13と低下しており、FIP(被本塁打・与四死球・奪三振のみで投手を評価する指標)も1.18→1.57に悪化している。

 

 石井本人も「昨年、三振は一つ諦めたポイントでもありました」と語っており、明確に奪三振の減少が意図したものであったことが分かる。本塁打の出にくい本拠地・甲子園球場と飛ばないボールの現環境に依存した、ガラパゴス化戦略だろう。

 

 反発係数の高いボールに加え、相手打者のパワーも上がるWBCでは危険な戦略である。

 

 現状のNPB外で行われている野球に合わせるならば、打者は長打を打てる打撃を目指し、投手は三振を奪える投球を目指さないと、国際的なスタンダードからずれてしまう。

 

 そういった理由からNPBの飛ばないボールは、国際大会で勝つために検討しなければならない問題だと言える。

 

 

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【了】