「くも膜下出血は、前触れなく突然倒れる病気」――そう思われがちですが、実は発症前や直前に“いつもと違うサイン”が出ているケースも少なくありません。本人が軽く考えてしまったり、周囲が見逃してしまったりすると、命に関わる結果になることも。くも膜下出血の前に現れることがある初期サインと、見逃さないためのポイントを解説します。

くも膜下出血は「突然起こる病気」と思われがちだが……

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脳を覆う「くも膜」と脳の間で出血が起こるくも膜下出血。発症すると、「バットで殴られたような激しい頭痛」や意識障害などが起こります。

脳卒中の中でも死亡率が高く、突然発症する危険な病気として知られています。

前兆がまったくないわけではない

代表的な症状はよく知られていますが、くも膜下出血の症状の現れ方は人それぞれです。

多くの人に起こる激しい頭痛がみられないケースや、頭痛がないまま突然意識を失うこともあります。

一方で、すべての人が完全に前触れなく発症するわけではありません。実は、発症の数日前から「前兆」と考えられる症状が現れていたケースも少なくないことが知られています。

発症前・直前の代表的な「初期サイン」

くも膜下出血の発症前や直前に、次のような症状が現れることがあります。

1.突然の頭痛

「警告頭痛」と呼ばれる頭痛が、発症前に繰り返し起こることがあります。

くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤からごく少量の出血が起きたり、脳動脈瘤壁が急激に伸展されることで生じると考えられています。

数時間前から数日前に起こり、1~2日続くこともあります。患者の約20~30%にみられるとされ、見逃したくないサインです。ズキズキとした痛みで、吐き気を伴うことも多いといわれています。

2.目の異常

数時間前から数日前にかけて、目の痛み、めまい、視界がかすむ、ものが二重に見えるといった症状が現れることがあります。

ものが二重に見える「複視」は、動眼神経麻痺の症状のひとつです。目を動かす神経が障害され、片側の目が正常に動かなくなることで起こります。

3.吐き気や嘔吐

少量の出血でも脳や神経が刺激されることで、吐き気や嘔吐が起こることがあります。頭痛と同時に現れる場合もあります。

4.血圧が大きく上下する

発症の数日前から血圧が不安定になり、急激な上昇や低下を繰り返したあとに発症するケースが報告されています。

心当たりがないのに血圧の変動が激しい場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

5.頭がモヤモヤする、ぼーっとする

はっきりした痛みではなく、「頭が重い」「ぼーっとする」「いつもと感覚が違う」といった違和感を覚えたという人もいます。

なぜ「気のせい」「疲れ」と思われやすいのか

前兆と考えられる症状はいくつかありますが、なぜ見逃されやすいのでしょうか。

片頭痛や風邪症状と似ている

警告頭痛はズキズキとした痛みが多く、片頭痛と似た痛み方をします。 目の痛みや吐き気を伴うことも、片頭痛ではよく見られるため、区別がつきにくい場合があります。

また、出血量が少ない場合は軽い頭痛やだるさ程度の症状にとどまり、「風邪を引いたのかもしれない」と思われてしまうこともあります。

危険な頭痛を見分けるポイントのひとつが「突然起こった」頭痛であることです。何をしているときに始まったかをはっきり覚えているような頭痛は、特に注意が必要です。

一時的に症状が治まることがある

前兆となる症状は、数時間から数日で自然に軽快してしまうことがあります。

そのため「一時的な体調不良だった」と判断され、様子を見ているうちに、本格的なくも膜下出血に至るケースも少なくありません。

症状が消えたあとでも、数日以内に再び症状が現れたり、重症化したりする可能性があることを覚えておきましょう。

家族や周囲が気づきやすい変化

本人が自覚する症状だけでなく、周囲だからこそ気づける変化もあります。

様子や受け答えがいつもと違う

頭痛が出る前から意識状態が低下することもあります。 質問にうまく答えられない、返答が的外れ、自分の名前や日付が言えないといった場合は、意識障害の可能性があります。

片側のまぶたが下がる

動眼神経麻痺の症状として、片側のまぶたが下がる(開きにくくなる)ことがあります。 これは脳動脈瘤が破裂する前に現れることがあるサインで、周囲の人が見て気づける重要な変化です。

こんな場合は迷わず救急要請を

くも膜下出血の多くは脳動脈瘤の破裂が原因です。発症した場合、再出血を防ぐために専門施設での緊急治療が必要になります。

「突然の激しい頭痛」
「意識障害」

といった症状が現れた場合は、迷わず救急車を呼びましょう。

何かおかしいと思ったら速やかに受診を

くも膜下出血の症状の現れ方は人それぞれで、「我慢できる程度の頭痛」から始まることもあります。一時的に症状が治まったとしても、再発して重症化する可能性がある病気です。

死亡率の高い病気だからこそ、「様子を見る」は命取りになりかねません。少しでも疑わしい症状があるときは、速やかに医療機関を受診することが大切です。

くも膜下出血について、脳神経外科の専門医に聞いてみました。

くも膜下出血は「突然倒れる」イメージが強いですが、実際には約20〜30%の患者さんに「警告頭痛」と呼ばれる前兆が現れます。

この頭痛の重要なサインは、痛みの強さよりも「何時何分に突然痛くなった」と瞬間を特定できるような突発的な発症です。また、片側のまぶたが下がる、ものが二重に見えるといった目の異常も、破裂寸前の動脈瘤が神経を圧迫している極めて危険なサインです。

一時的に症状が和らぐこともあり「ただの疲れや風邪」と見過ごされがちですが、様子を見ることは非常に危険です。「いつもと違う」違和感や突然の頭痛、目の異常を感じたら、迷わず脳神経外科を受診するか、救急車を呼んでください。早期発見が、命を救い後遺症を防ぐ最大の鍵となります。

伊藤 圭佑(いとう けいすけ)先生

一宮西病院 脳神経外科 副部長 / 脳卒中センター長
資格:日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医、日本脳神経血管内治療学会 脳血管内治療専門医