三井住友カードは3月9日、公共交通機関向けのソリューションである「stera transit」の現状を説明する「stera transit シンポジウム2026」を開催した。
大西幸彦社長らが登壇し、同社が今後、定期券相当の機能として上限金額を定める機能を導入するほか、Vポイント連携やマイナンバーカード連携など、様々なサービスを提供していく考えを示した。
なお、三井住友カードではこれまで、クレジットカードなどのタッチ決済を使った公共交通機関への乗車について、「タッチ決済乗車」という表現をしていたが、今回新たに「クレカ乗車」という愛称を使うと発表した。三井住友カードの大西幸彦社長は、「クレジットカード決済=タッチ決済という認識が定着しつつあり、利用者に分かりやすく身近に感じてもらいたい」とその理由を話した。
クレジットカード以外のデビットカードなどでもタッチ決済で乗車はできるが、大西社長は、「タッチという動作に重点を置くよりもクレジットカードで乗れるという方が分かりやすい」と判断した。そのため、本稿でも「クレカ乗車」と表現する。
stera transit月間1億件の目標へ、首都圏でも11事業者が相互利用開始
現状、Visaブランドのタッチ決済対応カードは約1億6,000万枚が発行されており、市場に出回っているカードはほとんどがタッチ決済に対応している。Visaカードにおける対面でのタッチ決済比率は60%に達し、さらに三井住友カード発行カードに限ると7割がタッチ決済になっているという。
スマートフォンのApple PayやGoogle Payでの利用も拡大しており、「少なくとも1~2年で『カード決済はタッチ決済』という認識になる」と大西社長は話す。
このタッチ決済を使った交通乗車のstera transitは、この3月末で45都道府県232事業が展開されることになっており、バス台数は約7,000両、駅数では約2,200駅まで拡大した。大阪・関西万博を契機に関西エリアでの導入が進み、2026年3月25日にはいよいよ首都圏11事業者の相互利用が開始される。さらに4月にはJR勢としてJR九州が本格導入を開始する。
利用エリアの拡大に伴い、利用件数も増大。2023年2月には月間53万件だったが、2026年2月には598万件の利用となり、約11倍となった。福岡市地下鉄では定期外利用の約10%、西日本鉄道では同約5%がクレカ乗車になった。空港連絡バスでも利用率が高く、日常利用に加えて旅行者や出張者との親和性が高いとしている。
現在の月間598万件の利用について、2028年度までに月間1億件まで拡大することが目標で、全47都道府県で300事業で導入を目指す。
関西に比べて遅れていた関東での導入では、3月25日に11事業者54路線729駅での相互利用サービスが始まる。JR東日本や京成電鉄など一部路線を除けば、私鉄から地下鉄といった相互直通の路線でもクレカ乗車が利用できるようになる。ちなみに今回のクレカ乗車で最も長距離の相互直通運転は、神奈川県・箱根の強羅駅から栃木県の鬼怒川温泉駅までのルートだという。
これにより首都圏全体では約820駅で利用可能になるが、2028年度までには1,000駅以上に拡大する方針で、大西社長は2026年度にはさらに対応事業者が増える見込みとしている。例えば京成電鉄も駅によっては、このクレカ乗車に対応するとみられる改札機が設置されている。
クレカ乗車の導入効果について大西社長は、特に事業者からの声で一番多いものとして「現金取り扱い削減」を挙げる。多いところでは30~60%の削減効果があったそうで、警備費や輸送コスト、入金手数料など、現金のコストが上昇している昨今、「チャージレスで乗車できるクレカ乗車は最適なソリューション」だと大西社長は言う。
他にもインバウンド対応のコスト削減や、オーバーツーリズム対策でのオフピーク割引など柔軟なキャンペーン設定も可能。stera transitは「クラウドの柔軟性とクレジットカードの後払いを特徴として、全国共通のプラットフォームとして作っている」としており、これまでの取り組みを別の地域へと展開することができるため、これを各地に展開することでそれぞれの課題の解決に貢献したい考えだ。
stera transitでデータ活用、新たな定期券の対応へ
その課題解決に向けて重要な取り組みが、乗降や決済データを分析し活用するためのシステム「Custella Transit」の提供だ。交通事業者に対して無償で提供しており、2025年度には65社、26年9月までには200社へ順次提供していく。
交通事業者はこれまで、例えば利用客がどの国の人か、乗降後にどこで買い物をしたかといった情報が得られなかった。クレジットカードの決済データを組み合わせることで運行計画の最適化や交通事業の効率化、収益の最大化が図れると、三井住友カードTransit本部長兼Transit事業企画部長の石塚雅敏氏は話す。
MaaS向けプラットフォームの「Pass Case」において、企画乗車券などの事前購入型サービスを10事業者に提供しているが、これをさらに拡大。加えて、新たに「事前登録(エントリー)型サービス」を2026年夏にも提供する。エントリー時に登録したクレジットカードなどで乗車すると対象サービスが適用されるというもので、エントリーでは料金が発生せず、実際に利用すると特典が適用される後払いサービスとなる。例えば平日オフピーク割引、商業施設やシェアリングサービスとの連携などが想定されている。
そして事業者、利用者の双方から多く要望が寄せられているのが定期券対応だ。これまでstera transitでは、一部の事業者で一定金額で上限を設ける上限キャップ制が設定されていたが、一般的な定期券と同じ仕組みはなかった。
まずは2027年春頃にバス向けのサービスとして上限制を導入する。月の利用額が一定に達するとそれ以上は徴収せずに乗り放題になるというもの。利用が少なく上限に達しない月は、使った分だけの支払いになるため無駄がない。
さらに2027年秋ごろをめどに、この上限制に対して金額式と区間式の2種類を導入する。金額式は、よく利用する片道運賃額(例えば240円)を登録し、それに応じた上限額が設定される。この240円の範囲であれば、どの駅で乗降しても、どの路線に乗ってもいい、というのが特徴。それぞれの事業者が認めれば、複数の路線でも対応できる可能性もある。
区間式は、従来の定期券に近く、指定した特定の区間を事前に登録するというもの。これもその区間の利用金額が一定に達したら乗り放題になる。上限に達しない場合は使った分だけの支払いになる。
リモートワークや副業など働き方が変化し、これまでの定期券では無駄になる部分があるなどの課題があったので、それを解消する仕組みを導入する。
他にも、乗車そのものにVポイントを付与するサービスも準備。公共交通の乗車でVポイントを提供するのは初めてで、すでに関西、九州の鉄道事業者の一部で採用が決まっており、首都圏でもゆりかもめ、江ノ島電鉄など複数社が検討しているという。2026年度中には10社以上の導入を見込む。
マイナンバーカードの住居エリアや年齢といった情報を使って、「市内の高齢者」を特定した上で敬老パスなどの高齢者割引をstera transitで提供するサービスも準備。まずは4月から兵庫県神戸市のみなと観光バスで実証実験を行う。
さらに今後、イベントと連携した割引サービスも提供する。例えば花火大会やコンサート、初詣など、特定の日時、駅に集中する混雑に対して柔軟にキャッシュバックなどのメリットを提供し、混雑緩和に貢献する。クレカ乗車を促すことで切符購入列やチャージミスでの停滞といったことが起きない、というのが狙い。
stera transitは「導入期から利用促進のステージに入った」と大西社長。クレカ乗車による利便性に加えて、データ活用や様々なソリューションを組み合わせて交通事業者の発展に貢献したい考えだ。

















