
その場に居合わせることができた幸運なオーディエンスは、誰もが圧倒されたに違いない。2025年のインディロックを象徴する傑作『Getting Killed』を引っ提げて、遂に行われたギース(Geese)の初来日公演。それは彼らがライブバンドとしても、現行の若手インディ勢で屈指の存在であることを知らしめるものだった。
『Getting Killed』は混沌と美、虚無と希望、緊張と解放が激しく入り混じったようなグルーヴが渦巻く作品だが、ライブではバンドの演奏能力の高さとアンサンブルの緊密さに支えられ、そのグルーヴがさらに強烈なエネルギーを放射する。筆者が観たのは2日間のうち初日(2月19日)だが、ライブ前半はまだオーディエンスの間に緊張感が走っているように感じられた。しかし「2122」で激しいモッシュが起こってからは観客のエネルギーが爆発し、あとはバンドの勢いもひたすら増していくばかり。パワフルかつ手数の多いプレイで全体を牽引するマックス・バシンのドラム、彼に呼吸を合わせてファンキーなフレーズを的確に被せるドミニク・ディジェスのベース、ステージでは新世代アイコンになりそうなカリスマ性を放つエミリー・グリーンの変幻自在なギター、そして怒りと悲しみと焦燥を内包したキャメロン・ウィンターの唯一無二の歌声──それらがときにカオティックに、ときに静謐に絡み合いながら、どこまでも熱量を上げていく。アンコール最後の「Trinidad」に至っては、危険なほど妖しく美しいグルーヴが醸成され、思わず声を失うほどの迫力だった。
そんな初日のライブの翌日、つまり2日目のライブ前に会場の渋谷SPACE ODDにて、インタビューはおこなわれた。取材に応じてくれたのはギタリストのエミリー。会場の二階席に腰を掛け、昨晩のライブで「2122」の演奏中に裸のラリーズ「夜、暗殺者の夜」のカバーを挟んだこと(2日目はYMO「Firecraker」のカバーを演奏した)、そしてアンコールで初期のレア曲「Smoke In Japan」を演ったことについてから、まずは会話を始めた。エミリーはスポークスパーソン的にガンガン話すタイプではないが、一つひとつの質問にしっかりと向き合い、熟考しながら誠実に答えてくれる様子が以下のテキストからも伝わってくると思う。

来日公演のライブ写真(Photo by Kazma Kobayashi)
―昨日のライブ観ましたよ。
エミリー:ああ、来てたんだ?
―ええ。本当に凄いライブでした。
エミリー:最高だったね、うん。

エミリー・グリーン(Gt)Photo by Kazma Kobayashi
―ライブの最初の方はオーディエンスも息を飲んで見守っている感じでしたけど、「2122」から一気に盛り上がって、バンドも観客もどんどん勢いを増していったように感じました。
エミリー:セットリストで「2122」をあの位置に置いているのは気に入ってて(初日は全15曲中6曲目)。いきなり全員がヒートアップする前に、数曲かけて徐々に盛り上げていくのも悪くないよね。前は「2122」を初っ端に演ってたんだけど、みんな途中でバテちゃって(笑)。でも、うん、昨日はいいライブだったね。
「2122」2025年11月の米アシュビル公演にて
―「2122」の途中で、裸のラリーズ「夜、暗殺者の夜」を少し演奏したと思うんですけど──。
エミリー:(裸のラリーズと聞いて)イエス!
―あれは日本向けの選曲ですよね。かなり嬉しいサプライズでした。
エミリー:「2122」をライブでやるときは、自分たちが好きな他のアーティストの曲のリフを間に忍ばせるのが好きなんだよね。できるだけライブをやる土地に縁のある曲を選ぶようにしていて。裸のラリーズの曲を演奏するチャンスなんてこれまでなかったから、めちゃくちゃ楽しかった。大好きなバンドなんだよね。
―裸のラリーズはどんなところが好きなんですか?
エミリー:そうだね……何カ月か前のある夜、YouTubeで裸のラリーズのライブ動画を観まくったことがあって、5時間くらい。
―5時間も?(笑)
エミリー:音質も画質もヒドいんだけど、最高にカオスで、抗い難くて、逆に瞑想的に感じた。他のラウドミュージックでは得られない感覚を、自分の中に芽生えさせてくれるよね。そこに魅力を感じてる。
―まさに。あとアンコールでは「Smoke In Japan」もやってくれましたよね。調べてみたら、あれはライブでは数回しかやったことがない、かなりレアな曲で。
エミリー:そう、せっかく日本にいるからね。でもあの曲が、なんでああいうタイトルになったかは覚えてない(笑)。
―いやちょうど、なぜあの曲が「Smoke In Japan」っていうタイトルなのか、訊こうと思っていたんですよ。だって、歌詞を読んでもよくわからないし。
エミリー:自分もさっぱりわからないよ! 凄く昔に書いた曲だから。書いた当時はわかってたかもしれないけど、あれからもう10年近くになるから(笑)。でも演ってみて、凄く楽しかったよ。今夜もできるといいな。
―あれは高校生くらいのときに書いた曲ですか?
エミリー:うん、そう。

Photo by Kazma Kobayashi
―ギースは学生時代から一緒にバンドをやっている仲間ですが、あなたにとってギースというバンドはどんな存在ですか?
エミリー:長年の友人であり、自分が心から愛する人たちからなるバンドで、これまで出会ったどの人たちよりも、一緒に音楽を作るのが楽な人たち。彼らとは、すごく意思の疎通がしやすいと感じる。音楽に関して、言葉を使わなくても心が通じ合えるというのは、最高の気分になれるよ。
―そのメンバー同士の結びつきの強さは、ライブからも感じられました。そう言えば、Duolingo(言語学習アプリ)で日本語を勉強してるって読みましたけど。
エミリー:ええー、どこで読んだの?(笑)
―何か覚えた言葉はあります?
エミリー:あんまり……ワカリマシタ(笑)。
―上手ですよ。
エミリー:日本語はまだまだ苦戦中で、本当に難しい。でも学ぶこと自体は楽しんでいて。自分の母国語である英語の理解も深まったと思う。あと、英語を学ぼうと思ったらさぞかし大変だろうな、って想像できるようになった。
―日本人にとって?
エミリー:いや、というか……自分は自分の言語すらまともに話せないのに、別の言語を学ぶなんて本当に難しいよね。
バンドとしての進化、ギタリストとしてのルーツ
―では、アルバムの話を訊かせてください。『Getting Killed』における最大の音楽的特徴は、リズム隊を中心としたグルーヴが軸にあることです。同じフレーズの反復や、その微細な変化によってグルーヴを生み出していくという手法は、過去二作とは大きく異なるものだと思います。今回どのようにしてこのスタイルに辿り着いたのでしょうか?
エミリー:自分たちとしては……曲を作る上で、いろんなことをシンプルにしたいと思っていて。何度も繰り返しプレイできるアイデアやリフやメロディーを見つけようとしていたんだと思う。『3D Country』(2023年の前作)は、1曲の中にできるだけたくさんのものを詰め込もうとしたところが好きなんだよね。それに対して『Getting Killed』で好きなのは、その真逆のアプローチを取ってみたことで。
―そういった今回の方向性は、アルバムを作り始める最初からヴィジョンとして持っていたのでしょうか? それともバンドでセッションを重ねる中で見えてきたものですか?
エミリー:まずキャメロンがアイデアを持ってきて、そこから曲に構築していった感じかな。たいていの曲は、彼が持ち込んだアイデアから生まれるんだけど、そのほとんどが、彼の最初のアイデアからはかなり遠いところまで変化していくことになる。レコーディングの後でさえもね。正直、「また録り直したい」と思うことだってあるよ(笑)。ライブで演奏する過程で曲がどんどん進化しているから、今のものをレコーディングしてれば良かったな、と思ってしまうことがあったり。でも、レコーディングをして、作品として発表したからこそ、今の形に辿り着いたわけで。全ては自然な流れっていうことなのかな。

ドミニク・ディジェス(Ba)Photo by Kazma Kobayashi

マックス・バシン(Dr)Photo by Kazma Kobayashi
―では『Getting Killed』において、自分のギタープレイという観点からもっとも達成感があった曲は?
エミリー:ライブで演奏するのが一番好きな曲と、アルバムで一番良く弾けたと思う曲は違っていて。ライブで一番楽しいのは「Trinidad」。あの曲は、ライブで一番やりたいことが何でもできる曲だから。レコーディングに関しては、「Cobra」が一番楽しかったかな。楽しく書けたパートだった。
―「Trinidad」は昨日のライブでも、ゾーンに入っているようなすごいプレイでしたね。
エミリー:まさにゾーンに入ってたんだよ(笑)。
―あなたにとって、ロールモデルとしているギタリストはいるのでしょうか?
エミリー:その時々で変わるんだけど、今はエイドリアン・ブリューにすごくハマってる。トーキング・ヘッズや、キング・クリムゾンにも一時在籍していたよね。彼がギターという楽器をまるで自動車を運転するかのように、自在に操れるところが好きなんだ。ギターとは思えない音色から、ギターの音色まで、秒単位で切り替えられるのが凄いと思う。
―なるほど、あなたのプレイにも通じるところがありますね。今作のバンドの演奏は、反復による快楽があるという意味ではファンク的とも言えますし、先の展開が読みにくくてスリリングであるという意味ではフリージャズ的だとも言えます。このアルバムにおいて、自分たちの演奏をインスパイアした音楽があったとすれば、教えてください。
エミリー:今作では、スライ&ザ・ファミリー・ストーンとマイルス・デイヴィスをたくさん聴いてた。彼らの音楽は本当にすごいよね。史上最高の音楽のひとつだと思う。
―特にどのアルバムを聴いていましたか?
エミリー:えっと……スライ&ザ・ファミリー・ストーンは『There's a Riot Goin' On(暴動)』をよく聴いてた。最高のアルバムだよね。うん、この世に存在する最高のサウンドのアルバムだと思う。
―まさに今作のギターサウンドは、これまでよりもファンキーでリズミックなフレーズが多いように感じられます。このアルバムであなたはギタリストとしてどのような演奏を意識したのか教えてください。
エミリー:このレコードは、すごくドラムが全面に出たサウンドで、ドラムとリズムが核にある。その次にベースがきている、という感じ。そこで自分が目指したのは……自分のギターについて「リズムセクションの刃先(cutting edge)」って表現してくれた人がいたんだけど、それは自分がやろうとしていたことを一番うまく言い表していると思う。リズムにエッジを利かせつつ、時にはそこから飛び出してメロディーを弾いて、またグルーヴをサポートするのに戻る、っていうのを繰り返していたから。そんな感じかな。

Photo by Kazma Kobayashi
―今の話はリズム隊との関係性の話でもあったと思うんですけど、キャメロンのボーカルとはどのような関係性のプレイを心掛けていましたか?
エミリー:まず、ボーカルメロディーの邪魔にはなりたくなかった。でも「Trinidad」だけは例外で、思い切り前に出てもいいって、自分に許可を出してるけど(笑)。自分が刻むリズムはドラムとベースを支えるためにあって、奏でるメロディーはボーカルを支えるためにある、ということを意識したね。
―キャメロンのソングライティングや歌い方に、これまでとの変化は感じましたか?
エミリー:うん、もちろん。彼はソングライティングにおいても成長していると思う。「過ぎたるは及ばざるが如し」という部分でも成長したし、少ない歌詞で曲を書くこともうまくなったし、多い歌詞で曲を書くこともうまくなった。自分のソロアルバム(2024年作『Heavy Metal』)を書いて、レコーディングしたことで、ソングライティングについて多くを学んだんだと思う。これは自分が勝手に思っていることで、彼は違う考えを持っているかもしれないんだけど──長時間一人きりでアルバムを作ったことで、一人ではできない、バンドでなきゃできないこと、そしてバンドでどんな曲がやりたいかを思い出したんじゃないかな。彼がソロ作品で学んだこと、そしてバンドが前作から学んだことを、今回は持ち寄ったように感じる。ソングライティングのプロセスっていうのは、「何をやらないか」を決めていくことだと思っていて。今回は、自分たちが「何をしたくないか」っていうのが、バンドの前作、そして彼のソロ作のおかげで明確にあったんだと思う。

キャメロン・ウィンター(Vo, Gt, Key)Photo by Kazma Kobayashi
混沌としたフィーリングの背景
―『Getting Killed』は、不安や恐怖と安らぎ、緊張と解放、悲しみと希望といった相反する要素が混沌としたサウンドの中で激しく渦巻いているように感じられます。あなたとしては、サウンドが醸し出すフィーリングという点ではどういったものを目指していましたか?
エミリー:もう君が上手く説明してくれてるよ(笑)。そうだね……自分からすると、レコーディング中というのは、アルバムの全体像を思い描くのは難しくて。むしろ、曲単位、あるいは特定のパートのサウンドに集中して、それをどう鳴らしたいかを考える方が取り組みやすいんだよね。だからどう言えばいいのかな……自分にとっては、アルバムを構成するそれぞれのピースがどうやって収まるべき場所に収まって一つの作品にまとまるのかが、最終ミックスまで全然見えなくて。実は最終ミックスを聴くまで、いい作品になるとは思えてなかったし(笑)。自分が想像していたものとは少し違っていたから。と言いつつ、正直な話、どんな作品に仕上がるのか想像もつかなかったわけで。うん、だから……なかなか答えるのが難しい質問だね。
―このアルバムが醸し出すフィーリングは、混沌として先が見通せない今の世界のムードと共振するものとして受け取っているリスナーも少なくないと思います。ただあなたにとって、そのような解釈は納得が出来るものですか?
エミリー:うん。自分たちが住んでいる世界を作品に反映させないで音楽を作る方が難しいと思う。自分たちも、自分たちの音楽も、すべてこの世界から生まれているわけだからね。だからそう……自分としては、このアルバムに込められたすべての感情だったり、テーマだったりを、自分の生活の中にも見つけることができるし、他のメンバーも同じだと思う。そして、それはアルバムを聴く人にとっても同じだと信じてる。そこに関しては、しっかり伝えられたと思ってるよ。

Photo by Kazma Kobayashi
―アルバム全体の流れも非常に美しいですけど、オープニングを飾る「Trinidad」は、13/8拍子という複雑な拍子ですよね。
エミリー:うん。
―それもあって、この曲はどこか不安定な雰囲気や、先が読めないことでの緊張感を聴き手に与えます。こうした曲をアルバムの一曲目に持ってきた狙いを教えてください。
エミリー:あれはほかの場所に置くっていうのが、ちょっと想像できなかったんだよね。うん、そうとしか言いようがないかな(笑)。

Photo by Kazma Kobayashi
―タイトル曲の「Getting Killed」にはウクライナの合唱団の声がサンプリングされています。それはウクライナが戦争被害の当事国であることと、何か関係がありますか? それとも純粋に音として惹かれたのでしょうか?
エミリー:自分が知る限りでは、キャメロンがどこで見つけてきたのかは覚えていないけど、サウンドが気に入って使ったサンプルで。たまたまそれがウクライナの合唱団だった、っていうだけで、直接関係があるわけではないと思う。
―ちなみに、これを訊いたのは、「Getting Killed」では「世界にはより大きな悲しみを感じている人がいるなかで、自分の個人的な悲しみにどう向き合うべきかわからない」ということを歌っていると私は解釈したので、ウクライナの合唱団のサンプルが使われていることがすごく示唆的だと思ったからなんですよね。
エミリー:いま歌詞を思い出してるところなんだけど……うん、この曲には避けられない悲しみの予感というのがあると思うし、そこに自分は共感する。どんな状況であれ……自分はそれなりに良い生活を送れているけど、それでも深く心を抉られることがあって、この曲が描いている気持ちをそのまま感じることがある。言葉で説明するのは難しいけど、彼はこの曲の歌詞で真実を語っていると思う。
―アルバム最後の「Long Island City Here I Come」は劇的なクライマックスで、凄まじいカタルシスがありますよね。
エミリー:あの曲は、レコーディングしたその日に覚えて、2テイクで録った感じ。だから、少なくともバンドとしては、前もって「こういうことをやろう」と考える暇もなかった。その分、あまり決め込まずに演奏することができたね。キャメロンのボーカルも、かなり自由だし。インストの上に言葉を吐き出している感じで。それが戦略的にうまくいったとも言えるんじゃないかな。
―なるほど。もう次のアルバムが完成しているとの噂もありますが──。
エミリー:何一つできてないよ。
―では、どんなものが作りたいか、現時点であなたが考えていることは?
エミリー:現時点では……どうしたいのか、正直さっぱりわからない。今も、出して間もない新作に気持ちはフォーカスしていて、これまで行ったことのない場所でライブをやって、アルバムの曲をライブでどう演奏するのか、まだ手探り状態でもあるし。ライブでの演奏に満足できた時点で、きっと飽きるだろうから、そうなったら今度はなんで飽きたのかを考えて、その要因を突き止めて、それが次の作品を作る上での糸口になるんじゃないかな。
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Photo by Kazma Kobayashi

Geese
『Getting Killed』
発売中
