希少な開発最終期のプロトタイプに20年ぶりに試乗!|ブガッティ・ヴェイロン【後編】

この記事は「自動車界を震撼させたモンスター|ブガッティ・ヴェイロン【前編】」の続きです。

【画像】登場から20年後に再び試乗し、ブガッティ・ヴェイロンを再検証(写真8点)

20年ぶりに開発プロトタイプで真価を試す

我々はケント州アシュフォードにある「ファーロンガー・スペシャリスト・カーズ」を訪れた。20年の時を経て、ヴェイロンが今でも乗る人を驚愕させ、感動させるのかを確かめるためだ。ただ、試乗に用意されていたのは普通のヴェイロン16.4ではない。開発最終期のプロトタイプ「XP5.5」と呼ばれるヴェイロンで高速走行に特化したリアウィング、市販車では見られないタイヤハウスからの整流のために”窪み”がつけられたドアをもつ。

「市販車と異なる装備は、XP3シリーズを用いて試験されました」とファーロンガーのセールス・ディレクター、マット・ハニーセットは語る。そして彼いわく。XP5.5はこれらを”標準装備”した唯一のプロトタイプなのだそう。

なおブガッティは「優雅さに欠ける」という理由で、整流に多大なる恩恵をもたらしたであろうドアの窪みを市販車に採用することを見送った。なお、元ブガッティ最高技術責任者のヴォルフガング・シュライバー博士の言葉は重みがあった。「車を通過する空気の1立方インチごとにドラッグ係数は悪化し、少しずつ最高速度を失います」

XP5.5は5万kmを走破しているにもかかわらず、オリジナルの塗装とインテリアが新車時並みの状態を保っていることは、ブガッティの製造品質の高さを証明している。もっとも、ブガッティ車が粗末に扱われるとはイメージしにくくもあるが。

ドライバーシートに身を沈めると、3本スポークステアリングホイールと機械切削されたセンターコンソールにアール・デコ調のディテールが施された、驚くほどシンプルなインテリアが目に入る。スタートボタンを押すとややハイピッチの独特なセルモーター音を作動させながら、巨大なエンジンが目覚める。エグゾーストノートは野太い低音で16気筒というよりも、V8エンジンを搭載したクルーザーのような印象を受ける。

正直、これほど特別な車を運転するのはやや緊張する。低速域での変速ショックは記憶していたよりも大きめで、1速のギア比が非常に大きいように感じる。ヴェイロンの最小回転半径が劣悪なのは有名で、図太いAピラーとドアミラーの組み合わせで街中を運転するのは気を遣う。最高速のポテンシャルを考慮すれば、ヴェイロンの市街地での乗り心地はまずまずだ。油圧式サスペンションにより車高は、瞬時に調整できる。「ハンドリング」モードを選択すると車高は45mm下がり、同時に巨大なリアスポイラーが立ち上がる。なお、「レギュラー」モードでは137mph(220km/h)に達すると、ハンドリングモード同様のセッティングに切り替わる。

もう20年も前の車ゆえに念のために記しておくと、ヴェイロンで最高速トライアルに挑むにはドアとサイドシルに間に設けられた鍵穴に「トップスピード・キー」を差し込みリミッターを解除しなければならない。ヴェイロンはリアスポイラーを3度の角度がつけられた状態で格納し、フロント・ディフューザー・パネルが閉じられ、車高はフロントで65mm、リアで70mm下がる。当たり前だが、最高速に最も有利な空力特性を実現させる。フロント・アクスルのダウンフォースはゼロ、リアはわずか40kgとなる。エンジンは公式には最高出力1001psが謳われているが、実際には1050psを発生する。最高速トライアルに挑む際、向かい風があった場合に備えてである。これは本当だ。

現時点では慎重さが求められる。路面がまだらに湿っているからだ。アクセルペダルに軽く触れただけでも巨大なトルクの波が押し寄せてくる。ヴェイロンはそんな波を乗りこなし、低いうなり音とともに地平線へと瞬間移動していく。ヴェイロンが有する魅惑的かつ戦慄的なポテンシャルを一瞥しながら、日差しが路面を乾かすことを待った。

やがて訪れたアクセルペダルを踏み込む機会、ヴェイロンの全力疾走は相変わらずスリリングで武者震いさせられる。現代のランボルギーニ車、レヴエルトと比較しても遜色ない強烈な加速であることを報告しておく。ハイパワーマシンならではの”スピードが出るにつれ加速力が増す”フィーリングは、独特である。

助手席に座るハニーセットがくすくす笑っている。彼は何台ものヴェイロンを運転してきた身だが、ヴェイロンのフルブーストはいつでも興奮させるようだ。ファーロンガーはフェラーリとランボルギーニをメインに取り扱う専門店だが、長年にわたってブガッティEB110も手掛けてきた。

「正直なところXP5.5がやって来た時、我々はあまり詳しく知りませんでした。2015年以降、ヴェイロンを何台か販売していましたが、友人がXPシリーズ(ヴェイロンのプロトタイプ)について教えてくれたのです。最初は保管のために預かり、その後メンテナンスも引き受けるようになりました。XP5.5を所有できることを誇りに思っており、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードを含む、いくつかのイベントに参加する予定です(訳注:すでに参加済みで各種ソーシャルメディアに取り上げられている)」

オーナーはブガッティから直接、XP5.5を入手したそうだ。「この車両はメディア向けの試乗車で、かつてはナンバープレート『WF EB 525』を付けていました。最高速を検証した際には他の4台とともにエーラ・レッシェンにいました。聞くところによると、すべてのプロトタイプが400km/h超を記録したそうです。ブガッティからの各種書類が付属しており、最後の16.4プロトタイプであることが確認できます。シャシーナンバーの末尾は55055で、社内では”XP5.5”と呼ばれていました。売却前にエンジンとトランスミッションがオーバーホールされ、最高速が407km/hに達することを確認するテストも行われました。整備で様々なパーツを取り外した際、ホイールアーチなどに『5.5』とチョークで書かれた文字をたくさん見ることができます。間違いなく本物です」と続けた。

ファーロンガーは時折ヴェイロンを販売することもあったが、決して積極的ではなかった。周知の事実として、維持や修理コストが莫大にかかるからだ。

「お客様の車をお預かりして、依頼通りにブガッティ・ディーラーに点検に持ち込んだことがありました。請求金額は驚くほど高かったのですが、ヴェイロンの構造が複雑なので、修理明細を読み込むと”納得”せざるを得ませんでした」

ヴェイロンと寝食を共にし、理解する

ヴェイロンも車であり、車は機械であり、機械は故障するものだ。「サイモン・ファーロンガーと私は元々エンジニアリング出身なので”複雑なものは必ずしも複雑である必要はない”ということを知っています。ヴェイロンを1台購入して、コスト問題に実用的なアプローチで維持してみました。2年間にわたって我々のサービス工場で分解し、精査し、寝食を共にし、怒り、笑い、やがてヴェイロンに詳しくなったと自負しています。16個すべてのオイル・ドレイン・プラグを見つけましたし、今ではバキューム・ポンプで24リッターのエンジンオイルを吸い出すなんてお手の物です。2年間の歳月を経て、ヴェイロンは”身近”になった気分です。ツール、技術データ、パーツは一通り揃っており、F40、F50、ディアブロ・イオタなどと並んで、ヴェイロンのメンテナンスや修理ができるようになりました」と続けた。

極論に聞こえるかもしれないが、ブガッティのディーラーはすべての車が毎日400km/hで走るという考え方でヴェイロンのメンテナンスを施す。しかし20年が経った今、ファーロンガーはよりオーナーの声と情報に基づいたアプローチを採用している。つまり、一般的な目線から”過剰”に感じられることを省いているのだ。ファーロンガーでのメジャー・サービス(日本の車検整備に相当する整備)は7500ポンド(VAT別)で、車両点検のための全パネル取り外し、全機械部品の完全清掃と詳細点検、エンジンオイルとフィルター交換、トランスミッションオイルとフィルター交換、フロントおよびリアデファレンシャルオイル交換、ハルデックスオイル交換、花粉フィルター交換、エンジンエアフィルター交換、ブレーキフルード交換、車両・シャシー・ボディコントロールモジュールの完全点検と報告書作成が含まれる。正規ディーラーではエンジンオイル交換すらできない金額だ…。

ファーロンガーが唯一、手掛けていないのはトランスミッションのオーバーホールとリビルドだが”必ずやる”とヴェイロンオーナーには頼もしい。

筆者にとって、ヴェイロンのトランスミッションはエンジンと同様に印象的なものだった。イギリスのリカルドが開発したDSGトランスミッションなしには、ヴェイロンの実現は不可能だっただろう。同社でヴェイロンのDSG開発プロジェクトを指揮したマイク・エヴェリットは”ビーチボールの上で象のバランスを取るようなもの”と表現し、ブガッティのエンジニアたちには”エンジンは我々のトランミッションにとって重要なアクチュエーターである”とユーモラスに発言していた。プロジェクト後期、エンジンは1速でトルク制限をしない、タイヤのグリップ力は25%向上させる、そしてヴェイロンは計画よりも車重が増すことが決まった。これにより、DSGのギアは非常に高価な真空アーク再溶解鋼となった。

予想に反したハンドリング性能

ヴェイロンでもう一点、予想に反して印象的なのは、ハンドリング性能かもしれない。ハニーセットの素晴らしい道案内により、ホットハッチに適しているように思えるようなワインディングでもヴェイロンを走らせた。XP5.5は実に俊敏かつ落ち着いてコーナーを攻略し、例えるなら車両重量が1500kgしかない車のようにすら感じられた(実際は1888㎏)。前後重量配分はフロント45:リア55とまずまずだが、それでもリア・アクスルには1トン以上が載っている。ほぼマクラーレンF1一台分である。ステアリングフィールとレスポンスはクリーンかつ正確で、車は非常にバランスが良く、ハンドリングは極めてニュートラル。ドライバーの技量以上に自信を持って攻めることができる。ただし、スピードメーターを確認しないと想像よりも遥かに速い速度で駆け抜けている。気を付けないと危険だ。

ヴェイロンがいかにドライバーに自信を与えてくれるかの証として、最大のスロットル・レスポンスを得るためマグネシウム製パドルを使って手動でギアを選択している自分に気づく。タコメーターが低回転の状態でスロットルを全開にすると、トランスミッションがいかに優秀であっても、適切なギアを見つけてターボチャージャーをスプールアップするまでに一瞬の”間”がある。ヴェイロンは弓矢であり、この間は弓弦を引っ張る時間と捉えれば妙に納得できる。

なお、ヴェイロンのトラクション・コントロールは、かなり大雑把に感じる。凸凹のある路面で加速した際、トラクション・コントロールが介入したわけだが、随分と長い間パワーがカットされることを味わった。点火カットというよりは「停電」と表現した方が適切かもしれない。もはや20年選手であることはさておき、よくよく考えてみればターボブーストがたき火にガソリンを投げ込むように立ち上がることを考えれば、いかなるスリップも許容させるわけにはいかないのだ。

間違いなく、ブガッティが20年前にヴェイロンで成し遂げたことは驚くべきものであり、しみじみと感心させられる。掲げた目標を完璧に達成しただけでなく、1001psという途方もないパワーを、誰もがアクセス可能で実用的なものに見せたのだ。これほどのパフォーマンスは常に衝撃的だが、ヴェイロンは冷静かつ安定している。刺激や触覚に訴えかけ、より声高かつ内臓に響き、よりエンゲージングなスーパーカーは存在するのは事実である。しかし、自動車史におけるヴェイロンの地位は確固たるものだ。

ハニーセットはXP5.5を500万ポンドと評価している。いわゆる”標準車”の中古車相場は現在130万~140万ポンド、スーパースポーツで最大250万ポンドと見積もっている。

「F50を450万ポンドで販売している我々から見れば、ヴェイロンは過小評価されています。ヴェイロンは間違いなく自動車史に名を残す存在であり、生産台数も多くはありません」。事実、ヴェイロンは合計450台が生産され、そのうち254台は標準車の16.4である。

ヴェイロンの投入から20年が経過し、電動ハイパーカーメーカー、リマックが参画する新生ブガッティが手掛けるトゥールビヨンは今、開発の最終段階にある。8.3リッター自然吸気V16エンジンを搭載し、ハイブリッドにより合計最高出力は1800bhp、0-250mph加速は25秒と謳われている。なんとヴェイロンよりも30秒も速いのだ。フェルディナント・ピエヒも天国から満足気に微笑んでいることだろう。

2005年ブガッティ・ヴェイロン

エンジン:7993cc、64バルブ W16、バンク毎 DOHC、4基ターボチャージャー、電子燃料噴射・エンジンマネジメント

最高出力:1001ps/ 6000rpm 最大トルク:1250Nm/ 2000~5500rpm

トランスミッション:7速デュアルクラッチ、4WD ステアリング:ラック&ピニオン、パワーアシスト

サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、セルフダンピング・油圧

ブレーキ:カーボンセラミック・ディスク 車両重量:1888kg 最高速度:407km/h 0-60mph加速:2 .5秒

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom)

Words:John Barker Photography:Charlie Magee

取材協力:Furlonger Specialist Cars(simonfurlonger.co.uk)+Mr.Egon Zweimuller