軽快な加速と、路面の凹凸を静める乗り心地。そんな上質な走行感を得るために必要なものはなにか? 高級フレームや軽量ホイール、クッション性に優れるサドルというのが一般的な答えだろう。そのアプローチに間違いはないが、簡単に、もっと確実に効果を発揮するのが正しい空気圧の管理である。
タイヤは車体を支えると同時に、路面からの振動を和らげ、コーナーではグリップ、直線ではトラクション(駆動力)性能に決定的な影響力を持っている。初心者ならずとも、自転車のブランドやグレードに目を奪われがちだが、走行感を支配的に決めているのは路面に接地しているタイヤである。
空気による圧力によって、タイヤはしなやかにもスパルタンにもなる。しかも、経験を積めば0.2barの違いでもライダーは感じられる。そして、その性能を引き出すには、ちょっといい空気入れがあると非常に便利だ。
さて、空気入れについて調べると、驚くほどに種類が多い。安いものはディスカウントストアの980円から、9万円もするローズウッド製ハンドルの製品まである。そこで初中級者のオススメのアイテムを厳選。
空気の流入量が増える新型バルブから電動ミニポンプまで、最新事情を含めて、あなたに合った空気入れの選び方を紹介しよう。
バルブは3種類
空気入れ選び最初の一歩は、自車のバルブの種類を確認すること。一般的に使われているのは、以下の3種類。
英式バルブ(ウッズ/ダンロップバルブ)
ママチャリやシティサイクルで最も普及している方式。街の自転車店にある空気入れのほとんどがこれに対応しているため、日常生活での利便性は高い。
米式バルブ(シュレーダー/アメリカンバルブ)
入門用のMTBやクロスバイクに採用され、中央のピンを押して弁を開閉する。ガソリンスタンドの空気入れがそのまま使えるのもメリットである。
仏式バルブ(プレスタ/フレンチバルブ)
上部のロックナットを開閉するため、作業性は良くない。ただ高圧時の安定性が高く、微妙な減圧もしやすくスポーツバイクの標準方式となっている。
とはいえ、5000円以上の空気入れは仏式と米式を兼用できる製品が多く、英式にもアダプターで対応することが多い。ただし、中には仏式専門のタイプもあるので確認をしておこう。
フロアポンプの選び方
空気を入れるアイテムは大きく分けて3種類。自宅用のフロアポンプ、小型で携帯性に優れる電動ミニポンプ、充塡したガスを流入させるCO2ボンベがある。そして、自宅用と外出用の2つを揃えよう。
まず、買うべきはフロアポンプだ。選ぶときは空気圧ゲージ付きでフットベースのしっかりしたモデルがいい。安定して狙った走行感にするには空気圧ゲージは必須だし、空気を入れる作業時に足元の安定が悪いと作業がしにくいからだ。
メーカーのカタログをみるとロードバイク用とMTB用があることに気がつくはず。両者の違いは空気量と圧の違いである。ロードバイク用は空気量は少ないが高圧、MTBは低圧だが空気量が多い。この特性に合わせて前者はシリンダーを細く、高圧になっても最後までポンピングが軽い。後者は圧が高くならないのでシリンダー径を太く吐出量を大きくしているのが特長だ。
初中級者がはじめて買うモデルなら、ちょっと値は張るが予算は4000〜1万円ぐらいのメジャーブランドがいい。TOPEAK・ジョーブロー ローディー EX(3960円)は、3.5インチの大型エアゲージ付きでスチールシリンダーを備えた定番商品。仏式と米式が自動的に切り替わる“スマートヘッド”が採用され、アダプターを使わずに両方のバルブへ即座に対応できる。
上位モデルで使われているポンプヘッドが別売りオプションとして用意されており、英式バルブやボール用ニードルも用意されているので、後々、高級モデルと同じような作業性へとカスタマイズも可能だ。また、補修パーツも充実しているので、長く使えるポンプだ。
安価なモデルは補修パーツもなく、エアゲージもないため使い捨てになりがちだ。筆者は何本も空気入れがあるが、もっとも古いモデルは40年以上前の製品だが、未だに現役だ。
新型バルブ
自転車用バルブは先に紹介した3種類で99%のシェアを誇るが、仏式バルブの弱点を克服した新製品が登場し話題を集めている。海外でも評価の高い2つの製品を紹介しよう。
ターボフローバルブ
TOPEAKが考案したシステムで、最大の特長は空気の流入量が従来の3倍になること。チューブレスタイヤのビードを上げるときに最大の効果を感じるが、それ以外のときにも恩恵はある。それはポンピングが驚くほど軽くなる。仏式バルブの弱点がここにあることは、新世代バルブが登場するまでは考えもしなかったことだ。
しかも、先端のコア軸が太いので、仏式バルブのように曲げてしまうこともない。取付けはバルブコアを外し、上からターボフローバルブを交換するだけ。しかも、専用のポンプヘッド(ラピッドヘッド)を使うと脱着時のエア漏れもなく、クリック感もあって操作性に優れている。
クリックバルブ
もうひとつ人気を集めているのが、シュワルベが展開するクリックバルブだ。ポンプヘッドをバルブに脱着するときにパチンという音と共に明確なクリック感があり、誰が扱っても誤操作がない。仏式以外にも米式、英式が用意されているので、ママチャリからロードバイク、MTBのすべてをクリックバルブで揃えられる。経験するまでは大きな魅力に感じにくいが、一度、経験すると元には戻れない。
バルブは永らく革新のないパーツだったが、ここにきて他にも新型が続々登場。軽量でアルマイト処理の美しいバルブやチューブレスタイヤ用など、用途に応じて個性的な製品が出てきているので、チューンナップやカスタマイズを楽しむアイテムにもなる。
出先のパンク
最後に外出先で使うアイテムを紹介しよう。種類は手動ミニポンプ(インフレーター)、電動ミニポンプ、CO2ボンベの3つ。シェアでいうと手動ポンプが圧倒しているが、ここにきて電動ミニポンプの人気が高まっている。
手動ミニポンプはコストが安く、電池切れの心配がない。ただ、パンクしたときにイチから空気を入れるのに、数百回のポンピングが必要だ。製品によっては作業中に仏式バルブのコアを曲げてしまう可能性もあるので、中上級者向けといえるだろう。
人気急上昇中の電動ミニポンプの魅力は、なんと言っても手間いらず。それをスイッチひとつで加圧してくれる。ただし、動作中は爆音がするので外出先での使用が前提となる。家から出発するときにも便利という声もあるが、屋内使用は避けた方が無難だ。
また、いろいろなメーカーから製品が出ているが、すぐに壊れてしまう製品も多く、やはり実績のあるメーカーの製品を選ぶのが安全だ。TOPEAK・Eブースター デジタルミニは、わずか120gの小型軽量ボディに、最大120psi(約6.9bar)の充填能力を凝縮。視認性に優れたTFT液晶を搭載し、設定圧で自動停止する機能を備える。フル充電で700x25cタイヤを約5本満充填でき、USB-Cで45分での急速充電が可能だ。
本命の使い方ではないが……デジタルエアゲージ付きの電動ミニポンプは、空気圧セッティングを微調整するのにも最適である。手動ポンプで0.2Bar刻みで乗り心地を確認するのは面倒でも、電動ミニポンプなら楽勝だ。路面コンディションに合わせて、峠の下りでは圧を下げるといった使い方もある。
最後に紹介するのはCO2ボンベ。この製品のアドバンテージは、なんと言っても一瞬でタイヤを膨らませることができることだ。使い切りなのでコスト面を指摘する人もいるが、筆者はCO2ボンベを永らく愛用している。
真冬や真夏などコース脇で作業するのがしんどいときも、すぐにコースへ復帰できるのは大きな魅力だ。そして、パンクする回数を考えると、年間あたりの支出はわずかなもの。20年以上、CO2ボンベを使ってきているがコストが気になったことはない。
ただし、CO2は空気と比べ透過率が高く減圧が早いのが弱点。コース復帰後、自転車店があれば、空気に入れ直した方が安心である。また、口金は気密性が求められ、パッキンが劣化するため2~3年ごとに買い換えるようにしている。
駆け足で空気入れの最新事情を紹介したが、タイヤのセッティングで走りが変わることに目覚めると、空気入れにも愛着が湧くようになる。これまで当たり前だと思っていたことも、機材にちょっと工夫をすることでストレスが解消される。その最たるものが空気入れである。







