ヤングスキニー、初の武道館で刻んだ誓い──「音楽だけには嘘をつかない」

2月17日、ヤングスキニーが初となる日本武道館でのワンマンライブ『いつか僕は誰もが羨むバンドになってやる日本武道館』を開催した。結成から約5年半、とうとう辿り着いたロックの聖地。公演タイトルは1stアルバム収録の人気曲「らしく」から取られたもので、そのアンセムで歌われている通り、やっぱり武道館でも彼らは彼らのままだった。だからこそ、いつも通り過剰なほどに素直なかやゆー(Vo&Gt)がこれからも音楽を奏で続けると誓った時、その言葉に嘘がないことがハッキリとわかって、彼が類稀なほどに頼もしいロックアイコンであることを再確認した一夜だった。

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ライブは彼らが初めてリリースした楽曲「世界が僕を嫌いになっても」からスタート。深く息を吸って歌い出したかやゆーをピンスポットが照らし出すと、一塊となった大きな歓声が会場を揺らして、かやゆーは一瞬面食らったようなリアクションを見せる。続く「ヒモと愛」で一斉に拳が上がると、ゴンザレス(Gt)とりょーと(Ba)が両ウィングに駆け出す。どこまでもパーソナルな歌がバンドの力を借りて空間を押し広げていく様子を目の当たりにして、いよいよ武道館にやってきたという実感が充満していく。

「エゴサすると相変わらず『かやゆーに抱かれたい』とか『遊ばれたい』とか出てくるんですけど、日本武道館でもゴミ人間やらせてもらってもいいですか?」。その言葉に導かれるのはもちろん「ゴミ人間、俺」。さらに「今日は僕の虜にさせちゃいますんで、最後までよろしくお願いします」というMCを挟んで繰り出されるのは「本当はね」。早くも代表曲の連打で熱量を高めていくと、メンバーも徐々に身体がほぐれてきたようだ(後のMCによれば「最初は緊張したけど、途中から『終わったらとんでもない打ち上げできるな』って」とのこと)。かやゆーは遠くスタンド席の後方を見渡しながら、そのサイズ感に喉を馴染ませるように音源よりも伸びやかなロングトーンを放つ。

セットリストには、公演1週間前にリリースされたばかりの最新アルバム『理屈で話す君と、感情論の僕』が全曲組み込まれていた。特に序盤の「本音」「るっせぇ女」「カレーライス」という三連発は、彼らの進化を鮮烈に示していたように思う。チューニング中の静寂を破るように演奏された「本音」は洗練された音像が印象的で、一音一音を粒立たせながら光を放つギタートーンや爽やかな風のように流れるストリングスの音色が、刹那的な思いに厚みを産んでいく。「るっせぇ女」はこれぞヤンスキといった軽やかなすれ違いソングで、尖りと丸みのコントラストはさらに極まりもはや職人芸の領域だろう。アルバムでも異彩を放つ「カレーライス」で、牧歌的で「みんなのうた」的なアレンジメントが武道館を温かい空気に包む。新たな手札を携えた彼らは、確実に表現の幅を広げていた。

中盤には、客席中央に設けられたサブステージにてアコースティックセットでの演奏を披露。オーディエンスとの物理的な距離がグッと縮まり、4人のスタジオに招かれたような、あるいは宅飲みに誘われたような親密な空気感が心地良かった。素朴な音の中で改めて浮かび上がる、かやゆーのソングライティング能力。どうしようもなく優しいメロディは、どんなに身勝手でも数千人の心を鷲掴みにしてしまう説得力を持っている。「三茶物語」で大合唱を巻き起こすと、かやゆーは「こんなにみんなで楽しめる日を作れるとは思ってませんでした」とこぼした。メンバーがステージから降り、一人残ったかやゆーが弾き語ったのは「雪月花」。その息遣いすら感じられるほどの繊細な歌唱で、孤独なアーティストとしての一面も感じさせた。

メインステージに戻った3人によるヘヴィなセッション、そして「ハナイチモンメ」「愛の乾燥機」とディスコグラフィーの中でもとりわけ疾走感のある2曲からライブが再開される。ラウドロックを通過したしおん(Dr)の一打一打がパワフルなドラミング、歌と言葉に落としきれない心情を代弁するようなチョーキングがツボを突くゴンザレスのギターフレーズ、詞の隙間を縫うように動いてアンサンブルを繋ぐりょうとのベースライン。ヤングスキニーの強さは決してかやゆーのカリスマだけによるものではなくて、彼らが「バンド」であるからだということを、この日誰もが理解したに違いない。「一人のゴミがこんな大勢の前で歌を歌ってます。やっぱ俺、バンド好きですわ」と語ったかやゆーもきっとその一人だ。

ゲストボーカル登場、そして「芯を貫く」と誓ったかやゆーの言葉

いよいよライブも終盤かという頃に、嬉しいサプライズが。「ベランダ」の2コーラス目にゲストボーカルの戦慄かなのが姿を表すと、割れんばかりの歓声が武道館の天井を衝く。キュートなハイトーンが重なって、揺れ動く恋愛模様が立体的に立ち上がった。振り回す僕と振り回される君、甘さと苦さ、優しさとクズっぷり。ヤングスキニーの持つ様々な二面性、安心と裏切りの交差がリスナーを惹きつけるのだと気づく。だって先ほどまで火柱が上がるステージでアダルトな魅力を放っていたかやゆーが、今はチルなサウンドに身体を揺らしていて、しかもその歌詞は「綺麗にするためのワンコイン/とりあえず今日は君が出してよ」(「コインランドリー」)である。

かやゆーは語る。「一番大切なのは嘘をつかないこと。めっちゃ難しい。生きてたら、カッコつけるために、見栄を張るために、嘘をついてしまう。でも俺は音楽だけには、俺の作る歌だけには嘘はつかない。俺の歌の中にある本質までちゃんと見抜いてほしい。俺はこれから芯を貫く」。そうして鳴らされた「精神ロック」は、弱くて繊細で自己中心的な剥き出しの人間だからこそ歌える音楽として、ロックを再定義していく。

クライマックスに向けて4人の演奏には一層熱が籠り、オーディエンスはその一挙手一投足を見逃すまいとステージを見つめる。「音楽で感じる幸せが僕にとっての一番の幸せなんだなって、最近改めて思います」。これまで度々、そのモチベーションを「モテたいから」と語っていたかやゆーから、意外な言葉が放たれた。「大切な人を作ってみたいと思ったりもしますけど、結局僕は自分勝手だから、最終的に音楽を取ってしまうと思う」。それは決して強がりでもカッコつけでもない告白だった。「stay with me」の「不誠実に生きてるから普通の幸せはあげれない」というフレーズが、言い訳ではなくてむしろバンドマンとしての決意として響き渡る。そして本編ラストに選ばれたのは「憂鬱とバイト」。大学を辞め親からの仕送りを止められた20歳のかやゆーが綴ったリアルな葛藤が、今日は祝福のファンファーレとなった。

巻き起こるアンコールに応え再登場した4人は、プレッシャーから解き放たれたのか、すっかりハイテンションだ。かやゆーが「楽しんでいただけましたか?」と投げかけると、大きな拍手が返される。お待ちかねの「らしく」では、「飯は食えないがちょっとくらいは/稼げるようになってきた」の歌詞を「飯は食えないが今日、武道館に立ってしまったぜ!」と変えて、「僕は僕だ」のシンガロングを巻き起こした。正真正銘のラストは、かやゆーが一番好きな曲だという「誰かを救ってやる暇などないけど」。「ここでこの歌を歌うヤングスキニーが一番カッコいい」という演奏前の言葉の通り、大盛り上がりの大団円や予定調和の感動よりも、ヤングスキニーらしい馬鹿正直な本心を歌うこの曲を、ともに記念すべき一夜を過ごしたリスナーに届けたかったのだろう。静かに、しかし確かな共感と共鳴を呼んで、ヤングスキニーの初武道館公演は幕を下ろした。

武道館に立ったからといって、彼らが別の何者かになるわけではない。むしろこの夜は、どれだけ広いステージに向かっても彼らは変わらないのだと証明する時間だった。