「21歳で身体にガタがきた」「26歳で歩けないほど膝が悪くなった」「体力がなさすぎて就職できない」など、自身の虚弱体質にまつわるエッセイが反響を呼んでいる“絶対に終電を逃さない女”さん。2025年11月に最新作『虚弱に生きる』を出版した“終電さん”に、虚弱体質のつらさや、虚弱として生きる工夫などについて話を聞きました。
だれかにわかってもらうことは諦めていた
-『虚弱に生きる』には、原因不明の体調不良や体力のなさ、疲れやすさなど、終電さんの虚弱エピソードの数々がつづられています。自身の虚弱体質に気づいたきっかけは?
小学校高学年から場面緘黙症(ばめんかんもくしょう:ほかの状況では話しているにもかかわらず、学校など特定の場で声を出して話せなくなる状態)の症状が悪化して、メンタル面の調子が慢性的に悪い状態はありましたが、体力がガクッと落ちたのは21歳頃からですね。
不眠や過眠で生活リズムが崩壊し、さらに体の痛みや頭痛、腹痛・下痢などあらゆる不調におそわれました。同世代と比べても体の不調が多いと感じていましたが、当時は「虚弱」という言葉を使っていなかったんです。
普段から自分の異常な体力のなさや体調不良が多いことについてXでつぶやいていたところ、2024年にその投稿を見たライターのヒオカさんとWebメディアで虚弱体質対談をすることになりました。そのときに、この状態を「虚弱」と名づければ人に伝えやすくなると気づきました。「虚弱」を自覚したというよりは、説明しやすい言葉を見つけたという感じです。
-新刊について終電さんの学生時代の友人から感想などは届きましたか?
私が文筆家だと知っている友人たちからは「当時は知らなかったけど、いろいろ苦労してたんだね」という感想をもらいました。少し疎遠になっていた友人が本屋でたまたま本を見つけて「作家になってたの?」と連絡をくれたりもしました。
-原因がよくわからない体調不良はなかなか周囲にも理解してもらいにくいのでは。孤独感やつらさはありましたか?
ありました。私の場合は大きな病気があるわけではなく、小さな不調がたくさんあって、病院を受診しても原因不明と言われ、どうしてなのか自分でもわかりませんでした。おまけに極端に体力もなくて疲れやすい。その状態を人に説明しても伝わらないし、「まだ若いのに何言ってるの?」と流されることが多くて、ずっともどかしい思いをしていました。だれかにわかってもらうことは諦めていたと思います。
“強烈な眠気”に人生を奪われるつらさ
-20代前半から体調不良が続いていた中で、いちばんつらかったことは何ですか?
いちばんは眠いことです。睡眠時間が1日10時間くらいあるのに日中も強烈な眠気に生活時間を奪われてしまうんです。肩や首や関節が痛むような不調もあるけれど、時間がないことに比べればそこまでつらくありません。人生が短い中で、人よりできることが少なくなってしまうことをとてもつらく感じます。
やりたいこともやらなきゃいけないこともたくさんあるのにできないまま、1日、1週間、1カ月、1年とどんどん積み上がっていく。積み上がるスピードの方が崩すスピードより速くて、できないことの山が大きくなっていく感じです。
-自身の体調不良を改善しようと向き合い始めたのはいつ頃ですか?
26歳のころ、階段の上り下りができないくらいの膝の痛みを放置して悪化したとき、医師に教わった簡単な筋トレを毎日続けてみたら、2週間ほどで膝の痛みと違和感が消えたんです。さらにその時期に過眠で仕事にならないほどの状態が続いたため、朝晩にラジオ体操をしてみたら体が軽くなりました。食事にも気をつけてみたら体調が改善したのを実感して「ちゃんとやれば変わるんだ」とわかり、体に向き合うようになりました。
-エッセイには、体調管理のために、ジョギングに卓球、緻密なカロリー計算をした食生活など、健康になるための日々の努力が描かれています。
運動や食事を改善したことで少しずつ体調がいい時間が増えていきました。その体調を維持するために、今はラジオ体操やジョギング、卓球などの運動のルーティンをこなし、自炊して栄養状態にも気をつけています。
20代前半は今より体調もメンタルも悪かったので、眠れないことや将来への不安が強かったと思います。ただ、26歳から30歳(現在)までの3〜4年間は体調もよくなり、メンタルも安定して強くなったので、そうした不安は減りました。
習慣を身につけメンタルが強くなった
-「メンタルが強くなった」とはどんな場面で感じますか?
たとえば、将来どうしようとか、だれかに嫌われているかもとか、ネットで悪口を書かれたとか、そういうことをあまり気にしなくなりました。少しは気にしても、ひどく落ち込むことはなくなりました。
子どもの頃はすごくネガティブで、人の目が気になり、よく泣いたり鬱状態にもなっていましたし、場面緘黙症のために学校で声が出なくなっていた時期も長かったんです。
でも20代後半から生きるために健康管理をし始めてから、少しずつメンタルも強くなっていったと思います。
-体が健康になっていくと同時に心も強くなったということでしょうか?
それもあると思います。ただ、それより大きいのは「習慣を身につけられたこと」だと思います。健康のために始めた運動や食事管理を続けるうちに、努力を継続している自分に自信を持てるようになりましたし、そういった習慣そのものがメンタルにいいと感じています。
たとえば失恋や仕事で落ち込んだときに支えてくれるのは習慣だと思うんです。大きな変化が起きても、前から続けていた習慣を淡々とこなしている自分がいると、「大きく変わったように見えても、自分は案外変わっていない」と感じられます。習慣によって自分を保つことができるんだと知りました。
「#虚弱バッグの中身紹介」
-ところで最近、「#虚弱バッグの中身紹介」というハッシュタグが注目されています。これは終電さんの本から派生したんでしょうか?
そうですね。虚弱体質を自認している読者の方が最初に始めてくれました。虚弱体質ゆえに、薬を持ち歩かなければいけない、荷物が多いと疲れてしまうなど、いろいろな問題やジレンマを抱える中で、「同じような人がどんな工夫をしているのか知りたい」という意図でハッシュタグを作ったそうです。
-終電さんが外出時に必ず持ち歩くものはありますか?
ドライフルーツとミックスナッツを常に持っています。私は低血糖を起こしやすい体質で、低血糖になると倒れるまではいかなくとも、強い空腹に似た感覚と、全身の発汗、震えが出て何もできなくなってしまいます。だから血糖値を安定させるために必ず持ち歩きます。
ドライフルーツは無添加で砂糖を使っていないもの、ナッツも素焼きで味つけされていないものを選んでいます。どちらもGI値が低く血糖値をゆっくり上げてくれて腹持ちもいいので、おなかがすく前に食べていますが、かさばるのが難点ですね。文庫本1冊くらいのサイズですけど、その大きさですら邪魔で重いです。
-終電さんのバッグの中身はどんな感じですか?
私は荷物が多いと肩がすごく凝るので、できるだけ軽くするために財布を持つのをやめました。お札とカードだけをポケットに入れて手ぶらで出かけるのが理想だけど、ドライフルーツとナッツのために仕方なくバッグを持っています。私もいずれそのバッグの中身を投稿してみたいですね。
今好きなこと、これからやりたい仕事
-今、終電さんが好きなこと・楽しみにしていることは何ですか?
最近はインテリアを楽しんでいます。インテリアは買って部屋に置くだけで毎日見られるし使えるし、体力がなくても楽しめると気づきました。
-これからの夢や、仕事でやりたいことはありますか?
場面緘黙症についての本を書きたいです。場面緘黙症では話すことだけでなく自己表現全般が苦手な人が多く、当事者の声が広まりにくいんです。文章という表現手段を持つ当事者として、書く使命のようなものを感じています。
あとは「虚弱紀行」のような形で、一人旅をテーマにした本。体力が限られている中でどう楽しむか、低血糖や体調対策で荷物が増えるジレンマをどう乗り越えるか、なども書いてみたいと思っています。
虚弱でも1人で生きていきたい
-エッセイの中で「体力がなくてもお金が稼げなくても、独り身でも、それなりに幸せな女になってみたい」という言葉がとても印象的でした。
それについては読者の方からも「勇気をもらった」「自分も大丈夫だと思えた」と感想をもらうことが多いです。ただ現状の社会で私のような虚弱体質の人が1人で生きていくのは、経済的な面を考えると本当に難しいことです。それでも「1人で生きてみたい」と書かないと何も始まらない。そういう祈りとして書きました。
-祈り、ですか。
はい。そういう社会になってほしい、という願いです。私は今、障害者手帳を取得して公営住宅に当選し、物書きとして収入を得て生活できていますが、それはかなり特殊な条件が重なった結果で、再現性がないんです。だから虚弱体質の人に「きっと1人で生きていける」とは言えません。
だけど、「1人で生きてみたい」と声を上げることは、社会が変わっていくための第一歩なんじゃないかな、と思います。
-最後に、終電さんと同じような悩みを抱える方にメッセージをお願いします。
いちばんは「意外と同じような人がいるよ」ということを伝えたいです。私はずっと、自分と同じような人はいないと思って生きてきました。でもこの本を通じて意外と共感してくれる人がいると知り、読者の方から感想をいただくことで私自身も孤独から解放されました。
そして、これだけ私のような“虚弱な人”たちがいるなら、社会を変える力になるかもしれない、という希望を持てるようにもなりました。そんな希望も含めて、ぜひ拙著を読んでもらえたらうれしいです。
(取材・文 早川奈緒子)

