カトパコ新章突入──スティングとの共演で生まれ変わった二人の現在地、「激動の一年」を徹底解説【CA7RIEL & Paco Amoroso】

「カトパコ」ことカトリエル&パコ・アモロソ(CA7RIEL & Paco Amoroso)がついに新章突入。先行公開された最新シングル「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA |アスタ・ヘスス・トゥーボ・ウン・マル・ディア」では、スティングと夢の共演が実現。3月20日にニューアルバム『FREE SPIRITS』をリリースすることも決定した。

スティングについては説明不要だろう。パンク〜ニューウェイヴが隆盛を極めた70年代後半から80年代半ばにかけて、世界の頂点に君臨したポリスの中心人物で、代表曲「Every Breath You Take(見つめていたい)」はクイーンの「Bohemian Rhapsody」すら上回り、20世紀リリースの楽曲として史上最多のストリーミング再生を記録。1985年のソロデビュー後も多彩な音楽性にアプローチし、国境を越えて様々なミュージシャンと交流しつつ、「Englishman in New York」などのヒット曲を送りだしてきた正真正銘のロックスターである。

そんなスティングを”メンター(師)”と仰ぐカトパコ。イントロのギターからポリス初期の名曲「Roxanne」を彷彿させる「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」は、曲全体にもスティングの影響を滲ませている。このロック・サウンドは新機軸とも言えるし、デュオ結成以前にプログレ×ファンクを基調とするバンド、Astor(アストール)として活動していた前歴を踏まえて、原点回帰と捉えた感想も多く見受けられる。

予想外のコラボであることは間違いないが、ここに至るまでの歩みを辿ると、驚くほど筋が通っているのも事実。それを確かめるためにも、昨年の快進撃から振り返っていこう。

「激動の一年」を総括

カトパコにとって2025年は、6歳からの幼馴染である二人が、母国アルゼンチンのスターからグローバル・アイコンへと駆け上がる飛躍の年となった。2024年10月の米NPR〈Tiny Desk Concerts〉出演によってブレイクした彼らは、”今もっとも観るべきアクト”として世界各地で歓迎され、昨年3月リリースの前作『PAPOTA』を携えてのツアーは計95公演にも及んだ。コーチェラやグラストンベリーなどの大型フェスで怒涛のステージを繰り広げると、日本でも口コミが広がって時の人となり、フジロックでは午前11時開演のトップバッターながらGREEN STAGEが満員の大賑わいに。カトリエルは「ありがサンキュー!」と叫びながら涙を浮かべ、Instagramに「愛してるよ永遠に日本!」と投稿(※現在は削除)。初来日にして相思相愛の関係を築いてみせた。

11月には、こちらも昨夏のフジロックで伝説的ステージを披露したフレッド・アゲインが、カトパコとTwitch配信を通じて制作した「Betos Horns」を発表。曲名どおりのホーンと重低音が炸裂し、両者のライブやDJでも大いに沸くクラブ・バンガーとなったうえに、フレッドと同日にフジロック出演していたUKジャズの旗手、エズラ・コレクティヴによるリミックス版も同時リリース。この三組は先週末の2月12日、ロンドンで開催されたフレッドの単独公演でコラボステージを繰り広げたばかりだ。

この投稿をInstagramで見る Fred again..(@fredagainagainagainagainagain)がシェアした投稿 フレッド・アゲイン、カトパコ、エズラ・コレクティヴのコラボステージ(動画)

ほかにも秋には、ケンドリック・ラマーの南米ツアーに帯同し、LAで開催されたタイラー・ザ・クリエイター主催のフェス〈Camp Flog Gnaw〉に出演することで国際的なプレゼンスを高めた二人。ラテン・グラミー賞ではバッド・バニーに次ぐ10部門にノミネートされ、〈ベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞〉など計5部門を受賞。ジャンルの枠にとらわれない破天荒なサウンドによって、ポスト・レゲトン時代におけるゲームチェンジャーとしての評価を確立した。

Kendrick Lamar with CA7RIEL & Paco Amoroso pic.twitter.com/4FG9iqzD5n — Kurrco (@Kurrco) October 5, 2025

ラテン・グラミー賞授賞式で、『PAPOTA』期の集大成となるパフォーマンスを披露

問題はここからだ。ラテン・グラミー賞授賞式を終えた直後の11月18日、新曲「GIMME MORE」をリリース。授賞式の夜に撮影されたMV(※現在は削除)では、ヘリコプターで街を飛び回り、奔放なナイトライフを満喫したあと、ツアーの舞台装置であるカトリエルとパコの上半身像バルーンに火を放つことで『PAPOTA』期に別れを告げ、新たなアルバム『TOP OF THE HILLS』を12月に発表するとアナウンスした。パコはBillboard Japanの動画インタビューで「次はもっと商業的な方向に進むべきかもしれない。チャートのトップを狙いたいからね」と語っており、メインストリーム寄りの作風が念頭にあったに違いない。

しかし、初めてのワールドツアーで地元を離れて世界中を飛び回り、年間の3分の1近くもステージに立ち、その合間に急ピッチで制作するスケジュールに無理があることは、誰の目にも明らかだった。その不安は的中し、『TOP OF THE HILLS』はリリース中止の憂き目に。「対処しきれないほどの露出、プレッシャー、成功の波に流され、誤って拙速な判断を下してしまいました。自分たちが消耗しており、休息と癒やしが必要だと気づくまでに時間がかかってしまいました」と公式声明文には記されている。

前作『PAPOTA』でも、環境の変化や周りからの重圧に戸惑う心境が曝け出されていた。破格の成功を収めながら〈もっとくれ〉と尽きない野心を歌う「GIMME MORE」には、〈ゲームはとっくに全クリした どこへ向かっているのかわからないけど 辿り着けないことだけはわかっている〉といった、燃え尽き症候群のようなリリックも含まれている。二人はとっくに限界を超えていたことに気づき、土壇場で立ち止まることを決心したのだろう。

かくして二人がメンタルヘルスを正常化し、再生するまでの日々が始まる。そこで指南役を務めたのが、他ならぬスティングだった。

スティングとの共演の意義

休養期間に入っていたカトパコだが、今年2月2日に開催された第68回グラミー賞授賞式でカムバックを果たす。『PAPOTA』で〈最優秀ラテン・ロック、アーバン/オルタナティヴ・アルバム賞〉を受賞し、レッドカーペットに姿を現した二人は、パコが金髪から茶髪へ、カトリエルが赤髪から金髪へと、お互いが入れ替わったかのようにイメチェン。奇抜なファッションセンスでも喝采を浴びてきた彼らが、ヨガスクールを思わせる真っ白な衣装をまとっていること、憑き物が落ちたように表情がスッキリしていることも話題となったが、今思えばこのニュールックこそが”新章突入”を物語っていた。

第68回グラミー賞授賞式にて撮影。ニュールックについて質問された二人は、「新しい生き方」を教えてくれたメンターの存在を明かす(のちにスティングと判明)

2月7日には、スティングがこれまた白い衣装を着て、カトパコの最新アルバム『FREE SPIRITS』のコンセプトを解説する約7分の動画が公開された。要約すると以下のとおり。

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スティングは、80年代に自身や同業者が経験した極度のストレスやプレッシャーをきっかけに、心身を救うための哲学的・治療的システムの必要性を痛感する。彼は世界各地でヨガや瞑想などを学びながら、独自の12段階プログラムを構築し、ホリスティック・ヒーリング施設〈フリー・スピリッツ・センター〉を設立。そこから35年間、センターの存在を秘匿しつつ、影響力のあるアーティストやリーダー/インフルエンサーを水面下で支援し、マインドフルネス、クライオセラピー、機能性栄養学、セロリ・スムージーといった現代ウェルネス産業の礎も生み出してきた。

しかし、スティングが理想とする「True Free Spirit」の境地に到達した患者は出てこず、どこかで満たされなさを感じていた。そのなかで1年前にアルゼンチンでカトパコと出会い、彼らの才能に感銘を受ける一方、急激な成功がキャリアの危機につながることを予見する。実際に二人は、アルバム『TOP OF THE HILLS』をリリース直前でお蔵入りに。スティングは「あのアルバムは最悪の出来だった」と述懐している。

その後、カトパコのチームからクリニック参加の相談があり、上述の12段階プログラムへの参加に加え、葛藤と正面から向き合うこと、スティングも楽曲に参加させることを条件に、リトリート期間中のアルバム制作を快諾。その結果生まれた新作は、単なるアルバムを超えた人類の勝利、「True Free Spirit」への第一歩というべき作品となっている。

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筆者の推測だが、この設定はフィクションも含まれたものかと思われる。前作『PAPOTA』でも音楽業界のあり方をユーモラスに批判した彼らだけに、最新アルバム『FREE SPIRITS』のコンセプトには、意識高い系のウェルネス文化や自己啓発セミナーを皮肉る意図も込められているのではないだろうか。とはいえ、カトパコの二人がオーバーワークで崩壊寸前になったことが、スピリチュアル・ジョークの大前提にあるのは紛れもない事実。誰よりも自分自身をおちょくってネタにするスタンスは、〈Tiny Deskのせいでメチャクチャだ 歌なんか歌えないしラップもできない〉と自虐的に歌った『PAPOTA』収録「IMPOSTOR」とも地続きにある。

それにスティングが、30年以上にわたってヨガを実践してきたのは有名な話。74歳の今もなお、長時間のライブをこなすためのスタミナや集中力を支える原動力であり、「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」のMVにおける微動だにしない瞑想や、足から根が生えたような坐禅、身体の柔軟性からも筋金入りであることが伝わってくる。

そんなスティングの右腕として彼を長年支え、ヨガの指導者も紹介したというギタリストのドミニク・ミラーは、カトパコと同じくアルゼンチン出身だ。スティングは「ラテンアメリカの声」と呼ばれたアルゼンチン・フォルクローレの歌姫、メルセデス・ソーサとも共演したことがあるし、昨年にも親交が深い”アルゼンチン・ロックの父”チャーリー・ガルシアとの初コラボ曲「In the City」を発表したばかりだ。

かつてポリスの音楽は、アルゼンチンの国民的ロックトリオ、ソーダ・ステレオ(Soda Stereo)に絶大な影響を与え、ニューウェイヴ的な要素は同国におけるロックのDNAに組み込まれていった。彼らは1984年に、ポリス「Roxanne」に独自の解釈を施した「Un Misil en Mi Placard」という曲を発表している。

前述のとおり、カトパコとスティングのコラボ曲「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」も「Roxanne」を下敷きにしている。一般的にはレゲエ調と認識されている「Roxanne」のリズムだが、作曲するにあたって、スティングの念頭にあったのはタンゴだったというエピソードは興味深い(バズ・ラーマン監督のミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』では、同曲のタンゴ・バージョンが印象的に用いられている)。

ソーダ・ステレオがポリスの影響を通じて自国のロックカルチャーを育んだ一方で、ポリスの音楽的ルーツには、19世紀にアルゼンチンで生まれたタンゴが含まれていた。さらに前述のとおり、スティングの歩みを辿ると、アルゼンチンの音楽文化が大きな比重を占めていることも見えてくる。そう考えれば、今回のコラボレーションも、国境を越えた相互影響の歴史における新たな1ページと位置づけることができるだろう。こうして文脈を紐解いていくと、スティングとの邂逅もは必然だったようにも思えてくる。

新曲はAOR×スタジアム・ロック?

新曲のレコーディングメンバーは、フジロックのステージも支えてきた『PAPOTA』期のバンドから一新。2024年のデビューアルバム『Baño María』にも携わったアルゼンチン出身/LA拠点のフェデリコ・ヴィンドヴェル(Federico Vindver)がプロデュースの軸を担い、西海岸の凄腕セッション・ミュージシャンが集結している。その中で注目すべきは、ベーシストのギジェルモ・ヴァダラ(Guillermo Vadalá)。フィト・パエスを筆頭にルイス・アルベルト・スピネッタなどアルゼンチン・ロックの巨匠たちと共演してきたレジェンドが、フュージョンとファンクの境目を縫うようなプレイで楽曲をドライブさせている。おそらく、セッション・ミュージシャンとしての経験をもち、アルゼンチン・ロックに造詣が深いカトリエルがこだわった人選ではないだろうか。

ギジェルモ・ヴァダラのベース演奏

そのカトリエルも演奏しているギターとともに印象深いのは、「If You Love Somebody Set Them Free」「Englishman in New York」など、スティングのソロワークを想起させるサックスの音色。「マヌ・カッチェやヴィニー・カリウタ、(ポリスの)スチュワート・コープランドみたいなプレイ」を意識したというドラムも含め、精緻なテクニックに裏打ちされた80年代ロック風サウンドは、同時代のAOR及び、ダフト・パンク『Random Access Memories』以降のAORリバイバルにも通じるものだ。ジャズ/ソウルの生演奏に振り切った『PAPOTA』に続く次の一手として、ジャズの要素を通過したロックにアプローチするのは理にかなっているし、”売れそうな音楽”を意識しすぎて空中分解した『TOP OF THE HILLS』の失敗を経て、”心から作りたい音楽”へのマインドセットがようやく整った、というのもあるはずだ。

新曲は「イエスにすらイヤな日はあった」といった内容。歌詞においても、浄化のプロセスがポジティブに歌われている──名声やハイブランドで心は救えない。すべてを手放し、『FREE SPIRITS(自由な魂)』を取り戻そう。神様にもうまくいかない日はある。自分の気持ちに従い、諦めずに前へ進めばいつか解決できるはず。

スティングも英語で歌う。〈もし傷つけられたとしても もう一度自分を奮い立たせて 境界線を越えるんだ 沈む夕日でさえ 必ずまた昇るんだから〉──パーソナルな実体験と正面から向き合いつつ、万人の背中を推すようなポップソングに昇華しているうえに、サビの高揚感とキャッチーさはスタジアム・ロック的ですらあり、大合唱が今から目に浮かんできそうだ。

となれば、気になるのはニューアルバム『FREE SPIRITS』の全容だ。「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」は全11曲中の7曲目にあたる。ロック主体のアルバムとなるのか、これまで以上に多彩なサウンドを展開していくのか。さらなる大物ゲストも控えているのか。そして、『TOP OF THE HILLS』のリリース中止に伴い、立ち消えとなったワールドツアーは復活するのか。まずは心の平穏を第一に願っているが、本音はすぐにでも日本に帰ってきてほしい。カトパコもきっと、その日を待ちわびているはずだ。

カトリエル&パコ・アモロソ

最新シングル「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA feat. Sting |アスタ・ヘスス・トゥーボ・ウン・マル・ディアfeat.スティング」

配信中

再生・購入:http://ca7rielpaco.lnk.to/hjtumdjp

最新アルバム『FREE SPIRITS|フリー・スピリッツ』

2026年3月20日(金)リリース予定