PayPayと米Visaは2月12日、国内外でのキャッシュレス決済に関する戦略的なパートナーシップ契約を締結したと発表した。PayPayの米国進出を共同で推進するほか、国内のインバウンド強化に向けて連携を強化に向けた取り組みを行う方針。現時点では「検討を開始した」という段階で具体的な施策は決まっていないが、両社で米国において新会社を設立し、米国でのPayPay事業をスタートするなど、大きな取り組みになる。

PayPayの中山一郎社長は「米国市場に挑戦したい」と強い意欲を示す。米国には個人消費において300兆円の現金市場が残っており、この巨大市場に対し、これまで日本で培ったPayPayのノウハウで米国市場に参入する考えだ。

  • PayPayの中山一郎社長(左)と米Visa最高製品・戦略責任者のジャック・フォレステル氏

    PayPayの中山一郎社長(左)と米Visa最高製品・戦略責任者のジャック・フォレステル氏

1つのアプリでQRもタッチ決済も

PayPayは、日本では2018年からQRコード決済サービスを提供し、当初の大がかりな還元キャンペーンや急速な加盟店開拓によりシェアを拡大してきた。ユーザー数は2025年12月末時点で7200万人を突破。決済回数も2018年には「全キャッシュレス決済回数の3242回に1回」しか使われていなかったが、2024年には5回に1回、実に75億回まで到達した。取扱高も2018年は全キャッシュレス決済が73兆円だったうちの0%でしかなかったが、現在は141兆円のうちの12兆円で8%にまで拡大した。中山社長は、「決済に関する国民的なアプリになりたいと進めてきた」と話し、順調な拡大をアピールした。

  • 7200万ユーザーを突破したPayPay

    7200万ユーザーを突破したPayPay

  • ユーザー数だけでなく決済回数と取扱高の指標も重視

    ユーザー数だけでなく決済回数と取扱高の指標も重視

こうした国内基盤を背景に、新たにPayPayのグローバル展開を図る、国内事業をさらに強化していくという2つの軸で推進されるのが今回の提携だ。

  • 幅広い年代に支持されているPayPay

    幅広い年代に支持されているPayPay

  • コード決済だけではなく、モバイルペイメントの進化形だとアピール

    コード決済だけではなく、モバイルペイメントの進化形だとアピール

国内では、「PayPayカード」「PayPay残高」「PayPay銀行」の機能を1つのVisaクレデンシャルに集約して提供する。これは、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)がOliveで提供している「フレキシブルペイ」と同じ技術を用いたもの。もともとSMBCグループがVisaと共同開発し、世界で初めて実装されたサービスだが、その後Visaも「Flexible Credential」として海外でサービスを展開している。

  • これまでは別個のサービスとして利用されていたカード、残高、デビット

    これまでは別個のサービスとして利用されていたカード、残高、デビット

  • これを1つのカードで一括して利用できるようになる

    これを1つのカードで一括して利用できるようになる

これは、1枚のカードでありながら、アプリ上で支払い方法をクレジットカード、デビットカード、ポイントと切り替えることで、実際の支払い方法が変更できるというもの。物理カードだけでなく、スマートフォンのウォレットに登録したデジタルカードでも、支払い方法を同様に切り替えられる。PayPayの場合は、PayPayカード、PayPay銀行(デビットカード)に加えて、PayPay残高も利用可能になり、例えばNFCのタッチ決済対応の店舗で、アプリからPayPay残高に設定してスマートフォンをタッチして支払いをする、といったことが可能になると思われる。

  • SMBCグループと一緒に開発したフレキシブルペイ。現在はVisaがグローバルで「Flexible Credential」として提供している。これは2025年5月にVisaのシンガポール本社で取材したもの

    SMBCグループと一緒に開発したフレキシブルペイ。現在はVisaがグローバルで「Flexible Credential」として提供している。これは2025年5月にVisaのシンガポール本社で取材したもの

  • この時はグローバルのメディアに対して、フレキシブルペイの説明と紹介が行われていた

    この時はグローバルのメディアに対して、フレキシブルペイの説明と紹介が行われていた

中山社長は、「年内を目指して提供する予定」としつつ、詳細は後日説明すると話した。いつごろになるかは未定だが、両社ともなるべく早く提供したいとしている。

  • Visaの世界1億7,500万の加盟店に加え、Scan To PayによるQRコード決済との接続、そしてPayPay加盟店でのカード対応の拡大と、両社にとって大きなメリットがある提携

    Visaの世界1億7,500万の加盟店に加え、Scan To PayによるQRコード決済との接続、そしてPayPay加盟店でのカード対応の拡大と、両社にとって大きなメリットがある提携

  • Flexible CredentialではPayPayの3つの支払い方法が1つのカードにまとまる

    Flexible CredentialではPayPayの3つの支払い方法が1つのカードにまとまる

PayPay加盟店のインバウンド対応推進

国内のPayPay加盟店に対しては、Visa決済の受け入れ拡大も図る。これは、これまでコード決済のみを受け付けている加盟店に対し、カード決済への対応を推進していく。Visaにとっては日本での利用拡大に繋がる取り組みで、例えばグループ会社を通じて提供している決済端末「PayCAS」の導入を促すなど、マルチ決済端末を拡大し、訪日外国人の利便性向上を図る。

クロスボーダー決済の拡大も目指し、海外においてPayPayが利用できるような取り組みも進める。Visaは、タッチ決済やコード決済などの決済手段をVisaネットワークに接続できるようにする「Visa Pay」を展開している。昨年11月にはアジア太平洋地域で台湾LINE Pay、Samsung Walletなどが対応すると発表していた。

発表会ではこの「Visa Pay」がPayPayに接続する3番目の決済ネットワークとして説明された。これは海外のQRコード決済のユーザーが、自分のアプリでそのままPayPay加盟店で支払いが行えるようになる。同様の国際ネットワークとしては「Alipay+」と「HIVEX」に対応しており、これに加えてVisa Payに対応するということになる。

  • QRコネクターは、各国のコード決済プロバイダーと接続するVisaの機能。これによって複数の国のQRコードを自国の決済アプリで読み込み、「Scan To Pay」でVisaネットワーク経由で海外でも支払いが行える。こうしたトータルのサービスが「Visa Pay」という位置づけになる

    QRコネクターは、各国のコード決済プロバイダーと接続するVisaの機能。これによって複数の国のQRコードを自国の決済アプリで読み込み、「Scan To Pay」でVisaネットワーク経由で海外でも支払いが行える。こうしたトータルのサービスが「Visa Pay」という位置づけになる

  • これは2025年11月にSingapore Fintech Festival 2025のVisaブースでデモされていたScan To Pay。シンガポールの決済アプリ(右)で香港の加盟店のQRコードを読み取って、シンガポールの通貨で香港で支払いができる、というもの。海外から日本に来た人が、PayPayのQRコードを読み取って同様のことができるようになる見込み

    これは2025年11月にSingapore Fintech Festival 2025のVisaブースでデモされていたScan To Pay。シンガポールの決済アプリ(右)で香港の加盟店のQRコードを読み取って、シンガポールの通貨で香港で支払いができる、というもの。海外から日本に来た人が、PayPayのQRコードを読み取って同様のことができるようになる見込み

すでにアジア太平洋地域のQRコード決済でVisa Payに対応しているサービスもあり、それらの利用者が日本に来て、自分のアプリでPayPayのQRコードを読み込んで、そのまま支払いができるようになると考えられる。逆に、日本のPayPayユーザーが海外のVisa Pay対応サービスと接続するかどうかは未定のようだ。

日本のPayPayユーザーの海外利用についても検討が行われる。PayPayはすでに韓国で日本の観光客向けにアウトバウンド向け決済サービスを提供しているが、今回の取り組みではVisa PayによるQRコード決済の海外利用の拡大は明言されておらず、「海外でFlexible Credentialで設定した支払い方法を使ってNFCのタッチ決済で支払いができる」といったような形になることが検討されているようだ。

  • 2025年9月には韓国でPayPayが利用可能になった。これはAlipay+のネットワークを活用し、PayPayアプリで現地のQRコードを読み込んでそのまま決済できる

    2025年9月には韓国でPayPayが利用可能になった。これはAlipay+のネットワークを活用し、PayPayアプリで現地のQRコードを読み込んでそのまま決済できる

QRにこだわらない米国市場に参入、300兆円の現金市場を狙う

今回のパートナーシップのもう1つの目的が、PayPayの米国市場参入だ。両社は共同で新会社を設立し、米国市場でのPayPay事業の展開を検討する。米国の個人消費は2600兆円規模とされており、日本の280兆円の約9倍。キャッシュレス決済は進んでいるが、依然として300兆円の現金決済が残っているという。この現金市場の取り込みを狙う。

  • 過半をPayPayが出資して新会社を設立する

    過半をPayPayが出資して新会社を設立する

  • 米国市場は巨大ながら、依然として300兆円の現金利用が残っているという

    米国市場は巨大ながら、依然として300兆円の現金利用が残っているという

中山社長は会見で、繰り返しPayPayはQRコード決済ではなく「モバイルペイメント」だと強調する。PayPayがQRコードを採用したのも、当時の日本の状況や体験として適していたからで、もともと手段は問わずに最適な決済体験を提供するという考え方だったと説明し、米国市場ではQRコード決済にこだわらない姿勢を示した。PayPayはアプリを中心とした決済を提供するウォレットサービスとして位置づけるが、こうしたウォレットの浸透率は米国でもまだ24%程度(2024年)。伸び代が大きいことから参入余地があると判断した。

  • 導入は「デュアルモード」を想定。QRコード決済とNFCのタッチ決済を想定するというが、実際の戦略は今後検討する

    導入は「デュアルモード」を想定。QRコード決済とNFCのタッチ決済を想定するというが、実際の戦略は今後検討する

リリースでは「カリフォルニア州などの一部地域を視野に入れ、QRコード決済加盟店のネットワーク構築および拡大を行うアプローチを検討」との文章だが、中山社長は「あくまで例としてカリフォルニアと書いたが、どこで何を提供するかはこれから検討する」と話す。カリフォルニアは「人口が多く多様性の象徴」としての例示であり、具体的なサービスや提供エリアは、各州での規制当局の許認可などを踏まえて決定するとした。

米Visaの最高製品・戦略責任者のジャック・フォレステル氏は、「より多くの認証情報(クレデンシャル)、より多くの接点、より多くの支払い方法を接続している」と話し、物理カードにとどまらない、シームレスな決済体験の提供を重視するスタンスを強調。中山社長と同じく、特定の支払い手段にこだわらない姿勢を示した。

  • フォレステル氏が説明するVisaの現状

    フォレステル氏が説明するVisaの現状

こうした観点から、米国での新会社ではまず、米国に最適な決済体験提供のための手段を検討。日本で実施したような大がかりなキャンペーンと多額の費用をかけた加盟店開拓をしてQRコード決済の市場を創出するのか、それとも既存の決済ネットワークであるカードのタッチ決済をアプリでより便利にするといった方向になるのか、さらに別のやり方になるのかは検討していく。日本でも2018年当時、QRコード決済は普及しないという声もあった中、PayPayが市場を席巻した過去もあるため、様々な可能性を検討していくという。

米国新会社については、現状の情報が少なく、具体的な戦略は明らかになっていない。中山社長はIPOに向けたエクイティストーリーではないと回答しており、これは結論を急がずに長期的な視点で検討を行うということだろう。今後の同社の検討に注目したい。