ziproom『ZOOM IN PEOPLE』──ポスト・クラブ・ヒップホップが描く、2026年国内シーンの新地平

ziproomの2nd Mixtape 『ZOOM IN PEOPLE』がすばらしい。ただただシンプルに鳴る、極上のトラックとラップ。2026年の国内ヒップホップを周縁からハイブロウに撃ち抜く一枚だ。鮮やかに切り取られる夜の景色、ぼんやりと灯るネオン、都市がいちど冷えたあとの時間。サブベースに絡むサックスが余韻を生む。都市の夜の空気が、そのまま振動しているようだ。

ziproomは、神戸出身のArichとShimonによるヒップホップコレクティブ。学生時代、サッカーのライバルチーム同士だったという二人は、その後ともに音楽を作るようになった。2023年にデビューすると、2024年にリリースしたシングル「Dive」が9カ国のチャート上位に入り、バイラルヒットを記録した。いきなりのグローバルヒットを生んだことで、2025年にはSpotifyが躍進を期待する国内アーティスト10組『RADAR: Early Noise 2025』にも選出された。

満を持してリリースされたMixtape『ZOOM IN PEOPLE』は、彼らに息づいているUKミュージックの影響が結実した傑作だ。と言っても、近年国内のヒップホップでも増えてきたドリルの攻撃性やグライムの荒々しさをベースにしたものではない。どちらかというとスペースを持った余裕のあるサウンドで、音響の骨格は極めてスタイリッシュ。タイトなキック、乾いた空気、USトラップの厚みを持ちながら、そこには同時に、UKの都市が孕む冷たい輪郭も刻まれている。一方、「Dive」のヒットによって、彼らをいわゆる”チル”なグループにラベリングしたリスナーもいたかもしれない。だがziproomの本質は、癒しではなく緊張にある。音数を削ったミニマルな設計、都市のフォルムを冷たく縁取る低域。その感触は、UKクラブ以後のミニマリズムに近いと言えよう。彼らが海外で聴かれているのは、「Japanese chill rap」だからではない。都市の夜をそのまま音響に変える、ポスト・クラブ・ヒップホップとして流通しているからだ。そして、『ZOOM IN PEOPLE』は、そういった彼らなりのスタイルをさらに深化させているように思う。

詳しく見ていこう。今作は、Private Landに加え、「LUUP」「MISOGI」「STAR」ではGen Yamada、「SAKURA」ではRUIもプロデュースに参加。シンプルでありつつ、細部まで繊細にコントロールされた渋く煙たいトラックが、隙なく敷き詰められている。全曲が高いクオリティで、一曲目の「ROUTINE」から、トラップマナーで90s NYヒップホップを再解釈したような捻りのあるトラックに唸るはずだ。「SARAPIN」のように、ziproom流のブラガドシオが香り立つ曲も良い。リリックもトラックも、どこか品があってクール。怒涛のラップスキルを披露する「KAIRO」も痺れるし、「STAR」の複雑なリズムにも舌を巻く。そしてハイライトは、イギリス系アンゴラ人ラッパー・ブランコが野生味のあるラップを繰り出す「SAKURA」。「どこに向けても日本語で勝負/これが俺のアイデンティティだ」と歌う、ノワールな空気がたまらない冷ややかさ漂う一曲である。

全体を通して、USトラップ的な重力にとどまらず、ベリアル以降のロンドン的残響、オーバーモノを連想する低域設計、初期オクテヴィアン(Octavian)のような揺らめくエモーションといった、UKクラブ的な都市型ミニマリズムが滲む。ラップが前景化するのではなく、都市の空気のトーンとして漂う──トラップがUKクラブ・ミュージックを通過した、ポスト・クラブ・ヒップホップの傑作と言ってよいだろう。

USトラップをどう日本語で鳴らすかという試みが主流だった2010年代を経て、現在はヒップホップが都市のクラブ音楽の基盤になった。クラブ的ムードを経た日本のヒップホップはグローバル化し、一方で、テクノ/ハウス側のDJやプロデューサーもラップを扱うケースが増加している。結果、相互影響によって、ヒップホップはプレイリスト文化以後の都市音楽としてOS化≒基礎教養化したと言える。そうした状況のなかで、ziproomの『ZOOM IN PEOPLE』は、ヒップホップ×クラブの新しいゾーンを開拓しているように感じるのだ。

クラブシーンにおいてOS化したヒップホップは、TohjiやkZmのような、ハイパーな潮流も捉えたネット=クラブ=ラップの爆発によるアイコン化をひとつの潮流として生んだ。さらにRalphやJUMADIBA、MFSのような、ドリル/グライム/トラップ的なグルーヴを備えたストリート様式としての潮流も充実してきている。そしてziproomは、そのどちらにも属さない。ラップが主張しすぎず、音響が都市の空気になることで、プレイリストで国境を越える──いわば、クラブ音響としての静かなヒップホップという新領域を創造している。

実際、ziproomのライブは非常にクールで、どこか緊張感のある空気を届けつつ、クラブの夜の空気がそのままラップになったような艶やかさをまとっている。ステージング、ラップパフォーマンスを時に客観的に眺めながら、最後まで引き締まった形で届けられるショウ。「POP YOURS 2025」でのNEW COMER SHOT LIVE、そして「SUMMER SONIC 2025」で目撃したライブは、そういったカリスマ的空気と、安定感あるラップの融合が実にすばらしかった。ステージでの二人の動きは決して派手なわけではないが、深いグルーヴの中で芯をブラさずに歌う姿が、堂々としたものに映る。

すでにアジアを中心とした海外で火がつきはじめているziproomだが、このタイミングで初ワンマンライブ『1R』が観られるのはとてもありがたい。2月4日(火)に渋谷WWWで開催されるステージは、ポスト・クラブ・ヒップホップの可能性を占う意味でも、後世に振り返られる貴重な一夜となるはず。ziproomの快進撃がどのような形でキャプチャされるのか、わくわくしながら待っているところだ。

WWW presents ziproom ONE MAN LIVE 『1R』

2月4日(火)東京・渋谷WWW

OPEN 19:00|START 20:00

出演:ziproom

チケット:¥3,000(税込|オールスタンディング|ドリンク代別)

https://eplus.jp/ziproom0204/

問い合わせ:WWW 03-5458-7685

※未成年入場OK

ziproom

神戸を拠点に活動するArichとShimonの2人によるヒップホップコレクティブ。2024年1月に1st EP『unzip』、4月にMixtape『nuzip』をリリース。同年8月28日には SINGLE「Dive」をリリースしSpotify Viral50にて日本、韓国、台湾、香港、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、ナイジェリアの9カ国で上位にチャートイン。10月30日にEP「Ebis」をリリースし、CIRCUS TOKYO/CIRCUS OSAKA にて<Ebis リリースパーティー>として初の主催イベントを開催、両会場チケットがSOLD OUTし成功を収めた。2025年 Spotify RADAR: Early Noiseに選出され、8月13日には初の客演としてSamRecksを迎えた「Katsushika」、JUMADIBAを迎えた「3layer」を含む3rd EP『2CITIES』をリリースした。

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ziproom

2nd Mixtape

『ZOOM IN PEOPLE』

https://ssm.lnk.to/zoominpeople

Track List

01. ROUTINE 

02. LUUP 

03. SARAPIN

04. I OWN MY ROLE 

05. KAIRO 

06. TARUMI(skit)

07. SAKURA(feat. Blanco) 

08. MISOGI 

09. LOSE YOUR CONTROL

10. STAR 

11. CIRCLE