SNSでは、「実家が東京の時点で勝ち組」といった言葉をよく目にします。上京して働いている地方出身者にとっては、感覚的に肯定してしまう言葉かもしれません。そこで、「実際、どのあたりが有利なのか」をFPの視点から、客観的なデータを使いながら検証・整理してみたいと思います。
最もわかりやすい差は「住居費」
上京して働く場合に、まず直面するのが「住居費」です。首都圏の新築マンションの平均価格が約1億円となっている現在、賃貸物件もそれに合わせて徐々に値上がりしています。
実際に都内でひとり暮らしをする場合、家賃は月8万円~12万円程度が一般的です。仮に月10万円とすると、年間で120万円住居費がかかります。
上京した初年度は、これにプラスして敷金・礼金などの初期費用と引越し費用がかかります。
●年間家賃: 120万円
●初期費用(敷金・礼金・仲介手数料・前家賃など): 50万円(家賃の5か月分が目安)
●引越し費用: 7~12万円(遠距離地方の場合)
※このほか、家具や家電を新調した場合の費用も
初年度でおよそ180~200万円、2年目以降は120万円の住居費が毎年かかってきます。
実家が東京で、実家から通勤する場合は、住居費は0円なので、その分を貯蓄に回せると考えると、10年、20年と積み上げた場合の差は数千万円になります。
もちろん、東京が実家でも一人暮らしをするケース、家に生活費を入れるケースなど、住居費がそのまま節約できるわけではないケースもあります。ただ、一般的な話として、住まいのコストを考えたときに、"実家が東京"というカードが強いことは間違いないでしょう。
将来に波及する「情報格差」
住居費は数字で表せるのでわかりやすいですが、見えにくいながらも生涯にわたって大きな影響を及ぼし兼ねないのが「情報格差」です。
実家が東京の場合、幼少期から以下のような環境に身を置いています。
- 親や親戚、周囲の大人が多様な働き方をしている
- 大企業・官公庁・外資系企業が生活圏にある
- 文化的な施設やイベントに物理的に行きやすい
一方で、地方出身者は以下のようなケースになりがちです。
- ロールモデルが限定される
- その仕事が存在すること自体を知らないケースもある
- 情報はネット経由であるため断片的になりやすい
インターネットの普及により、東京と地方の情報格差はだいぶ縮まりました。しかし、ネット上の情報として「知っている」ことと、実際にその人や環境が身近にあることとでは、得られる情報の質や濃さには大きな違いがあります。
こうした差は、人生の選択肢の幅として長期的に効いてきます。
特に影響が大きいのが、「進路選択」です。進路選択の結果としての最初のキャリアは生涯年収に大きな影響を及ぼす可能性が高いと言えます。
環境による「教育格差」
これは一般論ですが、生涯年収を高くするには、偏差値の高い大学に行き、大企業や外資系企業に就職する、あるいは国家公務員や高度な専門職に就くのが王道です。そこでまずは、有名大学に進学するために、教育に力を入れます。ここで東京と地方の差が顕著に出ます。
いくつかのデータを見てみましょう。
東京大学新聞社が実施したアンケートによると、東京大学の2025年度の新入生のうち、出身地が東京都は34.8%と最多で、一都三県(東京・神奈川・千葉・埼玉)の出身者で全体の56.3%を占めます。
東京大学の出身高校別のランキングを見てみると、ベスト5のうち4校が東京の高校です。
特筆すべき点は、ベスト5校のうち、東京都立日比谷高等学校以外は大学付属の高校または私立の中高一貫校という点です。
大学付属高校のメリットは、内部進学ができることです。内部進学の価値は、有名大学に行けることもそうですが、人生最大の不確実イベント(大学受験)を回避できることにあります。大学受験は一発勝負の極めてリスクの高いイベントです。内部進学は、中学受験・小学受験という早期段階でルートを確保して、高校から大学はほぼ確定ルートにできる点で圧倒的に安定しています。私立の中高一貫校も同様です。
そして、東京圏には有名大学に一般入試を経ずに進学できるルート(内部進学ルート)が多数存在しています。
●慶應義塾(幼稚舎〜大学)
●早稲田大学の附属校・系属校
●GMARCH各大学の附属校
など
将来のリスクを回避できる安定的・確実的なルートに乗るには、早い段階でそれを知っている必要があります。実家が東京の人は、その選択肢を早く・自然に・無意識のうちに手に入れやすいということです。
以上のことをまとめると、東京圏の人は、以下の点で地方と比べて圧倒的に有利と言えます。
- 教育水準の高い学校や学習環境に身を置きやすい
- 受験や進路に関する情報へアクセスしやすい
- 内部進学ルートで大学進学が有利に進められる
教育格差は生涯年収に表れる
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」から、学歴別の賃金(月給の平均額)を見てみると、高卒では28.9万円、専門学校卒では 30.7万円、高専・短大卒では30.7万円、大卒では 38.6万円、大学院卒では 49.7万円となっています。
高卒と大卒では約10万円の差、高卒と大学院卒では約20万円の差がついています。
出身大学別ではどうでしょうか。出身大学別の平均年収がわかるような公式データがないため、民間の調査から傾向を見てみたいと思います。
たとえば給与が高いと言われる金融系の企業として、都市銀行3社(みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJ銀行)の出身大学(2024年卒業生)ランキングを見てみると、以下のようになっています。
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都市銀行3社(みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJ銀行)の出身大学(2024年卒業生)ランキング 出所: 【業種別7 都市銀行3社】 有名企業への就職者数ランキング2024 大学通信オンラインをもとに筆者作成
有名大学で占められており、ベスト10のうち7つが東京にある大学です。東京に住んでいることが、こうした有名大学への進学において有利に働いている点は、すでに述べたとおりです。
まとめ
「実家が東京」であることが、地方出身者と比べてどのような点で有利なのかを整理すると、以下のようになります。
- 実家に住める場合、住居費の負担を大きく抑えられる
- 進路やキャリアに関する情報に日常的に触れやすい
- 進学や就職における選択肢が多い
- 教育資源や学習環境が身近に整っている
- 進学において比較的安定したルートを選びやすい
もちろん、これらはすべての東京出身者に当てはまるものではありません。家庭環境や個々の状況によって差があります。ただし、制度や環境の面から見れば、地方出身者よりもアドバンテージを得やすい構造にあることは確かでしょう。
とはいえ、「実家が東京の時点で勝ち組」という言説は、その裏に、「今の状況はあなたの努力によるものではなく、生まれた場所がよかっただけ」という嫉妬を含んでいることが往々にしてあります。本人の努力が過小評価されがちという点が「実家が東京」の人のデメリットかもしれません。


