• 産婦人科医・医学博士・産業医の高尾美穂先生

    産婦人科医の高尾美穂先生も登壇

避妊に失敗したかもしれない──そんな不安を抱えた経験がある人は少なくないだろう。

性交後に妊娠を防ぐ「緊急避妊薬(アフターピル)」は、これまで医師の処方がなければ入手できなかったが、ついに薬局・ドラッグストアで購入できる時代が始まる。

2月2日、第一三共ヘルスケアから市販の緊急避妊薬「ノルレボ」が発売される。それに先立ち開かれたメディア向け勉強会では、市販化の背景や制度の仕組み、そしてこの変化が社会にもたらす意味が語られた。

2月2日に第一三共ヘルスケアから、OTC緊急避妊薬「ノルレボ」が新発売される。これに先立ち、同社は1月14日、「緊急避妊薬(アフターピル)『ノルレボ』メディア勉強会」を開催した。

「ノルレボ」は、妊娠の可能性がある性交後72時間以内に服用することで、妊娠を防ぐ効果が期待される緊急避妊薬(アフターピル)だ。これまで日本で使用できた緊急避妊薬は、医療機関で処方される「ノルレボ錠1.5mg」のみだった。

今回発売されるOTC医薬品「ノルレボ」は、医療用医薬品の「ノルレボ錠1.5mg」と有効成分(レボノルゲストレル)および含量が同一で、医療機関を受診せずに薬局・ドラッグストアで購入・服用できる。

  • 緊急避妊薬「ノルレボ」

    2月2日に第一三共ヘルスケアから発売される緊急避妊薬「ノルレボ」。医療機関を通さず、薬局・ドラッグストアで購入可能

日本の避妊を取り巻く現状と、市販化の意義

勉強会ではまず、第一三共ヘルスケアの担当者が、日本と欧米諸国における避妊の現状の違いについて説明した。

「日本は欧米諸国と比べて、女性が主体となった避妊方法の実施率が低い傾向があります。その一方で、避妊に失敗した場合、妊娠のリスクは主に女性が引き受ける構造になっています」

実際、日本では女性の5人に1人が、妊娠を望まないにもかかわらず、避妊に失敗した、あるいは避妊できなかった経験があるという調査結果もある。また、日本では人工妊娠中絶が年間約13万件前後行われているとされている。

こうした状況を踏まえ、担当者は「緊急避妊薬は、予期せぬ妊娠を防ぐための重要な選択肢の1つです」と話した。

さらに、性と生殖に関する健康と権利であるSRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)との関係にも言及した。SRHRは、妊娠や出産に関する自己決定権を含む考え方で、海外では広く知られている。

「望まない妊娠を防ぐ手段の1つである緊急避妊薬が市販化されることは、日本でSRHRが実現されるための第一歩になると考えています」

「ノルレボ」市販化までの経緯

「ノルレボ」は1999年にフランスで承認され、日本では2011年に日本初の緊急避妊薬として「ノルレボ錠0.75mg」が承認された。その後、1.5mg製剤も承認され、現在はあすか製薬が製造販売している。

市販化を求める声は以前からあったものの、長らく医療機関での処方に限られていた。2021年頃から議論が進み、2023年には厚生労働省による試験販売事業が開始。2025年10月、日本初の緊急避妊薬スイッチOTCとして「ノルレボ」が承認され、今回の発売に至った。

購入・服用の流れと注意点

OTC「ノルレボ」は、薬局・ドラッグストアで薬剤師から購入後、その薬剤師の目の前で服用する仕組みとなっている。代理購入はできず、服用を希望する女性本人のみが購入可能だ。

また、妊娠の可能性がある性交から72時間以内に服用する必要があり、72時間以内に服用した場合の妊娠阻止率は約81%と報告されている。ただし、必ず妊娠を防げるわけではない。

服用後も注意が必要で、服用から3週間後を目安に、妊娠検査薬の使用や医療機関の受診などにより、妊娠していないかを確認することが重要だという。

そのサポート策として、ウィメンズヘルスケアサービス「ルナルナ」と連携し、服用記録や3週間後の体調確認のリマインドをアプリ上で行える仕組みを整える見通しだ。また、避妊に関する正しい知識を提供する情報ポータル「避妊情報ナビ」も公開予定としている。

限定された薬局での販売とデモンストレーション

「ノルレボ」を販売できるのは、日本薬剤師研修センターで研修を受けた薬剤師が勤務する薬局・ドラッグストアに限られる。購入後はその場で服用するため、販売の流れについてデモンストレーションも行われた。

  • 薬局・ドラッグストアで「ノルレボ」を販売する際のデモンストレーションの様子

    薬局・ドラッグストアで「ノルレボ」を販売する際のデモンストレーションも実施。まずは「ノルレボ服用前確認チェックシート」による確認からスタート

来店前に製品概要や取扱薬局を確認し、来店後は「ノルレボ服用前確認チェックシート」に回答。薬剤師による確認と説明を受けたうえで会計を済ませ、水とともにその場で服用する。その後、服用後の注意点が伝えられ、購入・服用の流れは完了する。

産婦人科医・高尾美穂先生が語る、市販化の意味

質疑応答後には、産婦人科医・医学博士・産業医の高尾美穂先生による解説が行われた。

  • 高尾美穂先生による「緊急避妊薬(アフターピル)に関する解説」の様子

    産婦人科医・高尾美穂先生による「緊急避妊薬(アフターピル)に関する解説」も実施

「日本は世界でも避妊に対する考え方や取り組みが遅れている、と私が感じたのは2019年のこと。ケニア・ナイロビでの国際人口開発会議で、世界人口は増加し続けていると知り、女性が自分で子供を産むタイミングや産む人数を決める権利=SRHRのことを日本でも伝えていこうと思うようになりました」と高尾先生。その後も繰り返しケニアを訪問して海外の状況を知るうちに、日本の現状を憂う気持ちが強まったと話す。

今回の市販化については、「やっとここまで来た」と率直な思いを語る。

「緊急避妊薬は長らくクリニックや病院の処方薬として扱われてきましたが、医療機関を受診するハードルや心理的負担などを感じていました」とこれまでの緊急避妊薬の扱い方と問題点をあげた。

「購入できる薬局やドラッグストアが限られていても、市販されるようになれば医療機関の診療時間外でも緊急避妊薬にアクセスしやすくなります。これは誰にとってもありがたい社会の変化です」と高尾先生は指摘する。

「日本ではSRHRという考え方がまだ浸透していません。だからこそ、女性自身に自分の妊娠のタイミングや産む人数、キャリアとの重なりなどを考え、自分の人生を決めていく感覚を持っていただきたい」と高尾先生は訴えた。

短期間に何度も服用する人が現れるのではないか、薬剤が裏で出回るのではないか、といった懸念については「薬剤師の面前で服用するため、店外で出回ることはありません」と説明。その上で、「緊急避妊薬は避妊できなかった緊急時のためのもの。普段から別の方法で避妊を心がけるとともに、もしもの時には緊急避妊薬というセーフティネットでカバーする、という考え方を、日本でも数多くの人に持っていただく必要があります」と呼びかけた。

  • 高尾美穂先生が壇上で解説する様子

    「緊急避妊薬はもしもの時のためのセーフティネット」と語る高尾美穂先生

最後に「男性だけに避妊を任せるのではなく、女性自らも避妊を考え、パートナーとして男女で避妊方法を検討する機会をもってほしい。そしてもしもの時にも緊急避妊薬というセーフティネットが準備されていることも知っていただきたい」と語り、解説を締めくくった。

市販化が投げかけるもの

緊急避妊薬「ノルレボ」の市販化は、単に購入場所が増えるという話にとどまらない。避妊や妊娠に対する自己決定を、社会全体でどう支えていくのかを問い直す動きでもある。2月2日の発売を前に、その意味を改めて考えさせられる勉強会となった。

高尾 美穂先生プロフィール

産婦人科医・医学博士・産業医
女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。婦人科診察を通し、女性の健康を幅広くサポート。働く女性のための産業医として企業を支える傍ら、内閣府男女共同参画局、人事局などで教育講演を担当。婦人科スポーツドクターとして日本スポーツ協会ではスポーツドクターの養成に携わるほか、骨盤底筋トレーニングヨガ、アスリートヨガをはじめ、ヨガ指導者を育成するセッションも積極的に行っている。また、X(旧Twitter)、YouTube、stand.fmなど、SNSでの発信にも力を入れている。