
2012年のジュネーヴモーターショーにてイタリアの名門、カロッツェリア・トゥーリング・スーパーレッジェーラが発表したディスコ・ヴォランテは、同社が1952年に手掛けた「アルファロメオ1900 C52クーペ」へのオマージュだった。ディスコ・ヴォランテはイタリア語で”空飛ぶ円盤”を意味し、同車の流麗で未来的なフォルムに由来する。アルファロメオ8Cコンペティツィオーネ(クーペ、スパイダー共に500台限定)をベースに、クーペを8台、スパイダーを7台製作した。
【画像】ディスコ・ヴォランテに6速MTの移植をした「ディスコ・ヴォランテ・マヌアーレ」(写真21点)
そんなディスコ・ヴォランテは8Cコンペティツィオーネのハードウェアを流用していたので、マセラティ由来の4.7リッターV8自然吸気エンジンとセミAT(カンビオコルサ)が組み合わせられていた。そこに目をつけたのがスイス・ティチーノ州を拠点とする、オフィチーネ・フィオラヴァンティだ。
2019年に設立されたオフィチーネ・フィオラヴァンティは、イタリアンスーパーカーのレストモッドに特化した小規模なカロッツェリアである。創設者のトゥスコ・カヴァッリはレーシングドライバーで、芸術と自動車工学への深い造詣を持つ。2022年、9,000回転まで回るフェラーリ・テスタロッサのレストモッドで注目を集め、その後アルファロメオ8Cコンペティツィオーネに6速MTを移植するレストモッドで確固たる地位を築いた。
オフィチーネ・フィオラヴァンティの哲学は明確だ。派手な外観変更や過剰なパワーアップではなく、オリジナルデザインを尊重しながら現代技術と伝統的な職人の技芸の融合を図ることだ。
そんな同社がカロッツェリア・トゥーリング・スーパーレッジェーラの100周年を祝して、ディスコ・ヴォランテに6速MTの移植をした「ディスコ・ヴォランテ・マヌアーレ」を発表した。8Cコンペティツィオーネのレストモッドでオフィチーネ・フィオラヴァンティにはMT移植のノウハウが蓄積されているからこその”作品”である。
ゲート式6速MTはカスタムメイドのハウジング、露出したリンケージ、オフィチーネ・フィオラヴァンティのロゴが刻まれた18金のコインを埋め込んだ無垢材のシフトノブを備える。また、ブレーキシステムも一新された。オリジナルのカーボンセラミックブレーキはネガティブな批評に晒されることもあったが、新しいカーボンセラミックユニットが解決している。
一方、パワートレインは手つかずのままだ。マセラティ由来の4.7リッターV8自然吸気エンジンは450馬力を発生し、クロスプレーンクランクが生み出す官能的なサウンドを奏でる。
ディスコ・ヴォランテ・マヌアーレは、単なる技術的アップグレードではなく、アナログ運転体験への回帰である。クラッチペダルを踏み込み、シフトレバーを操作し、エンジンの回転数と車速をドライバーが調和させる。この一連の動作は、運転という行為を単なる移動手段から、五感を使う体験へと昇華させる。
オフィチーネ・フィオラヴァンティによれば、ドライバーと車の結びつきをより強烈にできる部分にのみ手を入れたという。それが6速MTとブレーキだったのだ。レストモッド文化における重要な一面、それは過去への単なるノスタルジアではなく、歴史的名車が本来持っていた可能性を現代の技術で解き放つことだ。
なお、気になる価格については言及されていないが、そもそも15台しか存在しないディスコ・ヴォランテゆえに……
文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)
Photography: Officine Fioravanti