• 今泉力哉監督

    今泉力哉監督

――成田さんは、今泉監督らしさを特に感じるところは?

成田:テレビドラマの現場で一緒にやらせてもらうのは初めてなので、どういう空気なのかなと思っていたのですが、いつもとまるで変わらない空気感で(笑)。でも、このドラマだからこそやることみたいなものがたくさんあるので、今泉さんの作品として捉えてやっているかもしれないですね。

――内堀さんは、今泉作品らしさを特にどんなところで感じますか?

内堀:いつもと変わらないことやってるなという感じです(笑)。今泉さん自身が頑固に芯を持ってやり通している。それをずっとやり続けることで、作品の強度みたいなものが高まっていってるので、すごくいいなと思います。

――杉咲さんとの共演の印象は、いかがですか?

今泉:たくさん殴られたり、叩かれたりしてましたよね(笑)

内堀:でも、ちゃんと痛く叩いてくれてるから演技をしなくていいので、やりやすかったです(笑)

今泉:(杉咲が内堀に)すごくほっぺをつねるんですけど、僕からはそれが見えないんで撮ってる時は分かってなかったんですよ。「ほっぺが取れる」って言うんですけど、そんなセリフがないので…

内堀:「ほっぺが取れる」は言ってくださいって言われましたよ(笑)

今泉:あ、言ってた!? でもそんなことが起きているとは知らずに見ていたので、面白かったです。ほかにも、ベッドから落ちるシーンもやってる中で起きたことで、追いかけ回して馬乗りになるシーンもあんなにカメラの近くでやることになるのは、偶然の産物です。

杉咲:あのシーンは楽しかったです(笑)。でも申し訳ないので、これから痛いことがあったら言ってください(笑)

内堀:「痛くてうれしいです」って伝えるってことですか?

杉咲:あっ、違います(笑)

しつこく返す登場人物に「うるさいな!」

――今泉監督、オリジナルの脚本でテレビドラマを作ることについて、改めてどう感じますか?

今泉:自分はずっと映画を撮っていて、CMが入ることとか、時間がきちんと決まっているということに不慣れな中でどういうことができるのかと思っていたのですが、本当に贅沢に作らせてもらってますし、いろんな人が無料でいろんな場所で好きに見られるという環境下でこの作品がどう届くのかがすごく楽しみです。しかも50分×10話、映画5本分くらいの長さで表現できますからね。もちろん怖さもありますけど。

――リアルタイムで感想を追っちゃいそうですね。

今泉:エゴサしちゃうかも…。映画とテレビドラマって(感想のポスト数の)量が全然違うじゃないですか。『アンメット』にちょっと出てたんですけど、エゴサしたらすごかったので、楽しみですね。

――セリフを書く上で苦労したことはありますか?

今泉:タイトルが『冬のなんかさ、春のなんかね』なんですが、具体の意味のある言葉の前に「なんか」と置くことって、すごく大切に「この言葉って間違いないのかな」と思ったり、発することで起きる相手の感情とのやり取りとか、それをみんなが気にするような言葉がいっぱいあるようなドラマになると思ってこのタイトルにしたんです。1話を見ても、永遠に質問返ししていくみたいに、しつこいぐらい返す会話があって、現場でも「うるさいなこの人!」って思ったんですけど(笑)、それくらいワンターンで終わることを細かく細かくやっています。自分の作品の特徴でもあるけど、どうしても削られがちなところもたくさん残せると、現実世界とドラマの世界が近づく気もしています。劇伴もたくさん作ってもらっている中で最小限に使うことによって音楽が流れない時間が増えると、現実世界とのリンク率が上がるのかなと思っています。

――今だからこそ出演者の皆さんに聞きたいことはありますか?

今泉:セリフの莫大な量とかどうですか?

杉咲:覚えるの大変ですよね…。

成田:相づちを覚えるのが大変なんですよね。長く回してずっと会話してるので、「そうなんだ」「そう」「うん」とか覚えられない(笑)。「えっ」とかも脚本に書かれてるから、おおおお覚えにくいっ!

杉咲:衝撃的なのが、今泉さんが脚本に書いたセリフとか演出した内容のことを全然覚えてなくて(笑)。「相手の言うこと聞く前に何かを察してニヤニヤする」というト書きがあって、それ通りにやったら、今泉さんが「なんでニヤニヤしてるんですか? 次に言うこと分かっちゃってる人みたいだから、ニヤニヤしないで!」って言われて(笑)

今泉:現場で台本を見てなくて芝居見てるから、「なんで先に察してニヤニヤしてんの?」って思ったら、「書いてあった」と言われて(笑)。ほかにも「ズンズン歩く」って書いてあって、皆さんがズンズン歩くから「速い、速い」って言っちゃったり。勢いで書いてるので、覚えてないんですよね。よくないことですね。すいません。やっぱり現場で相手の人と見るとそうじゃないと思っちゃうんです。

杉咲:入口も出口も決まっていないというか、現場で起きたことを尊重してくださったり、アイデアを取り入れてくださったりするので、楽しいです。

今泉:今後の撮影でも長いセリフがたくさんあるんですけど、ご負担をおかけしますが、より良いシーンになればと思っています。あとは、オリジナル作品の良さって、どこに向かっていくのか全く分からないじゃないですか。それも一緒に楽しんでもらえればと思います。

多くの人から分かりやすく共感を得られるような作品ではないかもしれない

――最後に、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

成田:当たり前に悩んでて、当たり前にちょっと変わってたりして、当たり前に生きづらさを日々感じながら生きてると思うんですけど、それぞれ当たり前が違うんだなと思います。この作品を見て、一人に一言でも、自分を肯定できるようなものに出会えたら幸せだなと思って日々撮影しています。春まで、ぜひ楽しんでください。

杉咲:このドラマは、多くの人から分かりやすく共感を得られるような作品ではないかもしれないんですけど、人にはなかなか理解してもらえないような、ごくごく私的で勝手な葛藤や苦しみ、世の中にまだ浸透していないような悩み、優しい人が優しすぎるがゆえのささくれのような痛み、小さな小さな喜びが描かれていて、どこかにいるかもしれない一人一人に向けられて作られたドラマだと思います。その一人が、この劇場にいる誰かだったり、テレビの向こう側にいる誰かだったらいいなと願っています。ドラマに関わる時間はこの先もずっと続けていけたらいいなと思っているのですが、世界でたった一つの一本を、みんなで毎日心を込めて撮影していますので、どうか最後まで見届けていただけたらうれしいです。

今泉:ものを作る時に「誰かのため」が先に来ると傲慢になったり、強いものになってしまう気がしているんです。まずは「自分のため」に作るでいいと思っていて、それが結果的に誰かの助けや救いになったら、よりいいなと。テレビって無料で、触れようとしない人がつけたチャンネルで描かれていることで、いろんな人がいろんな場所で好きに見られるので、誰も見てないかもしれないけど、誰かが見てるかもしれない――そう思える瞬間がたくさんあるドラマになればいいなと思っています。