テイト・マクレーの最新モードを考察 世界を制したポップスターが「悲しみ」を歌う理由とは?

2025年に大躍進を果たしたカナダ発の新星テイト・マクレー(Tate McRae)。飛躍の一年を語った独占インタビューに続いて、ライター・辰巳JUNKが彼女の最新作『SO CLOSE TO WHAT??? (deluxe)』を解説。踊れるポップスターによる「深化」の現在地に迫る。

〈街広告に、高層ビルに、モンスタートラックに私の名前が載ってるのを見てるでしょ〉(「ANYTHING BUT LOVE」)

今、世界を背負う新スターこそテイト・マクレー。

北米シーンで空席になっていた「踊れるポップスター」の座に君臨してみせた22歳として、ブリトニー・スピアーズやジャネット・ジャクソンといったレジェンドにも認められた逸材だ。

この一年間では、アルバム(最新アルバム『So Close To What』)とシングル(モーガン・ウォレンとの楽曲「What I Want」)の両方で全米ビルボード1位を獲得し、100万人を動員した世界ツアーも完走。母国カナダを代表する音楽賞ジュノアワードでは4部門を席巻し、アメリカでもVariety誌ヒットメイカーズ・アワードで「パワーハウス・オブ・ジ・イヤー」に選出された。今年の2月には、人気映画『F1/エフワン』提供曲「Just Keep Watching」によって初のグラミー賞ノミネートを果たし、授賞式も控えている。

そんな勢いとどまらぬテイトが出したばかりの話題作こそ、3rdアルバムのデラックス版『SO CLOSE TO WHAT??? (deluxe)』。ここで追加された5曲は、世界を制したばかりのアーティストとしては予想外な暗さに満ちている。ツアー中に人知れず抱えていた、等身大の不安と悲しみ、怒りが渦巻いているのだ。

昨年9月26日・27日、ロサンゼルス・Kia Forum公演のライブ写真(Photo by Beth Saravo | @baeth)

「踊れるポップスター」の数奇な歩み

これまでのテイト・マクレーについておさらいしよう。2003年カナダ西部に生まれ、ダンス講師の母のもと4歳からはじめた踊りの才能はまさに一流。8歳で名門バレエ校に入学したあとには、ベルリン国立バレエ団の奨学金を獲得し、ジャスティン・ビーバーのツアーのキッズダンサーにも選出された。

パワフルなダンサーのテイトだが、本人は内向的な気質。学校でいじめられ、8歳のころからダークで歪んだイマジネーションを詩と音楽に注いでいたという。

歌手としてのキャリアも、この二面性を行き来しながら進んだ。14歳のころ、ダンスチャンネルとして始めたYouTubeにふとアップした自作バラード「One Day」が話題になりレーベル契約。初期はビリー・アイリッシュのようなDIY作風のサッドガールとして活動していた。

テイトにとってダンスと作曲は別々のものだったが、20代になり「踊れるポップスター」になることを決意。ステージ上の人格「タチアナ」を生み出し、セクシーで自信に満ちたR&Bポップ「greedy」によってビルボード世界1位(Billboard Global 200、1位)に到達してみせた。

一人前のスターとしての才能を証明してみせた到達点こそ、3rdアルバム『So Close To What』だった。2000年代のティンバランド、ネリー・ファータド流のビートを取り込み、リスナーが浸りながら踊れるサウンドを確立したのだ。

ダンサーとしても進化を重ね、馴染みがなかったハイヒールを着用したハードな振り付けにも挑戦。新たなる代表曲「Sports car」のミュージックビデオでは、12着もの衣替えを行いながら恋のアドレナリンを高速なスポーツカーとして表現した。ジャージークラブ風の「Revolving door」においても、恋愛や人生が回転ドアに閉じ込められているような感覚を女性ダンサーたちとのコレオで描き出している。

深化の一手『SO CLOSE TO WHAT??? (deluxe)』

『So Close To What』が進化のアルバムだったとしたら『SO CLOSE TO WHAT??? (deluxe)』の新曲群は深化の一手と言えるだろう。

元々、このアルバム題は、私生活が予想不可能になるなかステージに立ち続けなければいけない戸惑いを表していた。大文字で疑問符つきになったデラックス版は、そうしたアイデンティティ不安がさらに強まったことを意味している。というのも、世界中で80もの公演をこなしていったツアー中、ラッパーの恋人、ザ・キッド・ラロイとの破局が報じられたのだ。

本人も「どん底」だったと認める時期を描いたデラックス版の5曲は、喪失を経験した人の受容プロセスをモデル化した「悲しみの五段階」に似た構成になっている。第一段階「否認」にあたるのが「TRYING ON SHOES」。彼女のステージを見て呆れた顔をしてくる恋人に不信をつのらせながら、別人になれるか試してみる現実逃避が美しいオーケストラによって奏でられる。

ツアー中テイトが聴き込んでいたというラナ・デル・レイとのタッグでも知られるプロデューサー、エミール・ヘイニーと制作されたこの序曲は、キャリア初期のサッドガール作風のゴージャスな再解釈でもある。

第二段階「怒り」が炸裂するのは「ANYTHING BUT LOVE」。家族もペットの犬もあなたのことが嫌い、あなたは私の成功に嫉妬してる……といったパンチラインが優雅に歌われていく。

悲しみの三段階目「取引」とは、救いを求めて何かにすがろうとする局面だ。スピリチュアルな人間を自称するテイトは「NOBODYS GIRL」にてツアー中に20人ものヒーラーを訪ねたと語っているが、最終的にたどり着いたのは音楽だった。

「毎日、楽屋に座って、退屈で仕方がない時間を過ごしているうちに、音楽を作ることがどれだけ魔法みたいな行為なのか、そして自分が文字どおり現実世界の妖精や天使になれるんだって気づいたの」。

シルヴィア・プラスやアナイス・ニンを読みふけりながら書き溜めていった詩は、ニューヨークのスタジオで音楽に変身していった。

儚いシンセサイザーと強靭なパーカッションが交差する「NOBODYS GIRL」は、繊細なかたちで詞の奥深さを活かした新境地と言えるだろう。これまでより明確になったボーカルによって独り身になる緊張感と解放感を行き来していき、ポエトリーリーディングのような啓示の瞬間をつくりだす。

〈22歳で少し悲しいけど でも楽しい  私は誰のものでもない、それがたまらなく好き(たまらなく)まさに望んでいたこと〉(「NOBODYS GIRL」)

マルセイユ国立バレエ団の監督をつとめる舞踏集団(LA)HORDEが振付を担当した神秘的なミュージックビデオが象徴するように、テイトが得たものは、一人の女性としての自立だ。

悲しみを受け止める第四段階「抑うつ」を展開させるダウンテンポR&B「HORSESHOE」でもテイトらしいリリシズムが光る。ここで彼女は、夢を叶えたスターとしての幸福を認めている。恵まれた環境に感謝しているのに悲しみに襲われている混乱が提示されていくのだ。

ユニークなのは、本人もお気に入りという歌詞〈一人きりの私はポップスターじゃない〉。リスナーのほとんどは、テイトのような2万人の前でパフォーマンスする立場にない。それでも、彼女が歌う、一人きりでベッドに入ったときの孤独を通して、心から共感することができる。

パワフルなパフォーマンスで名声を博したテイトだが、ファンの心を掴む大きな理由は、本人が言う「人生のぼんやりとした感覚」をとらえた心理描写にこそある。

フィナーレを飾るのは、Spotify USチャート1位に輝いたバズヒット「TIT FOR TAT」。喪失を受け入れる最終段階の「受容」だが、アティチュードは好戦的。というのも、デラックス版がリリースされる前の段階で、ラロイのほうが破局を嘆きながら自らの献身を主張するかのような新曲「A COLD PLAY」を発表してきたのだ。

これに怒ったテイトは「TIT FOR TAT(お返し)」として、相手の身勝手さを攻撃。ROSÉ & ブルーノ・マーズの大ヒット「APT.」を手がけた作曲家エイミー・アレンらしいチャントで開幕し、元カレなしでパーティーを満喫する近況を突きつけて終わる。

新年早々リリースされるラロイの新アルバム『Before I Forget』によってまた一悶着あるかもしれないが、それでもテイト・マクレーへの快哉は止まらないことだろう。作詞にも秀でる「踊れるポップスター」の才能を証明した『SO CLOSE TO WHAT??? (deluxe)』を経て、芸術的アーティストとしての次の一歩を期待したい。

テイト・マクレー

『SO CLOSE TO WHAT??? (deluxe)|ソー・クロース・トゥー・ワット(デラックス)』

再生/購入リンク:https://tatemcrae.lnk.to/SCTWdxJPN

【収録曲】

1. TRYING ON SHOES  *新曲

2. ANYTHING BUT LOVE  *新曲

3. NOBODYS GIRL  *新曲+MV公開

4. HORSESHOE  *新曲

5. TIT FOR TAT *新曲

6. Miss possessive

7. Revolving door

8. bloodonmyhands (feat. Flo Milli)

9. Dear god

10. Purple lace bra

11. Sports car

12. Signs

13. I know love (feat. The Kid LAROI)

14. Like I do

15. It's ok I'm ok

16. No I'm not in love

17. Means I care

18. Greenlight

19. 2 hands

20. Siren sounds (bonus)

21. Nostalgia