名古屋鉄道は12月12日に緊急社長会見を開き、「名古屋駅地区再開発計画」および「名鉄名古屋駅再整備計画」の延期と計画の見直しを発表した。名鉄名古屋駅の地上部を含む6つのビルを解体し、2棟の高層ビルに建て替えるという計画で、手狭になっていた名鉄名古屋駅を改良するチャンスだった。
残念な知らせとなった。名古屋鉄道は名古屋圏のまちづくりに積極的に関わってきた企業であり、名古屋駅地区再開発計画は新たな名古屋のシンボルとして、自治体、経済界、そして多くの市民から期待されていた。名古屋鉄道にとっても、企業グループの新時代を象徴するプロジェクトだった。2024年3月、約20年ぶりに「名鉄グループ経営ビジョン」を刷新し、同年8月にスローガンとして「名鉄×WAO!」を掲げた。
しかし今回の発表に、「ワオ!」ではなく「ワーォ……」と唸ってしまう。
「名古屋駅地区再開発計画」は、名古屋鉄道、名鉄都市開発、日本生命保険、近畿日本鉄道、近鉄不動産による共同事業で、名鉄名古屋駅の上部にある名鉄百貨店本館と名古屋近鉄駅ビル、名鉄バスターミナルビル、大手町建物名古屋駅前ビル、名鉄レジャック、日本生命笹島ビルを解体。新たに「北街区」「南街区」という2棟の高層ビルにする計画だった。
この計画で、手狭になった名鉄名古屋駅の拡張改良をはじめ、老朽化した建物群や営業不振だった名鉄百貨店のリニューアルなど、名鉄が抱える課題を一度に解決できるはずだった。すでに名鉄ホールが設備老朽化で2015年に営業終了し、利益を生まない空間になっている。
延期の理由は、ゼネコン3社による共同企業体(JV)から11月26日付で入札辞退の申入れがあったからだという。事業規模や工事の難易度などから施工体制の構築が困難とのこと。辞退の申入れに付された新たな見積りは、名鉄が投じる総工事費8,880億円の2倍近い金額だった。記者会見の映像を見ると、名古屋鉄道の高崎裕樹社長は20年前から再開発を構想していたと言い、無念のあまり声が震えているように聞こえた。
「名古屋駅地区再開発計画」の延期は、「名鉄名古屋駅再整備計画」の延期でもある。この2つはセットになっている。なぜなら、名鉄名古屋駅を拡張しようとすると、各ピルの基礎部分にかかってしまうからである。
名鉄名古屋駅は1941(昭和16)年、新名古屋駅として開業した。駅とその南側の土地、今回の再開発計画用地は、かつて国鉄用地だった。国鉄は名古屋駅改築移転の費用を捻出するため、1937(昭和12)年、名鉄の申し出に応じて土地を払い下げた。関西急行電鉄(現・近畿日本鉄道)も国鉄名古屋駅用地の払下げを希望していた。そこで名鉄と関西急行電鉄の話し合いが持たれ、関西急行電鉄が譲歩し、用地の一部について使用権を得ることで合意している。その名残として、名鉄名古屋駅と近鉄名古屋駅はいまも隣接している。
名鉄は新名古屋駅と同時にターミナルビルを建設する計画で、阪急電鉄の小林一三から経営戦略の指導も受けていた。しかし、すでに日中戦争が始まっており、政府は1938(昭和13)年に物資動員計画を制定。鋼材の使用を制限した。そのため、駅は開業したものの、駅ビルは基礎工事にとどまり、2階建ての駅舎を建てることになった。
名鉄百貨店の開業は戦後、1954(昭和29)年のことである。関西急行電鉄は関西急行鉄道、さらに近畿日本鉄道へと改組される間も、新名古屋駅の改札口とコンコースを共用していた。近鉄名古屋駅ビルは1966(昭和41)年に竣工。このとき改札口の共用は終わった。
現在の名鉄名古屋駅と近鉄名古屋駅をはじめ、払下げ用地に建ったビル群も、名鉄名古屋本線の線路際にビルの基礎を打ったと思われる。つまり、これらのビル群がある限り、名鉄名古屋駅の拡張はできない。ただし、ビルを解体すれば基礎部分を再配置できる。「名古屋駅地区再開発計画」は名鉄名古屋駅にとって拡張のチャンスだった。
現在の配線となるまでの歴史をたどる
新名古屋駅(現・名鉄名古屋駅)は、名岐線の岐阜~枇杷島橋(現・枇杷島分岐点)間を南へ延長する形で開業している。その3年後、新名古屋~神宮前間の東西線を開業し、豊橋線とつながることで、名古屋本線の現行ルートが完成した。当時、新名古屋駅の配線は2面3線だった。当初から名岐線と豊橋線を結ぶ計画だったため、大手私鉄で採用した行き止まり式ではなく、通過型の駅となった。前述の通り、西側の線路は関西急行電鉄と連絡線でつながっており、1952(昭和27)年まで両社を直通する臨時列車が運行されていた。
名古屋鉄道(現)の前身だった名古屋電気鉄道は、1922(大正11)年に市内路線を名古屋市へ譲渡しており、以後は名古屋鉄道(旧)として郊外方面の路線に力を入れていた。1930(昭和5)年、美濃電気鉄道と合併し、社名を名岐鉄道に変更。1935(昭和10)年、神宮前~豊橋間を運行する愛知電気鉄道と合併し、社名を名古屋鉄道に戻した。新名古屋駅の完成は、名古屋鉄道にとって6年ぶりとなる名古屋駅前への復帰だった。
1954(昭和29)年、念願の名鉄ビルが完成し、名鉄百貨店が開業した。あわせて新名古屋駅の構内配線を変更。このときに近鉄との連絡線を撤去している。西側にホームを新設し、近鉄線連絡口を設置。3本あった線路のうち、中央の線路を廃止してホームを拡幅した。東側のホームも拡張して3面2線に。ホーム3面の西側は岐阜方面の乗車用、中央は降車と特別車(指定席)の乗車用、東側は豊橋方面の乗車用として使用されている。
その後、1969(昭和44)年に外側のホームを拡幅。1975(昭和50)年にホームを新岐阜(現・名鉄岐阜)側に延長。1986(昭和61)年に下りホームを移動して拡幅するなどの改良工事を実施した。旅客増加に応じた列車編成に対応するためだった。現在、名鉄名古屋駅のホームは名鉄の標準的な19mの車両で10両分の長さがある。
しかし、いくつか解決すべき課題がある。延長したホームが曲線部分にかかるため、列車とホームの間に大きな隙間ができてしまう。運転士・車掌からホーム全体を見通しにくい上に、名鉄岐阜側の約2両分はホームが狭く、乗降できない。それゆえに、現在の名古屋本線は最長8両編成にとどまっている。
名古屋鉄道は名鉄名古屋駅を中心とした路線網を形成し、ほとんどの支線から名鉄名古屋駅へ直通できる。ところが、名鉄名古屋駅の線路は2本しかないため、過密状態になっている。名鉄名古屋駅で折り返す列車を設定すると、線路をふさぐ時間が長くなるため、かつて豊橋側・岐阜側にあった渡り線も撤去されてしまった。列車の折返しは名鉄名古屋駅ではなく、そのまま名古屋本線またはその先の支線に乗り入れて折り返す。
ほとんどの支線から名鉄名古屋駅へ列車が集まり、また各方面へ出発していく。つまり、同じホームから異なる行先の電車がたくさんある。乗り間違いを防ぎ、乗車待ちの列を整理するため、行先ごとに列車の停止位置をずらして対応している。これにより、乗りたい路線ごとに電車の扉の位置が変わる。利用者は乗りたい電車の行先を記した看板の前に並び、目の前の扉が開いたら乗る。それでもラッシュ時間帯は乗客をさばききれず、名鉄名古屋駅の手前で折り返す列車も設定されている。
解体を先行して駅を改良したいが…
名古屋鉄道は、2017年にも「名古屋駅地区再開発 全体計画」を発表していた。このときは再開発区域全体にわたる大型高層ビル計画で、これに合わせて名鉄名古屋駅の敷地も倍増するとされ、2019年3月の「名鉄名古屋駅4線化計画」で配線も示された。しかし、コロナ禍の影響でこの計画は延期に。その後、「名古屋駅地区再開発計画」(2025年3月発表)に改められた。もっとも、名鉄名古屋駅部分は2019年の計画を踏襲しているように思える。
名鉄名古屋駅は4面4線にする計画とされている。駅全体を現在より南側に移設し、太閤通りまで延長する。ホームは北街区に収まり、列車のほとんどが直線部分に停車する。ホームドアも設置でき、ワンマン運転を導入しやすくなるだろう。各ホームの用途は示されていないが、空港アクセス列車専用ののりばが用意されるかもしれない。
工事は2期に分けられ、第1期は再開発ビル南側の地下に移設して3面2線に。ホームの使い方はそのままと思われる。第2期で4面4線が完成。2026年度に着工し、2033年度に第1期竣工、2040年代前半に2期工事終了というスケジュールだった。それが未定になった。
「名鉄名古屋駅再整備計画」は未定になった。あくまで延期であり、中止ではないだろう。仮に地上部のビルの建替え規模が縮小したとしても、名鉄名古屋駅の4線化はやるべきだし、そのためにビルの基礎を動かす「名古屋駅地区再開発計画」がある。名鉄名古屋駅はすでに1970年代から混雑しており、解決すべき課題があった。それから半世紀。ビルの老朽化に伴う建替えをじっと待っていたに違いない。
しかし、名鉄の発表によれば解体工事も延期になってしまったという。既存のビルの解体工事も延期だから、先に駅だけ改良するわけにはいかない。名鉄百貨店、近鉄パッセは2026年2月末の営業終了を発表している。名鉄百貨店はすでに従業員の再配置計画を進めており、営業終了を延期できないという。近鉄パッセも同様と思われる。ボーリング場などがあった名鉄レジャックは解体され、交流広場「Meieki Parklet」となった。名鉄バスターミナルビルも、バスターミナル部分の移転が決まっていた。
大手町建物名古屋駅前ビルは三井不動産とつながりが強いというが、名鉄が買収する予定だった。大テナントのヤマダデンキは、再開発に対して何も発表していない。日本生命笹島ビルは、かつて日本IBMが入居していたことで知られるが、現在はフロア単位で貸し出すオフィスビルとなっている。この2つのビルでテナント移転問題を解決させ、各ビルの解体工事だけでも先行させ、駅の拡張を進めてほしいところだが、費用だけかかって売上が見込めない現在の状況では厳しいだろう。
これは名鉄名古屋駅だけの問題ではない。JR九州の博多駅橋上複合ビルは中止となり、新宿駅の京王電鉄とJR東日本による南街区の再開発ビルも施工会社が決まらず、完成時期が未定になってしまった。南街区の完成後、京王百貨店のある北街区も建替え予定だった。中野サンプラザの建替えも、総事業費が当初の倍近くなり、白紙になってしまった。
今後、高度成長期に建設された大型建築物が老朽化していく。その建替えと再開発は、鉄道の改良においてもチャンスといえる。ゼネコンも大きな仕事を受注したい。人手不足、建設費問題を解決しなければ先に進めない。人手不足は外国人労働者を受け入れて早期解決を図るか、AIとロボットの進化に期待するか。国民の豊かな暮らしを実現し、いまから少子化に歯止めをかけたとしても、生まれたこどもたちが生産年齢に達するまで約20年かかる。
鉄道駅の改良計画延期に日本経済の冷え込みを感じるとは言いすぎだろうか。いずれにしても、官民が知恵を絞って解決するしかない。








