どうして遠くまで走れるか、分かった気がする。
練習を始めて小一時間。クロスバイクを復活させた担当のRさんは、いつもより高い声で、そう言った。
ビンディングペダルは安全で快適なシステム
初心者にとって、ビンディングペダルは高い敷居だ。「そろそろ挑戦してみましょうか」と提案すると、Rさんが明らかに乗り気ではなかった。それが初心者の正しい反応である。
誤解されがちだが、ビンディングペダルは安全で快適なシステムである。このシステム最大のメリットは安定性の向上にある。シューズとペダルが一体化することで、荒れた路面や段差を通過したときもシューズが不用意に動かない。ペダルを踏み外すことがなくなり、非常時のバイクコントロール性も向上する。しかも、外すときは踵を外側に捻るだけだ。
考えてみよう。スキーやスノーボードをするのに、足とボードが固定されていなかったら……思うままに滑れないだろう。サイクリングでもシューズとペダルの一体感は欠かせない。ペダリング中、不用意に足の位置が動くと、ペダルに力が十分に伝達されずパワーロスする。
いざという時に足が出ないのは心配だろうが、走行中に急に足をついて止まれば、それこそ転倒したり、足首を傷める。足を着けば安全という発想は捨てよう。着地するときは数メートル前から準備し、十分に減速してからという意識を徹底すること。
さて、Rさんが今回使用したのは、シマノの入門用ビンディングペダル“PD-EH500”と、街乗りや通勤用として人気の“SH-EX300”のウイメンズモデル。ペダルは片面に着脱が簡単なビンディング機構を搭載し、反対側はスニーカーでもペダリングしやすいハイブリッド仕様だ。シューズはソールに凹みがあり、クリート(固定具)が出っ張らないので歩きやすい。
ビンディングペダルとクリートには組み合わせが決まっている。クリートには2つのボルトで固定するSPDタイプと、3つ穴のLOOK(SPD-SL)タイプがある。走行中に脱着が多いオフロードやツーリングではSPD、脱着の少ないロードバイクでは3つ穴タイプが使われる。
今回は片面だけビンディング機構のついたSPDペダル&シューズのセットアップからはじめてみた。片面が専用シューズでなくともいいので、平日の通勤時と、休日のサイクリングモードで使い分けもできる。
慎重にクリート位置を決める
クリートの位置はビンディングペダルの脱着しやすさを決める大切なポイント。ペダルシャフトの中心線が母指球と小指球を斜めに結んだ、そのラインの中心と重なるポイントに取り付ける。正しいポジションに金具(クリート)があれば、シューズの脱着が無理なく行えるようになる。言葉にすると簡単だが、初心者が一人で作業するにはハードルが高い。難しいと感じたならば、ショップに依頼するのが簡単で面倒がない。
自分で行うなら、シューズを履いて母指球(や小指球)と足の指の付け根にある出っ張っている部分をペンでマーキングし、写真のようにマスキングテープで位置を確認する。クリートのセッティングはわずかな位置の違いでも、大きく走行感が違う。脱着のしやすいポイントをみつけて、しっかりと固定ボルトを締める。
キチンとクリートのセッティングが決まれば、あとは簡単。固定力調整ができるペダルであれば、まずは最弱に。足が外れないかも……という不安を最小にしたら、いよいよ走りだそう。
ペダルにシューズを嵌めるのは、必ず右足から。ペダルを下死点(時計の6時の位置)に動かし、シューズの裏についた異物を踏み潰すように、左右に数回ぐにゅぐにゅっと動かすと、カチッとクリック音がしてシューズがロックされる。
まずは右足、左足は落ちついてから嵌める
自転車は止まっている状態が、もっとも不安定。そこで発進したら、素早く加速して自転車を安定させよう。早く両足をビンディングペダルに嵌めたくなるかもしれないが、それは車体が安定してからでいい。
低速状態で、ペダルを見ながら嵌めようとするのはNG。真っ直ぐ安定して走れるようになったら、左ペダルがいちばん下になるポイントに。視線を前に向けたまま母指球でペダルを踏む。すぐに嵌まらなくても、焦りは禁物。落ちついて、ゆっくりと動作を繰り返していると、ごりっと金属が噛み合う感触があり、クリートはペダルに固定される。視線を落とさずともシューズは自然と嵌まる。
- 真っ直ぐ安定して走れるまで加速
- 左足をいちばん下に
- 母指球でペダルの中心を軽く踏む
- 固定音がするまで足を左右に動かす
以上が嵌めるときのプロセスだ。
踵をスライドさせて、外す
初心者の落車は7割以上が発進、停車する直前に起きる。それ故、止まるときもゆっくりと冷静に。リリースするときは、踵を外側にスライドさせるだけでいい。
なのに、転倒するのは、シューズを外すタイミングとリリースするときの位置に問題があることが多い。そして、減速するときは最後にゆっくりと。電車の減速をイメージし、停車前は緩やかな減速で止まるようにコントロールするのがコツだ。では、一連の動作を確認してみよう。
- 止まる目標地点を決め、早めに減速
- 右ペダルをいちばん下に、右足でペダルの上に立つ
- お尻を浮かせ、停車位置の4~5m手前で左足の踵をスライド
- 少し前に足を出すようにし、停車と同時に着地
この手順を正しく守れば、転ぶことはない。このプロセスは意識しなくてもできるように繰り返し練習する。Rさんも、いつの間にかサドルに座ったまま着地をしていた。そうしたほころびが、落車の基になる。
しかし、他にトラブルらしいトラブルもなく、Rさんは小一時間でビンディングペダルでの走行を身につけた。速度ゼロで転ぶ、いわゆる立ちゴケはしたが、芝生の上に転んだのでケガもなし。
最後になったが、初めてビンディングペダルの脱着を練習するときは転んでも心配ない場所、サイクリングコースのある大きな公園や、湖畔や河川沿いのサイクリングロードなど、クルマがいないコースで練習すること。また、正しい発進と停車ができているかパートナーに確認してもらおう。
通常のフラットペダルでのサイクリングも気軽でいいが、ビンディングペダルなら、自転車との一体感も得られる。その効果はクロスバイクのような入門用スポーツバイクでも十分に得られる。もっと遠くまで、さらにラクに走れるのを目指してみよう。






