埼玉西武ライオンズの西口文也監督(写真:産経新聞社)

野球人生をかけた最後の1年‐GM兼代行監督

選手、監督、フロントとしてライオンズに長く関わってきた20年間を渡辺久信が振り返る!『獅子回顧録』より、「野球人生をかけた最後の1年」西武再建の舵取り役に西口文也新監督をなぜ選んだのかを明かした部分を一部抜粋で公開です。

(文・渡辺久信)

 

[sp_ad]

 

「ただ正直、指導者には向いていないだろうと感じていた」

 

 シーズンを戦いながら、同時並行で次期監督との交渉も進めていた。

 

 翌シーズン以降のチームのためにGMとしての仕事も果たさなければいけない。

 

 何人かの候補の中で、最終的にオファーを出したのが二軍監督を務めていた西口文也だった。現役時代は西武一筋21年、大エースとして通算182勝を挙げた。私とは現役時代に3年間、監督と選手として6年間、ともに優勝を目指して戦っていた時代がある。

 

 性格はのほほんとしていて、闘志を内に秘めたタイプ。感情を表に出すことはめったにない。周りを引っ張る性格でもなく、自分がやるべきことに集中する。

 

 それが、現役時代の西口の印象だ。結果を出せば文句は言われない立場にいたので、それで構わない。ただ正直、指導者には向いていないだろうと感じていた。

 

 とはいえ、立場が変われば、人は変わる可能性がある。西武で実績を残した選手だけに、できることなら、指導者としても西武の力になってほしい。

 

 そんな気持ちもあり、現役引退後の2016年は球団本部編成部に籍を置く形で、台湾、韓国、アメリカ独立リーグに派遣して、指導の勉強をする場を意図的に設けた。

 

 2017年には二軍投手コーチを任せたが、そのシーズン途中に一軍投手コーチの森慎二が劇症型溶連菌の感染によって急逝したことにより、6月下旬から一軍投手コーチに就いた。

 

 慎二は指導者に向いた人柄で、選手からも慕われていた。西武にとっては大事な人材を失った……。慎二のことは第4章でまた改めて記したい。

 

 西口は2018年からそのまま一軍投手コーチを引き継ぎ、リーグ優勝を経験。ただ、前述したように優勝こそしたが、投手陣がまだ不安定な時期でその責任というか批判が西口に集まるようになっていた。

 

 球団の中には、西口の指導力に疑問符をつける人もいた。私からしてみれば、そもそもの投手陣の力量が弱く、すべてが西口の責任だとは思えなかったが。

 

 2022年、二軍監督の座が空いたときに、球団内で誰を据えるかが議論された。「西口にやらせましょう」と提案したのは私だった。球団はすぐに同意はしなかったが、私はとっておきのフレーズを用意していた。

 

「地位が人を育てることもあるので、西口に任せてみましょう。組織の〝長〟として任せることで、自覚や責任が生まれて、もしかしたらあいつの良さが出るかもしれません。だって、何よりも私がそうでしたから。二軍監督として組織のトップに立つことで、全体のマネジメントをよく考えるようになりました」

 

 選手時代の渡辺久信を見て、「指導者に向いている」と思った人などひとりもいないはずだ。周りのことなど考えず、自分が結果を出すことを主眼に置いていた。

 

 そういった意味で、私と西口は似ている。それでも、私はさまざまな人との出会いや、立場を経験していく中で、物事の見方や伝え方を学び、監督業のやりがいを知ることができた。だから、西口も変わる可能性があると思ったのだ。

 

 私のプッシュもあって、「西口に二軍監督をやらせてみよう」という流れになった。結局、2022年から3年間務めたが、そこで球団側の見方がいい方向に変わっていった。

 

 具体的な変化は、周りの人の話をよく聞くようになったことだ。チームをマネジメントしていくときに、自分だけの気持ちを主張しても周りはついてこない。

 

 耳を傾け、周りの意見も尊重し、時には自分の気持ちを押し殺すことも必要になる。二軍監督をする中で、そうしたところに目がいくようになっていた。

 

 私自身も西口を推薦した手前、「どうにか変わってほしい」という気持ちがあった。だから、「お前自身が変わらないといけないよ」とことあるごとに伝えていた。

 

 元来、西口は「勝負師」の素養を持っている。優しそうに見えるが、厳しさもある男だ。

 

 采配面で言えば、リスクを背負いながらも攻めの一手を打てるタイプ。きっと、再建途中の西武をいい方向に導いてくれるはずだ。

 

 

 

書籍情報

『獅子回顧録』

渡辺久信 著 定価1,980円(本体1,800円+税)

 

「ライオンズは強くなければいけない」

チームづくりに奔走

栄光と苦悩と激動の20年

 本書は、選手、監督、フロントとしてライオンズに長く関わってきた私が『獅子回顧録』と題して、チームづくりを振り返る一冊となる。幸せなことに、愛するライオンズで現場のトップとフロントのトップの両方を務めさせてもらった。選手時代を振り返る章もあるが、2004年に二軍の投手コーチとしてライオンズに復帰してから、GMを務めた2024年までが中心となる。

 

 

【購入はこちらから】

書籍『獅子回顧録』

 

【了】