「沈黙の臓器」と呼ばれる腎臓。その働きが低下していても、相当悪くなるまでほとんど自覚症状が現れません。「なにかおかしい」と気づいたときには腎不全に近い状態になっていたということも少なくないようです。今回は、腎臓に負担をかける生活習慣と、その改善方法をわかりやすく紹介します。
腎臓は働き者で弱音を吐かない健気な「沈黙の臓器」
物事の重要な点を「肝腎かなめ」と言います。この肝腎とは、肝臓と腎臓のこと。どちらも生命の維持にとって欠かせない重要な臓器です。そしてこれら2つの臓器は、ともに「沈黙の臓器」と呼ばれています。機能が低下しても自覚症状に現れにくい臓器だということです。しかも、肝臓は再生力があるのに比べ、腎臓は再生力がほとんどなく、機能がいったん低下してしまったら、それを回復させることはしばしば困難です。近年では腎臓の重要性がますます注目され、「腎臓が寿命を決める」とさえ言われることもあります。
腎臓の役割と、腎機能低下の影響
腎臓の大きな役割は、血液をろ過してきれいにし、老廃物を尿として排泄すること。この働きが低下すると、血液中に老廃物が溜まりやすくなります。そして、腎機能低下がより進行して腎不全に近づくと、ようやく、むくみや皮膚のかゆみ、倦怠感、吐き気などの「尿毒症」の症状が現れてきます。こうなると、生きるために透析治療を始めるか腎移植を検討しなければなりません。
また、腎臓は血液のろ過以外にも、体内の水分の量やミネラルのバランスを整えたり、赤血球の産生を促して貧血を防ぐように働くホルモン(エリスロポエチン)や血圧の調整にかかわるホルモン(レニン)を分泌したり、ビタミンDの活性化により骨の健康を維持したりしています。そのほかにも、免疫機能の維持や血糖の新生など、さまざまな重要な働きを担っていて、ろ過機能の低下とともにこれらの働きも低下してきてしまいます。
さらに重要な点は、腎機能の低下にあわせるようにして動脈硬化の進行が速まり、心筋梗塞などの発作が起きやすくなることです。実際、腎臓病の患者さんは腎臓病そのものではなく、動脈硬化による心臓病などで亡くなる方が多いことが知られています。
日本人の5人に1人は慢性腎臓病(CKD)
腎機能が慢性的に低下した状態を「慢性腎臓病」といいます。英語(chronic kidney disease)の頭文字をとって「CKD」と呼ばれることもあります。
腎機能を表す「eGFR(推算糸球体ろ過量)」という検査値が60を下回っている場合、CKDに該当する可能性が高いと考えられます。そしてなんと、日本国内のCKDの患者数は約2,000万人と推計されていて、成人の約5人に1人が該当するほどの多さです。
腎臓に負担をかける生活習慣
なぜ、それほどCKD患者さんが多いのでしょうか? 理由の一つは人口の高齢化ですが、もう一つは生活習慣に起因する病気、つまり生活習慣病が増えている影響と考えられています。それは、腎臓の機能がほとんど失われてしまい、透析が必要になる原因をみるとよくわかります。透析を始めることになる原因疾患の第1位は糖尿病を主要原因とする腎臓の病気(糖尿病性腎症)ですし、高血圧が関係している腎臓の病気(腎硬化症)も増加してきています。また、糖尿病や高血圧を引き起こすことの多い肥満、あるいは痛風の原因である高尿酸血症なども、腎機能の低下を招きます。
腎臓に負担をかける生活習慣として、以下の習慣が挙げられます。
・ 塩分の摂りすぎ…血圧の上昇につながり、腎臓に負担をかけます。
・ 運動不足…肥満、および糖尿病や高血圧、脂質異常症、高尿酸血症など、腎機能低下につながる多くの生活習慣病のリスクを押し上げます。
・ 食事のバランスの乱れ…食事のバランスとは、量のバランス、栄養素のバランス、そして食べる時間帯のバランスという3つの意味があり、これらが乱れていると、肥満や糖尿病などのリスクを高め、それによって腎機能低下のリスクが高まります。
・ アルコールの飲みすぎ…飲酒も高血圧や高尿酸血症などのさまざまな生活習慣病のリスクを押し上げることを介して腎機能低下を招きます。
・ その他…上記以外に喫煙も、CKDやCKD患者さんの寿命を左右することの多い動脈硬化を進行させます。また、ここまでは主にCKDにつながる生活習慣を挙げましたが、CKDとは別に、腎機能の急速な低下(急性腎障害と呼ばれます)を起こしやすい生活習慣も挙げることができます。例えば夏場の水分摂取不足による脱水や、何らかの市販薬(NSAIDと呼ばれる痛み止めなど)の不適切な使用による副作用、短時間の大量飲酒などです。
腎臓を守るために今日からできる工夫
腎機能低下の一因が生活習慣にあるということは、逆に言えば腎臓を守るために自分自身でできることがあるということです。減塩、適度な運動、食習慣の見直し、禁煙、節酒、脱水予防、薬の適切な使用などを心がけてください。
小さな生活習慣の改善が腎臓の寿命を延ばす
腎臓は健気な「沈黙の臓器」です。「もう耐えられない」と音を上げ、むくみなどの自覚症状を現し始めるのは、すでに腎不全に近い状態になった時です。そうなる前に、小さな生活習慣の改善を積み重ねて腎臓を助けてあげましょう。そして、ぜひとも腎臓に長生きしてもらいましょう。なぜなら、腎臓は「寿命を決める」こともあるほど、大切な臓器だからです。
最後に腎臓への負担に関して、腎臓内科の専門医に聞いてみました。
医学用語で「慢性」は治らない、「急性」は治ることを意味しましたが、慢性腎不全も治り得ることが分かってきました。脱水で急性腎不全になっても点滴で腎機能が回復したらご破算リセットされるとされていましたが、点滴で腎機能が回復してもボディブローのように腎臓にダメージが残り、将来CKDの原因となる可能性があります。「炎天下のスポーツや飲まず食わずの仕事で脱水になっても、後から水分補給すればなかったことになる」わけではないのです。経口補水液が塩や糖を含むことを多くの方が心配しますが、ある程度の塩や糖がないと飲んだ水分が血管内に移行せず、腎臓に届きません。
“メタボな生活”も腎臓によくありません。適度な運動・バランスのとれた食事・減塩・禁煙は糖尿病や高血圧を生じるリスクを減らしてCKDを予防します。
カリウム、カルシウム、マグネシウム等のミネラルや食物繊維、タンパク質を増やし、飽和脂肪酸やコレステロールを減らすDASH食※は塩分を尿に排出してくれます。毎日体重を測り脱水になっていないか? 太ってきていないか? 見張ることも有用です。不適な降圧薬なども避けるべきです。
まだ腎臓病になっていない方がCKDを予防するには、以上のポイントを心がけましょう。
※Dietary Approaches to Stop Hypertensionの略。高血圧を防ぐための食事法
福田 道雄(ふくだ みちお)先生

一宮西病院 腎臓内科第二部長 / 腎&シャント・レミッションセンター長
資格:日本腎臓学会 腎臓専門医、日本透析医学会 透析専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医
