2025年12月3日に発売された『将棋世界2026年1月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)は、第56期新人王戦決勝三番勝負(服部慎一郎七段vs 斎藤明日斗六段)第2・3局の服部七段による自戦記「オレたちの最終決戦(ラストイヤー)」を収録しています。本稿では当記事より、一部を抜粋してお送りします。
好発進
6日の第1局は、序盤で主導権を握られ面白くない展開だったが、粘り強く指すことができ、幸先のよいスタートを切ることができた。私が出場した過去2回の決勝戦は相手が同じ関西所属の棋士だったため、決勝を東京で戦うのは今回が初めてだ。この第2局を落としてしまうと1週間後にまた東京遠征となるため、ここで決めたい。
対局者の斎藤六段は幅広い作戦家だ。東西の所属は違うが、ネットで指したり、会ったときにはご飯にいったりと交流がある。後輩の面倒見がよく、将棋の研究もしっかりされていて、憧れの先輩の1人だ。作戦豊富な斎藤六段が後手から何をやってくるか、さっぱり想定できず結局、出たとこ勝負でいくことになった。
翻弄
第2局は私の先手で、初手に☗2六歩と突いた。大勝負では☗7六歩から矢倉を目指すこともあるが、今回は変えてみた。後手横歩を目指すなら☖3四歩だが、本譜は☖8四歩と追随型を目指してきた。この手を見て相掛かりをやろうと決めた。
本譜は途中までは定跡形に進んだが、玉を6二に持ってくるという新しい指し方をされ若干、横歩取りを思わせるような空中戦に持ち込まれてしまった。
(中略)
一局を通して斎藤六段の趣向に翻弄されてしまった。これを決めたら優勝だと、どこか浮かれたところがあったのだろう。次はもっと気を引き締めなければ、と反省した。
決戦の日
ついに運命の日を迎えた。泣いても笑っても新人王戦はこれが最後。前日、新幹線で移動しながら初出場の三段時代のことを少し思い返していた。持ち時間をうまく使うことができず、2時間近く余して負けた。あの頃よりは成長しただろうか。明日は悔いのない一局にしたい。
振り駒の結果、先手番になった。定刻になり対局が始まるが、相変わらず向こうの作戦が読めない。今度こそ後手横歩かと思っていたが☗7六歩に☖8四歩と突かれ、後手追随型の連投となった。 もう一度、相掛かりを指してみたいとも思ったが最後の一局なので、前回とは変えて矢倉でいくことにした。
(中略)
部分的な形でありそうだが、前例と合流しているのかもわからず、完全な手将棋だと感じていた。指していてワクワクしたが、やはり優勝がかかった一番だという重さもあった。
☗6六銀右に☖同銀は正直驚いた。当然考えられる手だが、☖6四銀と引かれるような気がしていたからだ。今期順位戦で斎藤六段―木村九段戦で局面は違うが、似たような将棋で☗6六銀に☖6四銀と引いていた。本局もそうなるだろうと見ていたため、まさかこのような急展開になるとは思っていなかった。
(中略)
相当厳しいと感じていたが、☗4四歩ととにかく指した。逆転するならここしかない。ここで☖5八竜なら負けだった。本譜は☖6五桂☗8七玉と進む。ここで斎藤六段の手が止まる。
自分は負けだと思っていたが、読みを進めるとどう負けなのかわからなかった。一分将棋になるまで考えて☖6九角と指される。ただ、これには☗7九銀打が堅い。
☖5二玉まで進んで、間違いなく逆転していると感じた。だが、どれも少し勝ちそうな気はするのに、すんなり勝つ順が思い浮かばない。104手目☖7七歩を☗同桂と取るようでは変調だと思っていた。終局後、☖5二玉には☗9八玉を指摘された。普段の自分なら、間違いなく好みそうな手である。
やはり、優勝がかかった大一番、視野が狭くなっていたのだろう。113手目☗5五金と打ったところで下段に玉を落とす形になり、ゴールが見えてきた。
卒業
☗6五桂と打ち、勝ちだと思った。☗7三桂成まで進み、確信した。その手を見て斎藤六段は投了した。その後のインタビューは、二転三転の激しい一局だったため、頭の回転が追いつかなかった。囲み取材が終わった後、ロビーに出ると佐々木八段と宮嶋四段、先ほどまで激闘を繰り広げた斎藤六段が待っていた。
「服部さん、何おごってくれますか」と関東流の祝福を受け、一気に優勝の実感が湧いた。前日にA級順位戦の対局を終えたばかりで疲れているにもかかわらず、駆けつけてくださった佐々木八段には感謝しかない。関西に戻ってからもたくさんの方から祝福していただいた。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
10月31日には故郷の富山で北日本新聞文化賞贈呈式に出席した。その挨拶で次はタイトルを持って帰ると約束した。
決意も新たに帰路につく。サンダーバードに乗り込んで、ふと昔の自分を思い出した。研修会、奨励会と1人で大阪に通ったな。11月6日にはまた順位戦がある。B1の後半戦が幕を開ける。新人王戦を卒業し、次の舞台へと船出だ。
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ほかにも、
・伊藤匠叡王・王座のインタビュー記事「自分はまだまだ伸びる。将棋に集中したい」
・吉池隆真四段による第15期加古川清流戦決勝三番勝負第3局の自戦記「叶えたい夢」
・中七海女流三段インタビュー「女流棋界は三強時代になるか? 期待のホープは謙虚なオールラウンダー」
・矢口亨の写真と文章でお届けする、中村太地八段の「それも一局」
・新担当・岩村凛太朗新四段による懸賞詰将棋
といった記事もあり、指す将・観る将はもちろん、それ以外の方にも楽しんでいただける一冊になっています!
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