
現役ドラフトを目前に控えるなか、巨人・山瀬慎之助の“契約保留”が話題となった。この一件は、単なる球団内の火種にとどまらず、NPB全体に横たわる「移籍の壁」を改めて浮かび上がらせた。大型トレードの減少、FA制度の機能不全、そして人的補償がもたらす萎縮——。閉塞した環境のなかで埋もれていく選手をどう救うべきか。(文・八木遊)
話題を呼んだ巨人・山瀬慎之助の”契約保留”
12球団の契約更改が順調に進んでいるが、最も大きな話題を呼んだのが巨人・山瀬慎之助が1度目の契約を保留したというニュースだ。
各社の報道をまとめると、出場機会増を求めた山瀬が球団と話し合いを進める中で、契約更改の交渉がまとまらず保留。それを自身のSNSで発信したことが波紋を呼んだ(のちに削除)。
結局、山瀬は2度目の交渉でサインしたが、球団との間に火種”が残ったのは間違いないだろう。
巨人の捕手事情を改めてまとめると、2024年シーズンは、岸田行倫を中心に大城卓三と小林誠司を併用するなど固定できずにいた。ところが、昨オフに甲斐拓也をFAで獲得。「優勝しないと意味がない」と勝てる捕手を宣言した甲斐が、不動のレギュラーに落ち着くはずだった。
実際にシーズン序盤の甲斐は高打率を維持し、攻守でチームを引っ張った。しかし、ケガによる離脱などもあり、移籍1年目は68試合の出場にとどまり、チームは阪神タイガースに独走を許しての3位に終わった。
甲斐と岸田が先発マスクをかぶった時のチーム成績を比べると、甲斐の31勝32敗1分に対して、岸田が35勝31敗3分。来季に向けて岸田がレギュラーに近づいた形だ。
顕在化した“捕手問題”
捕手陣の年齢を見ると、同学年の甲斐と大城が来季開幕時点で33歳となるほか、小林誠司も36歳と高齢化が進んでいる。レギュラーに近づいた岸田にしても29歳で、すでに中堅どころ。今秋のドラフトでも育成3位で高校生1人を指名しただけだった。
来季に関しては、甲斐と岸田が正捕手を争うことになりそうだが、24歳の山瀬も二軍で不動のレギュラーとして活躍。持ち前の強肩と一気に開花した打力を武器に、次世代の正捕手候補と目されている。それだけに、巨人としては山瀬を簡単に放出はできないだろう。
奇しくも元捕手の阿部慎之助監督のもとで、“捕手問題”が顕在化した形だが、そもそも日本のプロ野球はチーム間の移籍が少なすぎるのも問題だ。
チームの主力選手同士を交換するいわゆる大型トレードなどはほとんど見られなくなり、FAにしても権利を取得した選手が“宣言”する必要がある。人的補償が生じる弊害もあり、多くの選手がFA宣言自体に消極的なのが現状である。
「飼い殺し」を防ぐためにーーNPBに求められる次の一手とは
ただ、ここ数年は2022年に始まった現役ドラフトで移籍した選手の活躍も目立つようになり、徐々にチーム間の移籍も活性化しつつある。“飼い殺し”のような状況を避けるためにも、さらなるルール作りを模索していくべきだろう。
具体的には現役ドラフトの各球団の指名数を最低3~4人に増やしたり、メジャーリーグで“事実上の戦力外”と呼ばれるDFAのような制度を取り入れたりしてもいいのではないか。
たとえばシーズン中に二軍落ちが一定数を超えた場合や、二軍で一定の成績を残しても一軍出場がない場合は、ウェーバー公示を強いられるなど、若手の起用を球団に促す方法はあるだろう。まさに、今季一軍で1試合の出場に終わった山瀬のような選手を救うためのシステムである。
結果的に、球団に噛みついた形となった山瀬は9日に行われる現役ドラフトで指名されることになるのか、それとも日本ハムから巨人にFA移籍した松本剛の人的補償として指名されるのか、はたまた巨人に残留し自らチャンスをつかむのか―――。
もし残留となれば、厳しい立場で来季の開幕を迎えることになるのは間違いない。山瀬の心中やいかに。
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