三谷幸喜のオリジナル脚本で、1984年の渋谷「八分坂」という商店街を舞台にした群像劇のフジテレビ系ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(毎週水曜22:00~ ※TVer、FOD、Netflixで配信)の第9話が、26日に放送。今回は蜷川幸雄を演じる小栗旬にも驚いたが、最終幕スタートの見どころと、“気になるあの役”を演じる、野間口徹について語ってみたい。
【第9話あらすじ】「舞台、見させてもらったよ」…降って湧いた奇跡
深夜のWS劇場。演出家の久部三成(菅田将暉)は、思いを寄せる倖田リカ(二階堂ふみ)と2人きりでいる。リカを守るためにリカの元情夫・トロ(生田斗真)を追い出した久部の勇敢な一面を見て、リカも少しずつ久部に惹かれ始めていた。親密な雰囲気が漂う中、久部は、劇場が軌道に乗ったら『ハムレット』を上演するつもりだと語る。
ハムレットは久部自身が演じ、その恋人・オフィーリアはリカに演じてほしいと言う。「演出家の先生に任せるわ」とリカは久部の思いに応じる。「これからも私たちを引っ張っていって」とリカは久部にささやく。2人は手をつなぐと飲み屋へと向かう。
その頃、八分神社の居間では巫女の江頭樹里(浜辺美波)が物思いにふけっていた。久部とリカの関係が気になってしょうがないのだ。そんな娘の気持ちを悟った父の論平(坂東彌十郎)は、「あの2人に恋愛関係はないような気がするなあ」とつぶやきながらとすごすごと去っていく。しかし、樹里はどうしても不安を打ち消せず…。
そんなある日、WS劇場のオーナー・ジェシー才賀(シルビア・グラブ)が闇取引のボディガードとしてトニー安藤(市原隼人)を貸してほしいと言い出す。舞台に穴を開けるわけにはいかないと久部は悩むが、従わざるを得ない。トニーもすっかり役者に目覚め、舞台を取ろうとしたが、久部劇場存続のため、行くことになる。
いつトニーが帰ってくるのか。そんなバタバタの状況で進む舞台。アドリブや演出変更で乗り切っていたところ、トニーがタクシーで駆けつけ、舞台はようやく本筋に戻る。しかし、そのタクシーを警察が尾行していた。
刑事(小林隆)がWS劇場でトニー逮捕に現れる。しかし恋仲にあるパトラ鈴木(アンミカ)や他の役者陣の芝居で、トニーがストリップ小屋の迷惑客だという設定を信じ込ませ、舞台は無事。だがジェシーが関わっていることで、このままでは久部劇場の存続も危うい。
そんな不安のなか、とんでもない来客が訪れる。久部が尋ねるとそれは、久部が憧れてやまない蜷川幸雄(小栗旬)だった。「舞台、見させてもらったよ」…降って湧いた奇跡に久部も驚きを隠せず…。
連ドラとして最強の伏線、謎、環境を整えて最終幕へ
キュン…とした。正直、驚いた。まさかリカが久部にキスをするとは…。まさかリカが久部の魔法にかかったかのように、久部になびき始めたからだ。その後の展開にも笑わされた。2人が急接近している煩悩(?)が頭から離れず、必死で、巫女姿に紙垂(しで)を振り回し、2人の別離や妄想を打ち消そうと乱れまくりの樹里の神への祈祷姿も、かわいくて声を出して笑ってしまった。
それと驚いたのは、アンミカだ。これまでも存在感を放ってはいたのだが、トニー不在の舞台中の間を引き伸ばす彗星フォルモン(西村瑞樹)とパトラの漫才。バラエティにも強いアンミカの面目躍如かと思いきや、舞台存続のために、トニーをストリップの迷惑客として警察に信じさせるお芝居として、パトラがトニーをビンタをするシーン。パトラの心情を考えると切なく、やるせない。その心の葛藤が見事に芝居に乗っていた。アンミカの持つポテンシャルの高さが際立った回であり、存続の危機の伏線としても見事の一言だった。
また、三谷氏の原点・東京サンシャインボーイズの小林が、刑事として久部劇場という“魔法の空間”に現実を放り込んできた場面。これもうなった。さすがの小林の存在感、また“現実感”で、いつこの久部の魔法が解けてしまうか分からない場面において、数シーンの出演だけで心がギュッとつかまれた。その演技力は、もう見事というほかない。三谷氏と最も色濃く現実的につながる小林が、この“現実”役として現れたのはメタファーとして機能しており、キャスティングもここまで練り込んであるとは…。スタッフ陣の才気と本気がビンビン伝わる。
そして何よりも小栗旬! ラストに久部の前に現れたのが蜷川幸雄氏であり、さらにはそれをまさかの小栗が演じる。これには思わず「あ!」と声が漏れてしまった。久部の夢がかなうかもしれない瞬間であり、最終章の幕開けとしても、ふさわしい人選だ。
ただ、一つだけ逆説的な難点がある。本当に面白いドラマは、こうした仕組みや背景などを考える暇もなく没頭してしまうものだ。視聴者が分析できてしまうという作品は、それ自体が目的でない限り、視聴者を選ぶ。だが、筆者はこういうドラマも好きだ。「語りたくなるから」。もちろん、「面白かった」「やばかった」というシンプルな語彙に感想が集約されてしまう作品は間違いなく面白い。ここ最近、「犯人探し」の考察ドラマ以外で、ここまで「語りたくなる」作品は少なかったのではないか。
そういう意味でも『もしがく』は貴重。知的かつ楽しく、さらに、映画好きが映画館を出たあと、作品について「語り合う」あの楽しさを本作は与えてくれる。
そんな本作がいよいよクライマックスへ! 録画などをしていて、「まだ手を付けてない」という方は、これを機会に一気見してもらいたい。冒頭頃、ネガティブな記事が多かったせいで、観るのに悩んでいる方もいるかもしれない。でも安心していい。尻上がりに面白くなっている。


