デザインの現場でプロジェクトを進めるにあたって、やってしまいがちなのが「質問攻め」。クライアントから「正解を聞き出す」ことが目的になっていませんか?

「でざいん姉さん」としてSNSで日々デザインに関する発信をしている佐野五月さんは、「ヒアリングは質問タイムではなく共創タイム」だと指摘します。

それは一体、どういうことなのでしょうか? 佐野五月さんの新刊『デザインはヒアリングからはじまる』(マイナビ出版)から一部を抜粋し、ヒアリングにおける見落としがちなポイントを解説します。

  • クライアントのヒアリングがうまくいかないと、その後の仕事も苦労してしまう(『デザインはヒアリングからはじまる』P.12より)

    クライアントのヒアリングがうまくいかないと、その後の仕事も苦労してしまう(『デザインはヒアリングからはじまる』P.12より)

答えを聞き出すのではなく、導き出すことを意識する

ヒアリングの目的は、「正解を聞き出すこと」ではありません。むしろ、クライアントと一緒に答えを見つけていくという姿勢が求められます。

クライアントは自分の業界に関しては詳しいものの、デザインについては専門外であることがほとんどです。ですから、ただ質問を重ねるだけでなく、対話をとおして少しずつ方向性を整理していきましょう。この「一緒に見つけていく」という姿勢こそがヒアリングの基本であり、信頼関係を築く第一歩になります。これが、質の高い提案につながる大切な土台となるのです。

「ヒアリング=ただ質問するだけ」と考えていると、クライアントにプレッシャーを与えてしまいます。たとえば「どんなデザインがいいですか?」と質問しても、デザインの専門家でないクライアントが答えるのは、なかなか難しいことです。

これは病院で「治療法を自分で決めてください」と言われるのと似ています。クライアントは「こうなりたい」という願いは持っていますが、「どうすればいいのかはわからない」のが普通です。

  • 「何を聞くか」より「どう聴くか」を意識する

    「何を聞くか」より「どう聴くか」を意識する

質問を矢継ぎ早にしない

「こうなりたい」という思いはあっても、それを具体的な言葉で説明するのはむずかしいことです。これはとても自然なことなので、私たち制作者は、その「言葉になっていない想い」をくみ取り、まとめて、提案へとつなげていくことが求められます。

たとえば、家づくりや病院での相談を思い浮かべてみてください。「理想の間取りは?」と急に聞かれても、すぐには答えられませんよね。病院で「症状を詳しく教えてください」と言われても、どこから説明すればいいのか迷ってしまうことがあります。

これは「考えはあるけれど、うまく言葉にできない」という段階にいるだけで、決して何も考えていないわけではありません。

要望をしっかり理解したいと思うあまり、つい質問を次々にしてしまうと、相手は「責められているように感じる」ことがあります。とくに、まだ自分の考えがまとまっていないときには、「どう答えればいいのかわからない」と戸惑うことも少なくありません。

たとえば、「ご希望は?」「どうされたいですか?」と立て続けに尋ねてしまうと、クライアントは“じっくり考える”よりも“とにかく答えなければ”という気持ちになりがちです。その結果、表面的な返答しか引き出せず、相手の本音や本質にたどり着くのが難しくなります。

  • 要望を知りたくて次々と質問すると、かえって相手が戸惑ってしまうことも

    要望を知りたくて次々と質問すると、かえって相手が戸惑ってしまうことも

うまくやらなきゃ……と意識しなくて大丈夫

ヒアリングでよくある悩みは、「緊張してしまう」「うまく話せない」というものです。でも、ヒアリングは“話す場”ではなく“聴く場”。完璧に話そうとするより、相手の言葉を受け止め、理解しようとする姿勢のほうが何倍も大切です。

ヒアリングはプレゼンではありません。用意した質問をすべてこなすことよりも、その場の空気を感じ取り、相手の言葉の裏側にある想いや背景を探ることを優先しましょう。

「ちゃんと聞く」「わからないときは聞き返す」それだけでも「この人なら任せられそう」と思ってもらえる十分なきっかけになります。細かい言葉選びよりも、まずは聴こうとする姿勢こそが、相手に安心感を与え、ヒアリングを前に進めてくれるのです。

また、緊張してしまうのは、相手の声を大切にしたいという真面目さのあらわれかもしれません。だからこそ、「話すこと」よりも「丁寧に聴くこと」に意識を集中させてみてください。聴く姿勢が自然に整えば、頑張って話そうとするよりもリラックスして挑むことができ、相手も安心して話してくれるようになります。

  • 「緊張してしまう」「うまく話せない」と悩むより、相手の言葉を聴く姿勢を見せることが大切

    「緊張してしまう」「うまく話せない」と悩むより、相手の言葉を聴く姿勢を見せることが大切

オープンマインドを忘れずに

人はどうしても「こうあるべきだ」という自分なりの考えを優先しがちです。固定観念にとらわれてしまうと、クライアントの言葉を素直に受け止めることが難しくなります。 自分が持つ知識や経験が、必ずしも正解とは限りません。クライアントにはそれぞれの事情や背景があります。「なるほど、そういう考え方もあるのか」と受け入れる姿勢を心がけましょう。

  • クライアントの発言から、新たなヒントやアイデアが見えてくる
  • 「当たり前」や「慣れたやり方」にしばられず、柔軟に選択肢を広げられる
  • 制作者ひとりでは思いもよらない、意外な着想が生まれることもある

「そんな視点もあるのか」と気づける場面がヒアリング中には多くあります。クライアントの言葉の中には、制作のヒントとなる“種”がたくさん隠れています。

そのため、ヒアリングは単に話を聞くだけでなく、一緒に可能性を広げる時間でもあるのです。

書誌情報

書名:デザインはヒアリングからはじまる
著者名:佐野五月
書籍:2,497円
電子版:2,497円
判型:A5
ページ数:272ページ
発売日:2025年11月21日
ISBN:978-4839988067
マイナビBOOKS
Amazon

2026年1月24日、大阪で出版記念イベントを開催

『デザインはヒアリングからはじまる』の発売を記念して、イベントを開催します。 詳細は、マイナビBOOKSの特設ページをご確認ください。

<概要>
日時:2026年1月24日(土) 14:00開場/14:30開演/16:30終演予定
場所:株式会社マイナビ大阪支社 マイナビルーム(〒530-0011 大阪府大阪市北区大深町4番20号 グランフロント大阪 タワーA 31階)
参加費:
書籍+チケット 5,000円(税10%込み)
チケットのみ 3,000円 (税10%込み)
定員:80名 ※先着順

<内容>
・ヒアリングテクニックが学べるデザイン姉さん特別セミナー
・佐野さんが考える「ヒアリング」の力とは(宮田シロクさんとのお仕事事例)
・Q&Aコーナー

<出演者プロフィール>
佐野五月
アートディレクター・ブランディングデザイナー

宮田シロク
仕事運専門占い師。副業から独立した経験をもとに、西洋占星術で個々に合った働き方を設計。がんばり方のズレを整え、「好き」を仕事にする方法を提唱。モットーは「ヘルシーに働く」。