岡山大学附属中学校で11月5日、日本最適化栄養食協会との共催による特別プログラム「食とウェルビーイングを考える」が実施された。現代社会が抱える栄養課題や多様化する食のあり方をテーマに、生徒たちは講義・試食・ディスカッションと情報共有を通じて“食と心身の健やかさ”のつながりを探究。自らの体験を起点に、誰のための食か、幸福とは何かを考える学びの時間となった。

食とウェルビーイングの関係を探る、学びと実践の特別授業

同プログラムは、日本最適化栄養食協会との共催により、現代社会が抱える栄養課題や多様化する食の在り方をテーマに、生徒が主体的に学ぶ探究型授業として実施。授業には中学1・2年生の34名が参加し、IR室と調理教室を舞台に、講義・発表・実践を通して“食と心身の健やかさ”のつながりを考えた。

冒頭、社会科の三村脩祐教諭が開会の言葉を述べ、「今日の学びを通して、自分たちの生活を見つめ直し、新しい気づきを持ち帰ってほしい」と呼びかけた。続いて、オンラインで登壇した狩野光伸附属学校機構長が、「食事の際に考えることは『何を食べるか』『誰と食べるか』『どう食べるか』の3つ。これらを意識することでウェルビーイングにつながる」と語り、授業の趣旨を共有した。

同氏はまず、「最適化栄養食」とは何かを紹介。栄養バランスの可視化を目的とする認証制度や、災害時・高齢化社会における栄養課題への活用事例を解説した。「完全食」など根拠に乏しい表現があふれるなかで、科学的エビデンスに基づいた栄養基準の重要性を強調し、「今日の学びが、自分自身や社会の“よりよく生きる”食を考えるきっかけになれば」と語りかけた。

  • オンラインで講話する狩野光伸附属学校機構長。食とウェルビーイングの関係について語りかけた

    オンラインで講話する狩野光伸附属学校機構長。食とウェルビーイングの関係について語りかけた

災害時にも“食のバランス”を - 3年生が発表した探究成果

授業の前半では、3年生3名が「災害時の食」をテーマに探究成果を発表した。発表のきっかけは、南海トラフ地震の発生確率が引き上げられたというニュースだった。「災害が起きたときでも健康に過ごせる食事とはどのようなものか」という問いから始まり、日常と非常時の双方で栄養バランスを保つ重要性を探った。

生徒たちは、災害時に炭水化物中心の備蓄食が多く、野菜やたんぱく質、食物繊維が不足しがちな現状を指摘。平時からの「ローリングストック」(日常備蓄)を通して、栄養バランスの取れた食生活を意識することが大切だと訴えた。また、水や火が限られる状況を想定し、最小限の調理で作れるレシピの工夫や、缶詰・乾物・冷凍野菜の活用など具体策も提示した。

さらに、生徒たちは校内での普及を目指し、非常時に役立つ「災害時栄養レシピ」をまとめた啓発プリントを制作。家庭での試作やアンケートを重ねながら、より多くの人に伝える取り組みを進めている。「普段から料理を作ることが、いざというときの健康維持につながる」と発表を締めくくり、ウェルビーイングな社会の実現に向けた自分たちの貢献を言葉にした。

  • 災害時の栄養確保をテーマに探究成果を発表する3年生。下級生たちは、先輩の具体的な提案に熱心に耳を傾けていた

    災害時の栄養確保をテーマに探究成果を発表する3年生。下級生たちは、先輩の具体的な提案に熱心に耳を傾けていた

栄養バランスの“見える化”が、健康を守る第一歩に

続いて、日本最適化栄養食協会 事務局長の前島秀樹氏が登壇し、「最適化栄養食とは何か」をテーマに講義を行った。前島氏は冒頭で、「健康を損なう前の“未病”の状態から元に戻るために最も大切なのは、栄養バランスを整えること」と語り、その具体的な仕組みを説明した。

協会では、有識者を集めて科学的根拠に基づいた最適化栄養食の基準を定め、その適合性を審査判定する認証制度を運用しており、基準をクリアしたものに認証マークを付与している。このマークは「栄養バランスが整った食の証」であり、年齢・体格・活動量など個人差を踏まえて総合的に評価する仕組みだという。「完全な栄養食というものは存在しません。一人ひとりに合った栄養を考えることが大切です」と強調した。

また、現代社会における課題として、若年層のやせ志向や子どもの栄養不足、中年の肥満、高齢者のフレイル(虚弱)問題を挙げ、「栄養バランスの改善がすべての世代の健康維持につながります」と指摘。さらに、有事においてもその考え方は重要だとし、実際に能登半島地震の被災地で最適化栄養食を活用した支援事例を紹介した。

  • 日本最適化栄養食協会 事務局長の前島秀樹氏。最適化栄養食の意義をわかりやすく解説した

    日本最適化栄養食協会 事務局長の前島秀樹氏。最適化栄養食の意義をわかりやすく解説した

“最適化栄養食”を実際に体験、食から考えるウェルビーイング

講義のあとは調理教室に会場を移し、最適化栄養食認証を取得した市販食品を試食する時間が設けられた。生徒たちは、「完全メシ カレーメシ 欧風カレー」と「完全メシ 汁なしカップヌードル」を手に取り、湯を注いで実際に試食。出来上がった食品を味わいながら、「美味しい!」「普段あまり食事について考えたことなかったけど、将来的に商品開発の仕事とかも面白そう」といった声が上がった。

  • 生徒たちが試食した「完全メシ カレーメシ 欧風カレー」と「完全メシ 汁なしカップヌードル」。試食を通して栄養と健康に関する理解を深めた

    生徒たちが試食した「完全メシ カレーメシ 欧風カレー」と「完全メシ 汁なしカップヌードル」。試食を通して栄養と健康に関する理解を深めた

  • 試食を行う生徒たち。実際に食べることで栄養バランスの大切さを体感した

    試食を行う生徒たち。実際に食べることで栄養バランスの大切さを体感した

三村教諭や前島氏も各テーブルを回り、生徒たちと意見を交わした。「食べることで“体の声”を聞くことが大切。今日の体験を、日々の食事を見直すきっかけにしてほしい」と語りかけ、生徒たちはうなずきながら真剣に耳を傾けていた。

ホワイトボードを囲み、意見を交わす - “誰のための食か”を考える探究の時間

試食後のディスカッションでは、教室中に熱気が広がった。生徒たちはホワイトボードを囲みながら、「最適化栄養食が活用できるシーン」をテーマに自由に意見を書き込み、付箋や図を使って整理していった。発表の前には各グループの代表が他班を訪れ、アイデアを交換。教室のあちこちで、「災害時」「病院」「受験生」「一人暮らし」などのキーワードが飛び交い、真剣な議論が続いた。

  • ホワイトボードを囲み、意見を出し合う生徒たち。実際の体験をもとに活発な議論が進む

    ホワイトボードを囲み、意見を出し合う生徒たち。実際の体験をもとに活発な議論が進む

グループ1は「発展途上国の栄養問題や、料理が難しい人への支援にも役立つ」と社会的視点を提示。グループ2は「味や油分には課題もあるが、栄養を意識するきっかけになる」と現実的な観点を示した。グループ3は「医療従事者や夜遅くまで働く人、受験生など、時間が限られる人の“心の支え”になる」と、心身両面での価値を語った。

三村教諭は「体験から出た意見はどれもリアルで、議論の質が高かった」と称賛。「最初は自分の立場から考えた意見が、仲間との対話を通して“誰のために”という視点へ広がっていった」と、生徒たちの思考の変化を振り返った。

生徒たちは最後に、自分のノートに「最適化栄養食を広げるにはどうすればよいか」をテーマに個々の考えを記入。活用シーンの発想から社会課題への意識へとつながる、探究的な学びの時間となった。

  • グループ発表の様子。図やキーワードを使いながら考えを整理した

    グループ発表の様子。図やキーワードを使いながら考えを整理した

ウェルビーイングとは何か? 「誰かの笑顔を思い浮かべる学び」へ

授業の最後に、三村教諭が全体を振り返った。本プログラムは「ウェルビーイング」を軸に、探究活動の意義と今後の進め方を共有する“シンクの時間”として改めて位置づけたうえで、「誰のための最大幸福かという受益者の視点を明確にすることが大切。その人の表情や喜びを想像しながら考える姿勢が、真の探究につながる」と語った。

  • 授業を締めくくる三村教諭。ウェルビーイングの本質と、探究を深める姿勢の重要性を語った

    授業を締めくくる三村教諭。ウェルビーイングの本質と、探究を深める姿勢の重要性を語った

また、「ウェルビーイングには固定された正解がなく、自分自身で追い求め続けることが必要だ」と強調。生徒たちに向けて、「今日の学びを、自分の探究テーマや日常生活にどう結びつけるかを考えてみてほしい」と呼びかけた。

生徒たちは静かにうなずきながら耳を傾け、教室は穏やかな達成感に包まれた。体験・対話・思索を通じて“食と幸福”の関係を探る今回の特別授業は、次なる探究への一歩として確かな手応えを残した。