10月31日、国土交通省 神戸運輸監理部は、阪九フェリー株式会社協力のもと、兵庫県立神戸工業高等学校(定時制)の生徒を対象に「船内見学会」を開催した。

出航間近の夜の時間帯に見学会を実施するのは、阪九フェリーとして初の試み。日中の企業説明会やセミナーなどへの参加が難しい定時制高校の生徒に船の仕事を知ってもらおうと、海事産業における人材の確保・育成を目的としてさまざまな取り組みを行う神戸運輸監理部と、工業高校や普通高校にまで採用の裾野を広げたい阪九フェリーの思惑が一致し、実現に至った。

今回は、神戸工業高等学校の全校生徒約100名が参加した船内見学会の模様をレポートする。

一般の旅客が乗船する直前のフェリーに潜入し、船の裏側に迫る

神戸工業高等学校の生徒たちは、この見学会のために用意された貸切バスで、六甲アイランド内にある「阪九フェリー神戸乗り場」を訪れた。3つのグループに分かれ、一般の旅客が乗船する直前のフェリー「せっつ」の船内へ。

  • 人道橋を渡って、船の裏側に迫る

    人道橋を渡って、船の裏側に迫る

2020年に建造された「せっつ」は、全長195メートル、総トン数は16,292トンに上り、積載台数はトラック196台、乗用車188台、旅客663名と、その規模は国内最大級を誇る。

  • 展望ロビーの様子。開放的な船内は、まるでホテルのよう

    展望ロビーの様子。開放的な船内は、まるでホテルのよう

船員の部屋を見学しつつ、普段は入ることができない「ブリッジ」を案内してもらった。「船橋(せんきょう)」とも呼ばれる場所で、船を操縦・指揮するための中枢。舵をはじめ、エンジンを操作するためのハンドルや船を横方向に動かすスラスター、電子海図やレーダーなどが搭載されている。

  • ブリッジが有する機能について解説してもらった

    ブリッジが有する機能について解説してもらった

双眼鏡を覗いたり、舵を切ってみたりと船長気分を味わい、短い時間ながらも生徒たちは貴重な体験を思い思いに満喫していた。

また、大きなエンジンや発電機が設置されている機関室では、轟音が鳴り響いていて、その迫力に圧倒。まさに、こういった特別な見学会でないと見られない光景が広がっていた。

  • 船舶用ディーゼルエンジン

    船舶用ディーゼルエンジン

  • ここでエンジンや発電機を制御する

    ここでエンジンや発電機を制御する

講義「船員の世界へようこそ」で明かされた船員の働き方の実態

フェリー「せっつ」での見学を終えた生徒たちは、貸切バスで神戸運輸監理部会議室に移動し、講義「船員の世界へようこそ」を受けた。

  • 講師を務めたのは、阪九フェリーで海務監督を務める首藤優弥氏

    講師を務めたのは、阪九フェリーで海務監督を務める首藤優弥氏

見学会では見られなかった車両甲板や船員の居住区、船員食堂など、フェリー内部が写真で紹介された後、船員の働き方の実態が示された。

働く時間といえば日中が一般的だが、船の仕事は24時間体制の当直勤務となる。「パーゼロ(8:00~12:00、20:00~24:00)」「ゼロヨン(0:00~4:00、12:00~16:00)」「ヨンパー(4:00~8:00、16:00~20:00)」の3交代制。阪九フェリーでは、階級や年次などにかかわらず、ローテーションで担当するため、若いうちから多様な海域を経験できるのが魅力のひとつだ。

なお、12日間連続で勤務した後、4日から6日の休暇を取得するのが阪九フェリーの基本的なサイクルで、船員たちは休みの間は仕事を忘れて趣味を謳歌したり旅行に出かけたりしているという。風呂とトイレは共用ながら船員一人ひとりに個室が用意され、食事は朝昼晩に加えて夜食までコックが作ってくれる。「料理のバリエーションは豊富で、乗船中は食事が何よりの楽しみだった」と首藤氏は海上勤務時代を振り返った。

  • 首藤氏の話に生徒たちは熱心に耳を傾けていた

    首藤氏の話に生徒たちは熱心に耳を傾けていた

高速道路料金の値下げなどの煽りを受け、一時は苦境に立たされたフェリーだが、働き方改革の機運が高まっている今、トラックドライバーを休ませながら安全に荷物を運べる利点が再評価され、活況を帯びている。しかしながら、またしても問題に直面していると指摘。それが人材不足だ。

これまでは専門の教育学校を卒業した海技免状保持者を採用するのが通例だったものの、阪九フェリーでは工業高校や普通高校にまで門戸を開き、一から育てていくことで現在の人材不足を乗り越えようとしている。「海技免状が無くても『部員』としてなら船の仕事に就くことができ、希望があれば働きながら免状の取得を目指せる。共に働く仲間として再会できれば嬉しい」と首藤氏は力を込めた。

  • 閉会の挨拶をする神戸運輸監理部 岡村知則氏

    閉会の挨拶をする神戸運輸監理部 岡村知則氏

最後、神戸運輸監理部 海事振興部長の岡村知則氏から「夢を夢で終わらせず、期限を付けて目標にしてほしい。これから人生の大海原に旅立つ皆さんに幸せが来ることを祈っています」とメッセージが送られ、講義「船員の世界へようこそ」は幕を閉じた。

生徒たちからは船内での食事や給与に関する質問が相次ぎ、今回の船内見学会と講義を機に船の仕事に対する興味が深まった様子だった。将来の選択肢に加わったのではないだろうか。