エムスリー総合研究所は10月29日、同所が保有する医療データをもとに実施した「帯状疱疹ワクチン」の接種状況に関する調査結果を発表した。

帯状疱疹の特徴と症状

日本人成人の9割以上の体内に潜む帯状疱疹ウイルスは、80歳までに3人に1人が発症するとされる身近な疾患。帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって発症し、初期症状として皮膚の痛みや違和感、かゆみなどが現れ、免疫機能が低下している場合には皮膚症状が全身に広がることもある。重症化すると、数週間から数か月にわたり強い痛みが続き、日常生活や睡眠に深刻な影響を及ぼす。また、顔や鼻周囲に症状が出た場合には、角膜炎・結膜炎・ぶどう膜炎などの目の合併症を伴い、視力低下や失明に至る場合もある。

ワクチン定期接種制度を開始

帯状疱疹は、ワクチンを接種することで発症や重症化のリスクを大幅に低減できるとされており、厚生労働省は60~64歳の一部と、65歳に加え、経過措置として70歳以上100歳まで5歳刻みの年齢層を対象に定期接種制度を2025年4月から開始した。

定期接種のワクチンは生ワクチンと組み替えワクチンの2種類があり、それぞれ予防効果と費用が異なるため、どちらを接種するか対象者が選択する必要がある。

全国接種率は15.2%、自治体間で「格差」も

今回の調査の結果、定期接種化から半年となる今年9月末時点の全国接種率は15.2%であることがわかった。2024年度の月平均接種者数8,927人に対し、定期接種化以降の2025年度は月平均接種者数182,186人と、1か月あたりの平均接種者数は前年の約20倍に増加している。

  • 定期接種開始後の接種状況

    定期接種開始後の接種状況

接種率が大幅に向上する一方、自治体間では接種率に大きな格差が生じており、帯状疱疹の罹患率を抑制する上での課題となっている。都道府県別に見ると、長野県(25.4%)など上位では接種率が20%を超える一方、下位の愛媛県(10.1%)などでは約1割にとどまり、都道府県間で接種率に最大2.5倍のギャップがあることが明らかになっている。

  • 都道府県別帯状疱疹ワクチン接種率

    都道府県別帯状疱疹ワクチン接種率

この地域格差の背景には、自治体ごとの助成額と接種勧奨体制の違いが影響していると考えられる。接種費用の高い組み替えワクチンの助成額を市区町村別でみると、最大値19,990円、最小値0円、2回接種(組み替えワクチンは2回の接種が必要)で最大39,980円の差が存在する。こうした助成内容の差が接種率の地域格差として表れており、全国的な接種率向上に向け、自治体によるワクチン接種に対する取り組み強化の重要性が示唆されている。

  • 帯状疱疹ワクチン接種率と自己負担額の関係

    帯状疱疹ワクチン接種率と自己負担額の関係

さらに、同程度の助成額であっても接種率に差があり、上位10%と全体平均では9.6ポイントの差が確認されている。このことから定期接種対象者へのさらなる情報提供や接種促進に向けた啓発活動の充実も不可欠であり、各自治体での今後の施策強化が重要と考えられる。