命が左右されたり、後遺症のために介護が必要になったりする原因の多くを占めている脳卒中や心筋梗塞。どちらも起床前後から午前中に起こりやすいことが知られています。その重大なリスク因子と目されているのが「早朝高血圧」です。

脳卒中や心筋梗塞は、命に関わったり、後遺症で介護が必要になったりする原因の大きな割合を占めています。どちらも起床前後から午前中に起こりやすいことが知られ、その重大なリスク因子とされているのが「早朝高血圧」です。今回はそのメカニズムと対策について解説します。

■血圧は常に変化していて朝方に上昇しやすい

  • ※画像はイメージです

    ※画像はイメージです

血圧は、ストレス、気温の変化、食事、運動、喫煙、飲酒など、さまざまな因子の影響を受けて常に変化しています。長いスパンでは夏より冬に高くなる季節変動があり、短いスパンでは起床の少し前から高くなり始め、日中は高く、夕方以降に低下するという日内変動があります。夜間の血圧は昼間より10〜20%程度低く、これは生理的な自然な変化といえます。

このような血圧の日内変動には自律神経の働きが大きく関与しています。自律神経は、からだの機能を活発にする「交感神経」と、落ち着かせる「副交感神経」の2つのバランスで調整され、心拍、呼吸、胃腸の働き、発汗、体温、血液の固まりやすさなど、生きるために欠かせない機能をコントロールしています。

早朝高血圧の二つのメカニズム

自律神経は、夕方から睡眠中は副交感神経が優位になり、朝方に目覚める少し前から交感神経が優位になります。それとともに血圧が上昇します。この上昇が生理的な範囲を超えてしまうのが、早朝高血圧のメカニズムの1つです。

もう1つは、本来なら夜間に血圧が低下するはずが十分に下がらず、そのまま朝を迎えてしまうケースです。

午前中は脳卒中や心筋梗塞のリスクup

なお、早朝高血圧に加えて、交感神経の作用による血液凝固能の亢進(血液が固まりやすくなる)、睡眠中の体動減少や発汗による脱水傾向が重なると、血栓(血管の中にできる血の塊)が形成されやすくなると考えられています。これが午前中に脳卒中や心筋梗塞が起こりやすい理由です。

■加齢による血圧の上昇はまず早朝に現れる

血圧は加齢とともに高くなりますが、特に早朝の血圧が最も早く上昇することが知られています。そのため日中の健康診断で異常なしとされても、実は早朝の血圧が高い場合があります。

起床後の家庭血圧が135/85mmHg以上は要注意

高血圧の診断基準は、診察室血圧で140/90mmHg以上、家庭血圧で135/85mmHg以上です。早朝に家庭で測定して135/85mmHg以上なら「生理的な変化」とはいえず、早朝高血圧に該当する可能性があります。なお、測定は起床後1時間以内、朝食前、服薬中の人は服薬前に、椅子に座って1〜2分安静にした後に行うのが正しい方法です。

早朝高血圧は臓器障害の独立したリスク因子

早朝高血圧は、脳・心臓・腎臓などの臓器障害の独立したリスク因子です。1日の平均血圧の影響を取り除いても、早朝高血圧自体が臓器障害を引き起こすリスクとなります。

日本高血圧学会は2025年に「早朝高血圧徹底制圧宣言」を発表し、社会全体での予防・改善に向けた取り組みを開始しました。

■早朝高血圧の対策

まず大切なのは、1日の血圧全体をコントロールすることです。減塩、適度な運動、体重管理、禁煙、ストレス対策を心がけ、薬を処方されている人は飲み忘れを防ぎましょう。

アルコール、室温、いびきに注意

就寝前の飲酒は控えましょう。少量の飲酒は一時的に血圧を下げる作用がありますが、交感神経を刺激し血圧を上げる作用もあり、体液量増加による血圧上昇も招きます。そのため夜間の生理的な血圧低下が妨げられることがあります。

室温管理も重要です。冬の暖房だけでなく夏の冷房も適切に使い、屋内全体を快適に保ちましょう。

また、いびきをかく人は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。これは睡眠中に気道(口から肺の空気の通り道)が塞がれて呼吸が停止する病気で、血圧上昇の要因になります。疑われる場合は医療機関での検査・治療が必要です。

■早朝の血圧を測って高血圧を早期発見

早朝高血圧は本格的な高血圧の始まりであり、高血圧治療中も悪影響を及ぼします。健康診断や診察室血圧では見つけられないため、家庭での測定が欠かせません。早期発見と対策の第一歩として、ぜひ朝の血圧測定を習慣にしてください。

最後に生活の中での血圧変動に関して、循環器科の専門医に聞いてみました。

早朝高血圧は、脳卒中や心筋梗塞などの重大な疾患の発症リスクを高めることが明らかになっています。特に朝方は交感神経が活性化し、血圧が急上昇しやすい時間帯です。診察室では正常でも、家庭での起床時血圧が高いケースは少なくありません。つまり、診察だけでは見逃される「隠れ高血圧(仮面高血圧)」が存在するのです。

早朝高血圧の対策としては、家庭での血圧測定の習慣化が何より重要です。正しい測定方法と時間を守り、記録を継続することで、自身の血圧の変化に気づくことができます。加えて、生活習慣の改善(減塩、運動、睡眠、ストレス管理)や必要に応じた薬物治療が、長期的な健康維持に大きく貢献します。家庭での血圧測定の習慣化が、将来の大きな病気を防ぐ力になります。

田中 伸享(たなか のぶきよ)先生

一宮西病院循環器内科副部長
資格:日本内科学会 総合内科専門医、日本循環器学会 循環器専門医