JR東日本は、寝台特急「カシオペア」として運行したE26系客車のうち、展望スイートルーム「カシオペアスイート」を備えた1号車「スロネフ E26-1」の保存を発表した。今年6月の臨時列車を最後の運行として完全に引退しており、鉄道ファンから保存を期待されていた。設置場所はさいたま市の大宮駅西口で2027年春に開業予定の複合施設「(仮称)桜木 PPJ」。鉄道博物館にも近く、鉄道の町・大宮の新しいシンボルとなるだろう。
E26系客車は、寝台特急「カシオペア」の専用車両として1999年に登場。以来、上野~札幌間を結ぶハイグレード列車として注目を集めた。日本の客車として初めてステンレス車体を採用し、全車両が2階建て構造で、編成前後に展望室を備えた優美な姿となった。車内は食堂車とラウンジカーを除いてA寝台車2人用個室となり、全室にトイレとシャワーを装備。12号車は電源車兼ラウンジカーで、誰でも展望を楽しめると人気だった。
2016年3月に北海道新幹線が開業したため、青函トンネル区間の定期運行ができなくなり、上野~札幌間の寝台特急「カシオペア」は運行を終了。その後は「カシオペア紀行」などの団体ツアー列車として、JR東日本エリアの広範囲で運転された。北海道に足を伸ばすツアーもあったが、2017年にクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」が運行開始すると、「カシオペア紀行」は北海道方面から撤退している。2025年6月30日で団体ツアー列車としても引退した。
E26系客車の今後について、JR東日本代表取締役社長の喜勢陽一氏は5月8日の記者会見で、「さまざまな要望をいただいている」と語った。いわばE26系客車の余生を示唆したわけで、「要望があれば譲渡する」という可能性を示した。ただし、老朽化が引退理由のため、どこかの鉄道事業者が引き取って運行することはないだろうと筆者は予想した。「鉄道博物館に入れてほしい」といった声も見受けられた。
その「さまざまな要望」のひとつが「スロネフ E26-1」の保存展示ということになる。展望室付き個室「カシオペアスイート」があり、「カシオペア」を象徴する車両といえる。鉄道ファンだけでなく、多くの人々にとって憧れの客車だろう。
国鉄関連施設があった場所での展示に
「スロネフ E26-1」の展示予定地となる大宮駅西口の複合施設「(仮称)桜木 PPJ」は、埼玉県さいたま市大宮区の桜木町1丁目から大成町1丁目にまたがる場所で建設が進む。大成町といえば鉄道博物館のある町でもある。「スロネフ E26-1」の展示予定地と鉄道博物館は徒歩15分の距離。道路を隔てた向かい側に蒸気機関車D51形187号機も保存展示されている。
「(仮称)桜木 PPJ」の敷地面積は約1万8,043平方メートルで、プロジェクトの参加企業は大和ハウス工業、大和ハウスリアルティマネジメント、JR東日本。敷地は「商業棟」「オフィス棟」「フィットネス棟」「MICE 結婚式場棟」「駐車場棟」の5区画に分かれており、このうちフィットネス棟の建築主がJR東日本で、「スロネフ E26-1」もフィットネス棟の前庭にあたる場所が展示予定地となっている。
「(仮称)桜木 PPJ」の名は、開発用地がかつて「桜木駐車場」だったことに由来している。さらにさかのぼると、「桜木駐車場」になる前は国鉄アパート(社宅)と鉄道病院だった。国鉄の分割民営化に伴う債務処理で大宮市(当時)に売却され、開発予定が定まるまで駐車場にしたという経緯がある。国鉄時代に手放した用地の一部をJR東日本が手に入れたことになる。
JR東日本が公開した施設イメージパースを見ると、屋外に置かれた「スロネフ E26-1」と、付近の壁に掲げられた歴代寝台特急のマークを確認できる。4月のプロジェクト発表時はLRV風のイラストだったが、歴代寝台特急のマークはそのままだった。このときから「スロネフ E26-1」を保存展示することが内定していたかもしれない。
9月3日に発表されたJR東日本の報道資料によると、「本車両および隣接して整備予定の広場空間とともに、地域の憩いの場、様々なイベントが行われる賑わい空間として、地域交流に資する移設展示とします」とのこと。鉄道博物館を訪れる人の回遊も期待できそうだ。
車体を守る屋根がない! 広場の雰囲気に合わない?
筆者の心配は、この図の展示車両に雨除けの屋根がないことだ。屋外保存された鉄道車両は、屋内保存と比べて傷みが早い。現役時代も空の下を走っていたが、日々の点検と補修が行われていた。人が住まなくなった家は傷みが早いというが、それは列車も同じ。筆者は屋外保存されたものの、傷んで悲しい姿になった車両をいくつも見てきた。車両保存のクラウドファンディングに参加した車両が朽ち果てていると、出資を後悔する。
E26系の試金石と呼ばれた24系寝台車「夢空間」のうち、ダイニングカーとラウンジカーも商業施設で展示されていた。しかし雨ざらしのために傷みがひどく、訪れた人が鉄道に親しむ雰囲気ではなかった。行く末は解体かと思われたが、東京都清瀬市が譲受し、清瀬市立中央公園に移設された。今後は車体の修復と屋根を設置するというから、ひと安心である。
保存車両に屋根を付けたくない気持ちもわかる。青空の下で走っていた現役時代を偲べるからだ。今回もパース図を見ると、憩いの広場の中央にあり、青空を遮る屋根は無粋かもしれない。とはいえ、窓から客室を見学するためのステージも再現されているようだから、高架下の上野駅13番ホームを再現しても良かったのではないかとも思う。
ステンレス車両だから、「夢空間」より風雨の耐性はあるかもしれないが、特徴的な展望室の曲面部は鋼製だったはず。屋根を付けないならば、入念なメンテナンスを実施して、お向かいのD51形ともども鉄道博物館と同等の状態を保っていただきたい。
残り11両と予備電源車はどうなる?
E26系客車は12両編成で運行していた。保存展示が決まった「スロネフ E26-1」以外の11両について、長野放送が「9月3日朝に長野市の車両基地に回送されました」と報じている。「長野市の車両基地」とはJR東日本長野総合車両センターを指す。SNSでも回送される列車や、編成を3分割した姿が報告されている。
「長野総合車両センター行き」は、鉄道ファンにとって「葬送」に等しい意味を持つ。首都圏で使用済みとなった車両の解体業務を実施しているからだ。E26系11両も廃車解体になる可能性がある。しかし現時点で去就は公表されていない。長野総合車両センターは、保存か売却予定か、解体待ちかの処遇が不明のまま、長期間留置されている車両もある。ちなみに、10月11日に「JR 長野鉄道フェスタ」が開催されるため、近くで見られるかもしれない。
残りの車両を静態保存するなら、列車ホテルにするという活用法も思い浮かぶ。しかし、限られた空間にベッド、洗面、トイレ、シャワーを詰め込んだ車内のメンテナンスは厳しそうだ。引退理由は配管の老朽化といわれる中で、各部屋の水回りを禁止したら、あの客室を利用する意味がない。しかも車両の他に別途、入浴施設やトイレを設置するとすれば、コストがかかりすぎる。人手不足の時勢で、メンテナンスに手間のかかる客室は避けたい。むしろ14系15形や24系25形の開放B寝台のほうがずっと楽だろう。いままでの運行期間中もE26系の清掃やメンテナンスを担当した作業員の苦労は多かったと思われ、改めて感謝したくなった。
食堂車の「マシ E26-1」や、電源ラウンジ車「カハフ E26-1」は残す用途があると思う。「マシ E26-1」のキッチンは使えなくても、客席部分だけでも雰囲気を楽しめる。埼玉県川口市に、寝台特急「北斗星」の食堂車を使った「ベーカリーレストラン グランシャリオ」がある。食堂車の厨房は使わず、料理は近隣の系列レストランから調達している。この方式なら「マシ E26-1」も残せるのではないか。
「カハフ E26-1」も、ラウンジ部分だけなら再利用できそうに思える。発電機は使わなくてもいい。いや、もしかしたら非常用電源として活用できるかもしれない。たとえば介護施設やクリニックなどで検討してもらえないだろうか。
「カシオペア」には、展望ラウンジを持たない予備電源車カヤ27形もあり、こちらは秋田総合車両センターへ回送されたようだ。秋田総合車両センターも廃車解体を実施しているが、ディーゼルエンジンのメンテナンスも実施しているという。
カヤ27形は国鉄時代に製造された24系25形の電源車を改造した古い車両である。しかし、「カシオペア」の予備車両として改造する際、発電機を更新しているというから、まだ使えそうに思える。たとえば東急の「ザ・ロイヤル・エクスプレス」をJR北海道やJR四国で運用するときに使用している電源車の更新、あるいは予備として使ってみてはどうか。
いずれにしても、現段階で決まったことは「スロネフ E26-1」の保存のみ。従来の寝台特急のイメージを一新したサービスで、後のクルーズトレインに続く車両としても、歴史的価値がある。もっとも、保存車両が1両だけとは寂しい。
鉄道の保存といえば、車両や駅舎などハードウェアが多いが、サービスの保存はあまり行われていないと思う。長野行き・秋田行きとなった車両たちの行く末が気になる。





