悪性新生物、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎に続き、日本人の死因第6位となる誤嚥性肺炎(令和6年人口動態統計月報年計より)。誤嚥性肺炎というと高齢者の病気というイメージですが、どんな人がかかりやすいのでしょうか。また、高齢者以外がかかることはないのでしょうか。

■誤嚥性肺炎とは?

人間は空気も食べ物も口から取り込みます。いずれも喉を通ってから気道と食道に分かれ、空気は肺へ、食べ物は胃へ送られます。気道と食道は隣接しており、通常、食道は飲食物を飲み込むとき以外は閉じています。一方、食物を飲み込む際には、食道が開くと同時に、誤嚥を防ぐために気道が一時的に閉じる仕組みになっています。

<気道に誤って入って肺の炎症を起こす>

食べたものを飲み込むために、食道を開いて気道を閉じ、食道から胃へ送る一連の動きを嚥下(えんげ)といいます。この嚥下機能がうまく働かず、気道に飲食物が入ることを誤嚥(ごえん)といいます。誤嚥をしてしまっても、通常は反射で咳が出て喉へ戻します。

嚥下機能がうまく働かないうえに、咳による反射もうまく起こらないと、飲食物は気道に残ってしまいます。誤嚥によって細菌が気道を通じて肺に運ばれると、炎症が生じて肺炎を引き起こすことがあります。

誤嚥は飲食物に限らず、寝ている間に唾液が気道に入り、肺炎を発症することもあります。

嚥下機能も咳の反射も年齢を重ねると衰えていくため、高齢者は誤嚥性肺炎になりやすくなります。一方で、高齢者では咳の反射が起こらないこともあるため、むせる様子が見られず、気づかないうちに肺炎になっていることもあるので注意が必要な病気といわれています。

■誤嚥性肺炎になるのは高齢者だけ?

肺炎患者の7割が75歳以上の高齢者で、高齢者の肺炎のうち7割が誤嚥性肺炎といわれています。このように、誤嚥性肺炎はほとんど高齢者がなるものですが、それより若い人にリスクが全くないわけではありません。

例えば、喉のケガや病気、神経の病気で飲み込みにくくなることがあります。これらの病気も若い人には少ないですが、抑うつやストレスなど心理的な要因から誤嚥が起こりやすくなることもあります。薬の副作用など医療措置で一時的に誤嚥をしやすい状態になることもあります。

■リスクあり! 注意が必要な人の特徴と対策

誤嚥性肺炎は持病がある人、高齢者、寝たきりの人などがなりやすい疾患です。一方で、場合によって誤嚥は誰にでも起こる可能性があります。高齢者以外でも次のような特徴がある人は、誤嚥や誤嚥性肺炎が起きやすい人といえます。

<嚥下能力が低下している人>

ものを飲み込む力は50歳前後から衰えていきます。高齢者でなくても、食事中によくむせる、食べ物が喉につかえる、食後に声がかれる、飲み込んだあとに口に食べ物が残るということが増えたら、嚥下障害があるかもしれません。

対策:飲み込むために使う筋肉をリラックスさせる「嚥下体操」や、発声トレーニング、口や舌を動かす体操などで喉の筋肉を鍛えることを意識しましょう。食事をすること自体も嚥下のトレーニングになります。毎食欠かさず、よく噛んで食事を摂りましょう。

<ストレートネックの人>

若年層に多い嚥下障害の原因として、スマホやタブレットの長時間の使用などで起こるストレートネックがあります。ストレートネックになると舌の周辺の筋肉の動きが制限され、むせやすくなります。

対策:ストレッチをしたり電子機器を見る時間を制限したりすることで、ストレートネックを改善しましょう。正しい姿勢で食べること、テレビなどを見ながら食べる「ながら食べ」をやめることも誤嚥の予防になります。

<口の中の衛生状態が悪い人>

寝る前に歯みがきをしないなど、口腔内に細菌が繁殖しやすい状態になっていると、誤嚥を起こしたときに細菌が肺へ入り、肺炎を発症するリスクが高くなります。

対策:歯の健康は噛む力や口の中の衛生状態に大きく関わります。噛む力はものを飲み込む力にも影響するものです。自宅で歯のケアをしっかり行いつつ、定期的に歯科検診を受けて歯の健康を守りましょう。

<喫煙をする人>

喫煙によって気道粘膜の線毛運動が低下すると、細菌を排除する働きが弱まり、誤嚥したときに細菌がうまく排出されず、肺にとどまって肺炎を起こしやすくなります。

対策:シンプルな対策ですが、禁煙をお勧めします。喫煙によってむせることが多くなっている人は、禁煙をすると改善することがあります。

■他人事と思わず日々の対策を

誤嚥性肺炎は高齢者に多い病気ですが、「自分は大丈夫」「まだ50代だから関係がない」とは言い切れません。食べ物が飲み込みにくい、むせやすいことに心当たりがある人は特に注意してください。将来的には誰でも誤嚥性肺炎になる可能性が高くなるため、日常でできる対策を実践しましょう。

最後に誤嚥性肺炎に関して、呼吸器科の専門医に聞いてみました。

誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気道に入り、細菌と一緒に肺に流れ込むことで起こる肺炎です。特に高齢の方では、飲み込む力や咳き込む反射が弱くなるため、気づかないうちに唾液を誤嚥して肺炎になることもあります。特に夜間や寝ている間に起こることもあり、熱や咳が目立たなくても「何となく元気がない」「食欲が落ちた」などが初期のサインのこともあります。また口の中の細菌が原因になるため、毎日の歯みがきや口腔ケアもとても大切です。さらに、声を出す練習や、舌・喉・口周りの体操、よく噛んで食べることなども、飲み込む力を保つうえで有効です。

誤嚥性肺炎は、一度かかると再発しやすい病気ですが、日々の小さな工夫と意識でしっかりと予防できる病気です。ご自身やご家族の健康を守るためにも、ぜひ今日からできることから始めてみてください。年齢に関わらず、“健康に食べる”喜びを守っていきましょう。

竹下 正文(たけした まさふみ)先生

一宮西病院副院長 呼吸器内科部長
資格:日本呼吸器学会呼吸器専門医 日本内科学会総合内科専門医 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医