一連のフジテレビ問題を受け、テレビ局、エンタメ業界で昨今、ハラスメント問題への対応が進んでいる。フジテレビは「再生・改革に向けた8つの強化策」を公表したが、エンタメ業界に詳しいレイ法律事務所の佐藤大和弁護士は「研修や内部通報制度を形式的に整備するだけでは実効性に乏しく、形骸化する可能性も高い。確かな理念に基づいた、骨太で本質的な改革を進めることにより、初めてガバナンスの実効性が確保できるのではないか」と警鐘を鳴らす。
では、より本質に迫る具体策とは何か。テレビ局には何が問われているのか。テレビ業界の明るい未来のために、今そこにある問題点やアドバイスを聞いた――。
多くの企業で“研修”が生かしきれてない
4月30日、フジテレビは総務省へ「フジテレビの再生・改革に向けた8つの強化策」を提出した。その内容は、以下のとおり。
(1)人権ファーストを徹底する仕組みを作ります
(2)人権侵害、ハラスメント被害者を守り抜きます
(3)コンプライアンス違反への厳正な処分を行います
(4)危機・リスクを減らす仕組みを導入します
(5)編成・バラエティ部門を解体・再編 アナウンス室を独立へ
(6)役員指名の客観性・多様性・透明性を確保します
(7)女性比率UPと若手登用で多様性を実現します
(8)公共性と責任を再確認し、企業理念を見直します
その後、進捗状況を月1回のペースで報告しているが、佐藤弁護士は「改革案を見てもその後の経過を見ても、ハラスメントがなぜ起こってしまうのかという根本的な原因については検討不十分ではないか。この改革案で本当の意味での改善はなされるのか、という印象を受けました」と指摘する。
「と、いうのも、テレビ局に限らず、どの企業さんも人権意識研修や内部通報制度の拡充などは行っています。にもかかわらず、厚生労働省のここ8年のデータを見ても増加しているんですね。確かに潜在化していたものがハラスメントと認識されたことで増えているということもあるのでしょうが、8年という長期スパンだと普通は減少していくものなのです。それなのに増えているというのは、その“研修”が生かしきれてないということだと思うのです。ここがまず問題です」(佐藤弁護士、以下同)
つまり人権倫理研修だけでは実際に解決には至らず、いわば「絵に描いた餅」になってしまうということだ。
「私は厚生労働省の委託事業である『過重労働解消のためのセミナー及び過重労働解消キャンペーンに関する広報事業』の検討委員会の委員長も務めていましたが、その際にハラスメントに関する内容を取り上げたり、また映画等の撮影前に、俳優やスタッフに対してハラスメント研修をしたりしていますが、やはり受け取り側からすればグレーゾーンが分からないよねという話になるんです。暴力や性的虐待など分かりやすいものは別として、そのギリギリのラインはどこか。そこがどうしても気になってしまい、本質がなかなか伝わりにくいというのが所感です」
では、テレビ局はどうすればいいのか。
「ハラスメントが起きない職場環境にするためには、テレビ局の現場には本当に様々な立場の方々がいることから、定期的に検証委員会を開きつつ、それぞれに合ったアプローチをかけていくべきだと思います。例えば、関係者間でコミュニケーションがうまく機能しているかどうか、また過重労働になっていないかどうかを丁寧に検証していきます。働く現場に無理や無茶があり、ストレスが生じてしまいますとハラスメントが起きたり、ハラスメントを黙認する雰囲気に陥ったりします。特にテレビの制作現場は、身体的にも精神的にも過重労働になりやすいと言えます。セクハラはともかくとして、まずそうした環境作りをした上で研修を行わないと、その研修は名ばかりのものになるのです」
エンタメ業界全体に感じる「サークルに似た空気」
佐藤弁護士はテレビ局の番組にコメンテーターとして登場する演者でもある。その上で、過去にどういったハラスメントが起きていたのか、タレントとしっかりした契約があるか、制作スタッフとの契約は健全か、たとえ外注の下請けであってもコンテンツに関わる人々のハラスメントをテレビ局は他会社のことと割り切っていないか、検証する必要があると説く。そして精神的、肉体的余裕がなければ、ハラスメントは起きやすいとも。
「テレビ局に限らず、エンタメ業界全体が、ファミリー感、またはビジネスというよりサークルに似た空気が蔓延しているように感じています。“これぐらいなら許されるよね”といったノリが甘えを生み、タレントによるハラスメント等が発生してしまったのではないかと思っています。また、師弟関係を隠れ蓑にして過剰な厳しさが許されるという考えも同様です。また、他の業界の不祥事であれば、メディアによる監視機能により一定の抑止力や是正作用が働きますが、メディア業界の場合、批判や検証の手が届きにくいという構造的な問題点もあります。例えば、ほかの局の不祥事を報道することはあっても、報道した局自体の内情はどうなのか、という厳しい目が今まで欠けていたのではないかと思います」
こうしたサークル感のノリを破壊したのは、SNSやネットニュース、そしてスポンサーからの外圧だった。
「本来、組織の自浄作用こそが最も重要です。しかし、それが機能しない場合、外部からの圧力が変革を促す大きな原動力になります。社内にどれほど規定やガイドラインが整備されていても、厳しい監視の目がなければ形骸化してしまいます。本来はペナルティが課されるべき時に課されないことが繰り返されれば、誰もルールを守らなくなるでしょう。だからこそ、残念ながら炎上のような社会的非難や、それに続くかもしれない取引の停止等に対する危機感が、皮肉にも改革の引き金となるのです。もちろん、炎上が収束すれば再びルールを軽視する動きが出てくるかもしれませんが、今回のフジテレビ問題が、メディア業界全体をクリーンな方向へ動かす契機となる可能性は十分にあると考えます」
