今回の事案は、問題が尽きない。フジテレビ第三者委員会と中居正広氏代理人において、報告書における長時間の証言の反映、性暴力の解釈、守秘義務の解除といった点で双方の主張が異なっていることが表面化した。
また、被害者側の弁護士は「中居氏の今回の第三者委員会に対する文書提出に関して、現時点で被害女性としてコメントすることはありません」「このような中居氏の動きを受けて、憶測に基づく誹謗中傷や悪意の攻撃が再び強まることを懸念しており、メディアの皆さまには特段のご配慮をお願いいたします」とコメントした。
この状況ついて、佐藤弁護士は「第三者委員会は中居さん側の疑義について丁寧に対応すべきだった」と目を向けた。
「第三者委員会には、誰かの権利義務の内容を強制的に決定するという権限はありませんから、裁判と同様に考えることは適切ではないかもしれませんが、事実の解明という点では裁判が参考になると思われます。通常、裁判というのは三審制です。一審と控訴審が異なること、控訴審と最高裁が異なることは少なくありません。裁判のプロフェッショナルである裁判官ですら、袴田事件のように死刑判決が最終的に無罪になることもあるわけです。それだけ実態を解明する、何が問題なのかというのを判断するのは、神様の目ではない限り非常に難しいと言えます」
被害女性と中居氏の間で、密室で実際に何があったかは、当人同士でなければ分からない。だが、被害者側がこの件を報道に載せて大きく広げざるを得なかった面が問題だと切り込む。
「例えば、先述したように、ファミリー的、サークル的、業界慣習的なものが残り続けていた組織が隠蔽体質であり、被害者が守られず、そして理不尽な環境が続くことに耐えきれないときに、被害者の方々がメディアに告発するという行動に出ることが多いと言えます。これで何が起こったかといえば、加害者と言われる方々も誹謗中傷を受け、そして被害者とされる方々も同時に誹謗中傷を受けてしまっているのです。問題が公になることで加害者とされる方々も被害者とされる方々も酷い誹謗中傷を受ける…これでは結果的に誰も幸せにならないと思っています。しかもこの双方への誹謗中傷がエンターテインメント化してしまっていることも問題だと思っています。事件の解決とは遠い場所にいってしまっているんです。だからこそ、このようなことが起きないように、上述のように、その元となった、自浄作用がしっかりと働くように、組織そのものの変革が求められるわけです」
日テレ社長は会見をしないほうが良かった
一方、日本テレビは国分太一について、過去にコンプライアンス上の問題行為が複数あったことを確認し、30年にわたりレギュラー出演していた『ザ!鉄腕!DASH!!』の降板を通告した。
この対応については、「やむを得ない理由があったのかも知れませんし、キャンセルカルチャーが根付いた現代においては、レピュテーション(=評判)の失墜をはじめ、深刻なダメージを避けるために先回りして対処することが求められるようにも思いますが、日本テレビは社長の会見をしないほうが良かったと感じています。結果的に日テレさんの対応に批判が集中していますし、国分さんに対する憶測も急激に広まり、誰が被害者なのか、国分さんは何をしたのかというところを含めて、新しい人権侵害が生じてしまったと思っています。中居さんの弁護士もおっしゃっていましたが、当然ながら、加害者と言われる方々にも人権があります。国分さんの場合は、出演契約を終了するというシンプルな形で、わざわざ公表する必要はなかったのではないでしょうか。内部でしっかり解決するべき事案であって、社会を巻き込み、そして炎上を引き起こすまでではなかったのではないかと個人的には強く思っています」と言及する。
そして最後に、佐藤弁護士はこう警鐘を鳴らした。
「これらの問題を一般の皆さんも“対岸の火事”としか思ってないのではないでしょうか。今こそ、こうした悪は自社の悪だと思って、各企業で人権意識、コンプライアンス意識、働く環境を見直していくべきではないかと、弁護士としては広く伝えていきたいです」
いくらSNS全盛期といえど、テレビの影響力はいまだ大きい。ショート動画でもバラエティの切り抜きが再生回数を稼いでおり、ドラマの感想で視聴者が大盛り上がりしている。テレビ局の明るい未来のために、あえて手厳しくアドバイスをくれた佐藤弁護士。今後、テレビ局がどう対応していくか、どう改革していくか、見守っていきたい。
●佐藤大和
1983年生まれ、宮城県出身。07年三重大学卒業、09年立命館大学法科大学院卒業、同年に司法試験合格。11年から都内の法律事務所に勤務後、14年にレイ法律事務所設立、代表弁護士に。17年に日本で初めて芸能人の権利を守る団体「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」を発起人として立ち上げ、共同代表理事。21年には、文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」委員を務め、文化芸術分野のガイドラインの作成にも尽力している。主な著書に『二階堂弁護士は今日も仕事がない』(マイナビ出版、共同執筆)など。
