日本最大手の鉄鋼メーカーの日本製鉄は、「東日本製鉄所 君津地区」の工場見学会を5月26日に実施した。
本会では鉄鉱石から銑鉄を取り出す巨大な高炉などを見学。鉄鋼の製造過程や環境に向けた同社の取り組みが紹介された。前編となる本記事では、君津地区の製鉄所の概要と鉄鋼製品の製造プロセスを取り上げる。
グローバル戦略を支える首都圏の製鉄拠点
東京湾の一角を埋め立て、1965年に操業を開始した「東日本製鉄所 君津地区」。24時間体制で世界中の顧客のニーズに対応した様々な鉄鉱製品を世界最高の品質で出荷している。
日本製鉄のグローバル戦略を担う中核的な首都圏の製造拠点として、東西6キロ南北2キロの広大な敷地に巨大な工場を効率的に配置。原料の輸入から出荷までの全ての工程が敷地内で完結する。
鉄づくりの工程は原料の鉄鉱石を溶かして鉄を取り出す「製銑工程」、顧客のニーズに合わせて成分調整しながら鋼をつくる「製鋼工程」、熱や圧力を加えて鋼の形や材質を整える「製品工程」の大きく3つに分けられる。
君津地区の製鉄所は、大型船が横付けする臨海部に原料の鉄鉱石と石炭をストックする広大なヤードや、鉄鉱石と石炭の事前処理を行う焼結工場・コークス工場、高炉などからなる「製銑エリア」。そこから陸側へ工程順に「製鋼エリア」と「熱間圧延エリア」が広がり、最終製品は東西の岸壁から出荷されるレイアウトとなっている。
汎用鋼から高級鋼まで多品種が一貫でつくられ、2023年度の出荷実績では自動車や家電に使われる薄板が約7割を占める。そのうち熱間圧延を最終工程として出荷されるものが3割弱。その後、常温の圧延工程を経て、他の加工が施される冷間圧延鋼板という材料が4割強となっている。
造船・建築・橋梁等の構造材として使われる厚板、タイヤのスチールコードや橋梁に使われる棒線などと続き、製品の5〜6割は国内向けに出荷されている。
総合力を象徴する巨大高炉
鉄鋼製品の製造で最初の工程となる「製銑工程」だが、その原料となる鉄鉱石と還元材となる石炭の前処理として、鉄鉱石は石灰石と混ぜ合わせて焼き固めることで「焼結鉱」に、石炭は蒸し焼きにして「コークス」と呼ばれる純度の高い炭素の塊に加工する。
鉄鉱石は粉状の鉱石も多く、そのまま高炉の中に入れると目詰まりを起こす原因になるため、焼結のプロセスでは一定の強度を持つ均一な塊にしていく必要があるそうだ。
前処理した原料はミルフィーユ状の層になるよう、高炉の最上部から交互に撒き入れられる。高炉下部にある42本の羽口から約1200度の高熱ガス(COガス)を吹き込み、高炉の中で約8時間かけて還元反応が進むことで、銑鉄が取り出される。
炉底は最高2200度にも達し、炉の下部から吹き込まれたCOガスは20秒ほどで炉内を抜け、還元によってCO2ガスとなってタンクへ回収。自家発電所のエネルギーなどとして使われる。
高炉から取り出された銑鉄は「スラグ」という副産物と分離し、高炉の下部でトーピードカーというラグビーボール型の貨車に注ぎ込まれ、溶けたまま次の二次工程である「製鋼工程」に運ばれる。トーピードカーの積載量は約300トン。線路の幅は新幹線と同じ広軌線で所内の総延長は70キロメートルと山手線1周分におよぶそうだ。
現在稼働する第4高炉は3代目とのこと。江戸時代後半の年間鉄生産量は1万トン程度と見積もられているが、明治以降の生産技術の向上により、現代では1基の高炉で1日1万トンを超える量が生産される。
幅17メートルに及ぶ第4高炉のオペレーションは1シフト9人体制。できるだけ少量の石炭で多くの鉄鉱石の反応を効率的に促すため、計器室では温度や圧力、化学成分の状況や遠隔カメラで炉内の様子もモニターしている。
安定した炉内の環境での運転は高炉が巨大なほど難しく、世界的にもこれほど大きな炉は限られているという。この巨大な高炉は原料の前処理やメンテナンス技術など同社の高い総合力の象徴なのだそうだ。
不純物を取り除く鋼づくり
銑鉄には5%ほどの炭素のほか、鉄鉱石中のリンや硫黄も残留している。「製鋼工程」は銑鉄から不純物や高炉内で取り込んだ炭素などを除去し、粘り強い鋼にしていく工程だ。 トーピードカーで製鋼工場運ばれた1,500度の「銑鉄」を転炉に移し替え、マッハ2の超音速で高圧の酸素を吹き込み、撹拌しながら鋼を作る。
鉄の成分は「製鋼工程」ですべて決まり、繊細な作業が求められるため、熟練オペレーターが粘りと強靭さが備わった鋼をつくり上げるそうだ。
鉄鉱石から酸素を奪った還元鉄に酸素を吹き付けるわけだが、鉄が燃えて再び酸化する直前で止めて、炭素量は5%から0.05%程度に。二次精錬でさらに不純物を取り除き、顧客の注文製品に合わせて最終的な成分調整を行う。
強度や靱性を付加する二次精錬の次は、溶けている鋼を鋳型に流し込み、冷やし固めて「鋼片」と呼ばれる塊にする連続鋳造のプロセスだ。
名前の通り、1分間に2メートルほどのスピードで上流から下流へひと続きに押し出され、最後に酸素とLPGのガスカッターで必要な大きさに切断。最終製品の形状に応じて、かまぼこ板状の「スラブ」と、細長い棒状の「ブルーム」の2種類の中間製品が作られる。 日本で初めて垂直曲げ型等方式を採用した連続鋳造機は、現在、世界で最も生産性の高い、世界標準の連続鋳造機だそうだ。
所内で最大の厚板工場へ
製品工程は下工程とも言われ、厚板・薄板などさまざまな品種の最終製品を作り上げる工程となる。
自動車、家電製品、事務機器、建材など幅広い用途に使用される薄板に対し、今回見学した厚板工場は船舶・橋梁などの構造材などとして使われる3ミリ以上の厚板を扱う工場。板厚は最大300ミリのものもあり、原子力発電所で使われるタンクなど高い品質を要求される鋼板も作られている。
厚板工場は所内で最大の工場で長さ1,550m、幅180メートル。熱延鋼板の場合は製品工程で鋳造した中間製品「スラブ」を加熱炉で約1,200度に再加熱し、粗圧延機と仕上げ圧延機の2台の圧延機のロールで5,000トンの圧力を加え、薄く引き伸ばしながら幅と板厚を調整する。
ミクロンオーダーで均一に平らに圧延し、矯正機で板の平坦度を上げていく。鉄の材質は冷却のスピード等によっても変わり、ゆっくり冷やすと軟らかくなり、急激に冷やすと硬くなる。用途に合わせた特性を引き出すため、最後は加速冷却装置(CLC、TMCP)の緻密な温度制御で最終製品を作り込む。
鉄は地球の重量の約1/3を占める豊富な資源で、安価で加工性に優れることから金属製品の90%以上が鉄製品となっており、まさに人類にとって最も身近で生活に欠かせない素材だ。
製造の工夫でさまざまな特性を出すことができ、材料強度の潜在能力でも大きな可能性を秘めている。鉄・鋼は1ギガパスカル(引張強さの単位)前後が現在の実用レベルだが、その約10倍の理論強度があり、他素材と比べても今後まだまだ開発の余地があるという。