一般社団法人 ぱちんこ広告協議会(PAA)は、ギャンブル等依存症問題啓発週間中の2025年5月20日(火)に、継続的な業界課題である“ギャンブル等依存問題”に関して理解を深める機会として、「第7回 パチンコ・パチスロ依存問題勉強会」を開催した。

勉強会には、会員企業やホール経営企業、さらには全日本学生遊技連盟の学生らが参加。ぱちんこ業界のギャンブル等依存問題に関する対策だけでなく、実際の支援に関する知見についても理解を深めるため、公立諏訪東京理科大学 特任教授の篠原菊紀氏とみつけばハウス代表の尾崎ミオ氏を講師として招き、"遊び"をキーワードとした講演が行われた。

「スマートPLAYスタイル」が認知機能を高める

脳汁の実態を解き明かしたことでも知られる篠原特任教授の講演テーマは、業界が推進する「スマートPLAYスタイルについて」。「余暇やぱちんこは無駄か」という命題に対し、「スマートPLAYスタイル」、すなわち"健全な遊び方"は脳を守るという調査結果を紹介する。

  • 公立諏訪東京理科大学 特任教授の篠原菊紀氏

依存問題を語るうえで無視できない、「ギャンブル障害」と「危険な遊び方」について、WHO(世界保健機関)の定義をもとに、重大な障害や苦痛が存在しない場合は「ギャンブル障害」とは言わないという違いを明確にしつつ、「スマートPLAYスタイル」は「危険な遊び方(いわゆる依存疑い)」を予防するものであるという篠原特任教授。自身の見解として、「ギャンブル障害(Gambling Disorder)」は、あくまでもギャンブル行動障害、すなわちギャンブルの仕方が問題であって、ギャンブルそのものの問題ではないため、日本でしか使用されていない「ギャンブル等依存症」という言葉に疑問を投げかける。

また、依存界隈において、すべての元凶のように捉えられがちな「ドーパミン」について、「その放出が認知症を抑えうる可能性が相次いで報告されている」と紹介。ドーパミンは、アルツハイマー病の主要な原因物質のひとつであるアミロイドβの分解酵素であるネブリライシンの活性を調節し、高める働きがあるという。さらに、同じくアルツハイマー病の原因物質であるタウたんぱくにドーパミンが直接結合することで、「その凝集を防ぐ可能性も指摘されはじめている」と付け加える。

余暇活動や楽しさは決してむだな活動ではなく、特にぱちんこやパチスロは頭を使う余暇活動であることから、ドーパミン分泌をともなう大事な楽しみとみなすことが可能。頭の働きの低下予防や、認知症の予防に役立つ可能性について言及し、そのためには、業界が推進している「スマートPLAYスタイル」が特に重要であると結論づける。

「スマートPLAYスタイル」について

「ギャンブル障害」は、2022年2月に、WHOによって厳密に定義されており、「遊び方がコントロールできない」「人生の関心事や日常生活よりパチンコ・パチスロを優先してしまう」「人間関係や健康・経済面への悪影響があるのに続けてしまう」といった3つすべてが揃い、それによって「生活に顕著な障害や苦痛が発生している」ことが絶対条件。このレベルになると、自己申告・家族申告プログラムの活用やリカバリーサポート・ネットワーク、保健所、精神保健福祉センターに相談するなどの対策が必要となるが、「危険な遊び方」、あるいはそれ未満の場合は、「スマートPLAYスタイル」が有効。すなわち、具体的には「上限金額を決めよう!(きめパチ)」「空いた時間で遊ぼう!(よゆパチ)」「周りの人に話そう! (シェアパチ)」といった3つを守っていくことが重要となってくる。なお、予防策として「スマートPLAYスタイル」を推奨することが世界の趨勢となっているが、「日本では少し病気対策という話にシフトしがちである」と警鐘を鳴らす。

そして最後に、あらためて篠原特任教授の持論として、「ギャンブル等依存症」という言葉に疑問を投げかける。実際、「依存(addiction)」という言葉を使っているのは日本くらいであり、他国は「Gambling Disorder」、すなわち「ギャンブル障害」とされている。ここで重要なのは、ギャンブル行動、すなわちギャンブルそのものではなく、ギャンブルの仕方が問題であるというところ。そして、このニュアンスが、「ギャンブル等依存症」にすると消えてしまう点を問題視する。

「法律名がそうなっているから使わざるをえない」と前置きしつつ、「ギャンブルが問題というニュアンスが出過ぎると、それに頼りかかっている、のめり込んでいること自体が問題という話になりやすい」と危惧し、「そのことによって、生活上の重大な障害や苦痛が生じることが問題」だと指摘する。それゆえ、「ギャンブル障害レベル」の人に対する正しい支援は、「ギャンブルそのものをどうこうするのではなく、生活上の生きづらさや苦しさに対してサポートしていくことが重要である」との見解を明かした。

発達障害の若者に「遊び」を通した支援

続いて、東京都自閉症協会副理事長/みつけばハウス代表の尾崎ミオ氏が「ピアサポートの実践からみた『遊び』の効用」をテーマに講演。尾崎氏が運営する「みつけばハウス」は、世田谷区受託事業で、自閉スペクトラム症(ASD)や発達障害の若者に対して「遊び」を通した支援を行っている。

  • 東京都自閉症協会副理事長/みつけばハウス代表の尾崎ミオ氏

まず尾崎氏は、「フツウになれの呪い」というワードを挙げ、発達障害の現状を紹介する。現在、欧米を中心にニューロダイバーシティ(神経多様性)という概念が提唱されており、ASDなどの発達障害を、「ニューロマイノリティ(神経学的少数派)、ニューロダイバース」とする捉え方が拡がっている。その一方で、「みんなちがって、みんないい」「インクルーシブ」「多様性」などと言われている世の中に対し、「実際はそういう世の中になっていない」と指摘。「ちょっと変わった人たち」が、排除されたり、孤立したり、生きづらさを抱える現状があるという。

そういった状況において生まれる「支援に対する不信感」について、「ギャンブル障害」同様、本人が苦痛などを感じていなければ本人の主張を尊重すべきところを、「この人はちょっと変わっている」といった価値観のもと、それをフツウにしよう、社会に適応させようという支援が横行している現状を紹介。すなわち、支援者や親が何気なく使う「コミュニケーション」や「社会性」の障害といった表現は、当事者に責任を押し付け、「今のままでは、社会に通用しない」というコンプレックスを生み出し、自信を喪失させるリスクがある。特に大人の発達障害の場合、無理解な人から支援を受けることで、自己肯定感が下がる矛盾も考えられるという。

「大人への移行のステップとなる居場所」の必要性

尾崎氏が運営する「みつけばハウス」はテーマとして、ピアサポートと遊び(余暇支援)を事業コンセプトに掲げている。ピアサポートのピアは「同じような境遇の人、仲間」を意味する言葉で、同施設のスタッフ17人の内、8~9割がニューロダイバースのの当事者や、ひきこもり、不登校などの経験者で、フツウの世の中に生きづらさを感じている人たちだという。そして、「みつけばハウス」は、学校と家の往復だけではなかなか出会えない、人生のヒントになる「ナニか」がみつけられる場所であり、ピアサポーターと外部講師が企画したワークショップで、「毎日なにか遊んでいる」と尾崎氏は笑顔を見せる。

そして、「みつけばハウス」は発達障害支援(福祉サービス)ではなく、(生きづらさを抱えた)若者を対象とした「ユースワーク」であることを強調。「ユースワーク」について、「ユースワークは、若者を子どもから大人への移行期にいるすべての人と捉え、若者が権利主体として自己選択と決定が保障される自由な活動の場を若者とともに形成し、若者及び若者と関わる大人やコミュニティ、社会システムに働きかける実践である」という定義を紹介し、「大人への移行のステップとなる居場所」の必要性を訴える。

また、アリストテレスの「キーネーシス」と「エネルゲイア」という概念を取り上げ、行為自体(プロセス)が目的となる「エネルゲイア」の例として、アリストテレスが「生きる」ことを挙げていることから、「今、この瞬間、自分の時間をどれだけ楽しむかが、人生を楽しむポイント」であり、「人生それ自体を楽しむことができる人が豊かな人生を送ることができる」と言及する。さらに、自身の好きな言葉として、サン=テグ・ジュペリの『手帖』から、「ぼくが自由と呼ぶもの、それは統計にそむいて行動する力である。」という言葉を引用し、「自分の好きなように生きたいし、それで突然死んでも後悔しないような人生を歩みたい」との思いを明かし、講演を締めくくった。

篠原特任教授と尾崎氏による講演の後は、勉強会の司会を務めた、パチ7のハニートラップ梅木氏とPAA依存問題勉強会PTの大石大氏を交えての対談ディスカッションを実施。「遊びを活用した施設を運営したきっかけ」や「対話やプログラムの実践を通しての気付き」などのトークテーマから、「自我」や「幸せ」など哲学的な話が展開するなど、専門家ならではの視点や観察から導かれた深い内容で勉強会参加者の興味を引き付けた。