日本製鉄は5月25日、個人投資家に向けたオンライン会社説明会を開催。経営概況のほか、気候変動問題への取り組みについても説明した。
■経営概況について
冒頭、コーポレートコミュニケーション部の金子雄一郎氏が経営概況について説明した。まずは世界の鉄鋼需要について「中国が急成長しましたが2020年をピークに減少しはじめております。インドの成長は緩やかです。世界の鉄鋼需要としては横ばい(やや微減)という状況です。そんな中、中国は鋼材輸出を強めています。中国から鋼材が安値で大量に輸出されることで、いまアジアをはじめとする世界の鋼材マーケットは低迷を続けています」と解説する。
日本国内でも鉄鋼需要は漸減。人口が減少する中にあり内需の拡大は望めず、また自動車・機械などの輸出も減少している。
ただ「こうした厳しい状況にあっても、当社は高い収益を維持しています」とする。その理由については「厳しい経営環境になることを早い時点から想定しており、2020年2月には生産設備構造対策、2021年3月には中長期経営計画を公表し、収益構造の強化に取り組んできたからです。いかなる環境になっても実力ベース事業利益6,000億円以上を確保できる見込みです」と金子氏。
日本製鉄では今後、国内製鉄事業を再構築して競争力を強化し、『幅と厚みのある事業構造』に進化させていく方針。「幅とは、地域の広がりについて表しています。つまり海外事業を拡大してまいります。厚みとは、川上の『原料』から川下の『流通』まで自らの事業とすることで、付加価値を高めていくことを意味します」(金子氏)。
中国をはじめとする世界の同業他社が取り扱えていない高付加価値の鋼材にシフトして、価値に見合った価格・適正マージンを実現。また中国の輸出鋼材の影響を受けにくい、成長するインド、高級鋼材市場のアメリカに注力することも考えている。
■気候変動問題について
気候変動問題への取り組みを経営の最重要課題と位置付ける日本製鉄では、2021年3月の中長期経営計画のなかで「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を公表するなど、独自の取り組みを進めている。そのロードマップとしては、2030年にCO2総排出量を対2013年比で30%削減。そして2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラル社会の実現を目指している。
そもそも鉄鋼業では、鉄鋼を生産するプロセスでCO2が発生してしまう。そこで日本製鉄では、新たな技術開発とGXスチール市場の形成によりこの問題に対応していく。
「脱炭素化プロセスとして、主に2つのルートを開発中です。ひとつは高炉で用いる還元剤の石炭の一部を水素に転換することでCO2を削減するルート、ひとつは直接還元炉で用いる還元剤を天然ガスから水素に転換してCO2を削減するルートです」と金子氏。たとえば水素による還元鉄製造においては、希少な高品位鉄鉱石を大量に必要とするほか、水素還元時の吸熱反応にも対処し、また生産性の向上についても解決しなければならない。まだ課題は山積みだが、同社では2025年度よりスケールアップした試験シャフト炉で新たな試験もスタートさせた。金子氏は「2040年頃までに実機化技術を確立したい」としている。
上記の取り組みと並行して、GXスチール市場の形成を目指す。GXスチールとは、製造時のCO2排出量を大幅に削減した鉄鋼材料のことで、鉄鋼製品としての機能自体は変わらない。金子氏は、経済合理性を確保しながら脱炭素化を進めていくため、GXスチールを用いたことでどれだけCO2を削減できたのか分かりやすく表示し、それをコストにも反映させていくことが大事であるとの見方を示す。また政府によるGXスチールの優先調達、購入支援についても期待する。
最後に「当社では課題に対して全力をもって解決を目指してまいります。また総合力世界Mo.1の鉄鋼メーカーとなれるよう、企業価値の向上にも取り組んでいきます」とまとめた。