フォーミュラE東京を連覇しながらGT2にも注力中|マセラティ・コルセのモータースポーツ活動を責任者が語る

2025年シーズンのフォーミュラE、東京ラウンドは初のダブルヘッダー開催となった。そして初戦の第8戦でマセラティMSGレーシングが今期の初優勝、昨年の東京ラウンドに続く連覇を果たした。これは戦前のグランプリや黎明期のF1にルーツをもつ古豪チームが、最新のフォーミュラ・カテゴリーの世界選手権においてシーズンを跨ぐ連勝を記録したことでもある。加えてもうひとつ歴史的だったのは、翌日の第9戦でオリバー・ローランドのドライブによって日産フォーミュラEチームが、初となる母国優勝を飾ったことだ。

【画像】フォーミュラE、そしてGT2でも盤石の様相を見せるマセラティのモータースポーツ活動(写真19点)

荒天にも関わらず大きな接触やアクシデントもなく進行した初日のレースから、晴天ドライで最終ラップまで緊迫した2日めのトップ争いまで、都心から僅か30分ほどと公共交通機関で観戦に行ける気軽さながら、フォーミュラEはさすが世界選手権ならではのインテンシティの高さを日本の観客に見せつけた。2025年の東京ラウンドは昨年以上の大きな成功を収めたといえる。

だがそこに至る過程は平坦ではなかった。土曜の第8戦は、豪雨と強風による荒天のため午前中の予選が中止され、スタートグリッドは前日のフリープラクティスのラップタイム順で決められた。予選の中止はシーズン11を迎えたフォーミュラE 始まって以来の異例の出来事で、ストフェル・ヴァンドーンが14番手、ジェイク・ヒューズが15番手だったマセラティMSGにとっても、決していい展開だったとはいえない。

初戦はコース上ヘビーウェットのまま、10分間の遅延とセーフティカー先導による3ラップの有効周回を重ねた後、ようやくスタンディングスタートとなった。レース後に語ったことだが、ヴァンドーンはチームとピットブースト、つまりレース中に義務づけられた急速充電ストップを早々に済ませるシナリオを立てていたのだ。レースの1/3ほどが過ぎて、上位陣の多くがアタックモード1回目を使って少しでも順位を上げようとしていた時、ヴァンドーンは真っ先に600kW・30秒間のピットブーストを敢行。しかも直後、前年の東京ウィナーでDSペンスキーに移籍したマクシミリアン・ギュンターのマシンが13ラップ目にコース上で停止してしまい、赤旗中断となったのだ。

各車の差が詰まったことに加え、規定のピットブーストに次々と入っていく以上、ヴァンドーンは先に済ませたアドバンテージを利してレース中盤、徐々に順位を上げていく。首位を守っていた日産のローランドがピットブーストを済ませてコース復帰した時、代わってトップに立ったヴァンドーンは25秒近いアドバンテージを手にした。ウェットパッチの厚く残る路面であわやのハーフスピンを喫する場面もあったが、最後までリードを守り切ってヴァンドーンは2年前のモナコ以来という勝利を手にした。鮮やかな戦略勝ちだった。

翌日の第9戦は、前日のフラストレーションを晴らすかのように、地力とペースで優る日産とポルシェ、さらにそれぞれと同じパワーユニットを用いるマクラーレンやアンドレッティやクプラに、マヒンドラとDSペンスキーが割って入る激しい展開となった。アタックモードを2分/6分間分割とし、ラスト10ラップで追い上げた日産のオリバー・ローランドが最後は、日産に嬉しい初のホームEプリ優勝をもたらした。

終盤はとくに緊迫した展開だった。前日に3位に食い込んだ弱冠20歳にしてネオム・マクラーレンを駆るテイラー・バーナードが、後続のマヒンドラ、ニック・デ・フリースに弾き出されてフルコースイエローが発動されたのだ。ファイナルラップでグリーンフラッグが出されてレース再開となる、目まぐるしい展開だった。ローランドの日産車は、ターン16手前でバッテリー残量が一時は0.6%にまで追い込まれていたが、ブレーキング減速で一瞬、+1%にまで回復し、そのままチェッカーフラッグまで逃げ切った。

マセラティの2台は第9戦ではペースが安定せず、ジェイク・ヒューズが17位、ストフェル・ヴァンドーンがDNFに終わった。

イタリアン・ジョブはマルチチャンネル?

ちなみに今回のマセラティMSGの第8戦における勝利は、マセラティ・コルセ初の女性マネージャーであるマリア・コンティ氏の誕生日が重なり、さらに欧州ではオランダはザントフォールト・サーキットで行われたGT2ヨーロッパシリーズでMC20 GT2がレース1、レース2を制するという、ハッピーなタイミングでもあった。東京Eプリの数日前、インタビューに応じたマリア・コンティ氏は、日本では相対的にまだ広く知られていないGT2カテゴリーに参戦する理由を説明してくれた。そもそも、なぜGT3ではなくGT2なのか?

「まずマセラティはGTを生み出した以上、何らかのGTの選手権にエントリーすることは重要。GTはマセラティ・ブランドのDNAの一部ですから。確かに2015年から2022年まで不在だった時期があり、その前はMC12でGT1にまでさかのぼります。そこでFIAのGT3やGT4も含めてどのカテゴリーに復活すべきか、検討したのです」

GT2ヨーロッパシリーズおよびアジアやアメリカにおけるシリーズは、じつはFIAによる運営ではない。だが1990年代に市販GTによる異種混合レースをユルゲン・バルトやパトリック・ピーターらと運営し、マクラーレンF1やポルシェ・カレラGTなどに繋がるFIA GTホモロゲ―ション創設への道筋をつけたステファン・ラテル(と彼の運営団体SRO)が指揮をとっている。今やそれは、準FIA的なカテゴリーといっていい。

「GT3にはすでにフェラーリがいて、ル・マンのグリッドは今もそうですが、すでに埋まっている状態でした。それにフェラーリは2015年以来、グループとは別の会社とはいえ、同じモデナのマセラティがモータースポーツ・プログラムで重複することは、モンテゼモロの時代以降はありませんでしたから。スクーデリア・フェラーリの責任者、アントネッロ・コレッタとも個人的に話し合いをもちました。彼自身、マセラティ・コルサの出身ですから(笑)。同時にGT3の可能性を、検討しました。非常にプロフェッショナルなドライバーであっても、勝つことが今やとてつもなく難しいカテゴリーで、購入できてレースに勝てる車であったとしても、顧客たるジェントルマン・ドライバーが楽しいかどうか? 続いてGT4も検討しましたが、そのレギュレーションはずっとロードカー寄りなんですね。マセラティでモータースポーツに挑むGTカーはスペシャルなものでなくてはなりませんから」

かくして下した判断は、GT2カテゴリーのカスタマー・レーシングに進出し、そのためのレーシングマシンを開発すると同時に、ロードカー・バージョンをも開発すること。それがMC20 GT2と、同ストラダーレなのだ。

GT2ヨーロッパシリーズは4カ国・計10戦で争われ、SRO GT2車両として今年はランボルギーニ・ウラカン スーパートロフェオEVO GT2、メルセデスAMG GT2、KTM X-ボウGT2が参戦しており、昨年までポルシェ911 GT2 RSクラブスポーツやアウディR8 LMS GT2が参戦し、ブラバムBT63 GT2もホモロゲ―トされている。そこにマセラティMC20 GT2は2023年終盤から名を連ね、2024年には年間タイトルを獲得。今シーズンは4台がエントリーし、初戦のポールリカールから表彰台を獲得、直近のザントフォールトでは2ヒートとも優勝そして3位に上がっている。

プロアマのチームから注目を集め、GT2レースでの活躍を通じてストラダーレ・バージョンへの興味も高まっている今、コンティ氏は思わぬ情報をもたらしてくれた。何と、このGT2における成功レシピを応用し、GT4にも進出するというのだ。

「それにはグラントゥーリスモをベースに用います。以前にGT3かGT4かGT2か、モータースポーツ・プログラムを検討していた段階で、グラントゥーリスモはまだ存在していませんでした。ですから私たちは今、グラントゥーリスモをどうやって、よりスペシャルな仕立てとするか研究しています。でもその前に、GT2を欧州でもっと拡大させ、英国やアメリカ、アラブ首長国連邦や日本を含むアジアにもGT2を展開させていきます。GT2にはスプリントレースもあれば、世界中で耐久レースにも拡大中です。それと同時に、同じビジネスケースをGT4カテゴリーでもやっていくということです」

ところでSROは今、GTのシリーズやワンメイクレースのみならず、ハイパフォーマンスなストリートカーをサーキットで本格的に解き放てるようなテスト&トラックデイを開催する運営組織を、ベルギー王立自動車クラブのような各地の有名クラブと連携して作り上げている。カーブストーン(Curbstone)と呼ばれる団体だ。

プロアマ、そしてジェントルマン・ドライバーが注目するカテゴリーに向け、GTのレーシングカーはもちろん、ドライビングを楽しめるロードカーをも同時に開発・供給していくというマセラティの戦略は、確かに筋が通っている。GT2、GT2とも、GT3に比べれば空力デバイスが複雑過ぎない点も、特徴といえる。モータースポーツそしてスポーツドライビングのコノサー、いわば「玄人向けGT」として、マセラティの舵取りはどうやら盤石のようだ。

文:南陽一浩 写真:マセラティ

Words: Kazuhiro NANYO Photography: Maserati