堤監督の代表作と言えば、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(00年、TBS)がある。今回のドラマ『ゲート・オン・ザ・ホライズン~GOTH~』とは青春劇という共通点があるが、舞台は池袋でもなければ、東京でもない。沖縄という場所が選ばれたのは、SKI-HIの企画の追求力と堤監督の直感力が一致したことによる。
「無軌道な10代は気づかないうちに加害者になってしまうことがある。ちょっとはしゃいでいるつもりだったのに、気がついたら、もう抜け出せないレベルにまで猥雑(わいざつ)な大人の世界に巻き込まれてしまうことが多いと思うんです。堤さんから沖縄というボールを投げてもらった時、確かにその舞台は、今はもう池袋でもないし、渋谷でも新宿でもないと思いました。だから、沖縄でやりましょうとなったんです」(SKY-HI)
「自分からは言わないようにしているのですが、街の顔つきは変わってしまっているし、東京を舞台にすると今は生々しすぎると思うんですよね。かつての池袋のような天真らん漫さや開放感があるのは沖縄なんじゃないかと、撮影直前にお伝えして。とはいえ、沖縄を撮影場所に選ぶとなると、いろいろと大変だったと思います。これから丁寧に育てるべき訓練生をごそっと約1か月半も撮影に当てること自体、むちゃくちゃだと思うんです。それをやってのけるところが経営者としてやっぱりすごい」(堤)
堤監督と言えば、街の空気感を取り込むロケーション撮影にこだわりを持つ監督でもある。今回も沖縄でオールロケを敢行した。堤監督は振り返りながら「ホテルにチェックインした時、“42泊でいらっしゃいますね”、“はい、そうです”というやり取りにちょっと笑ってしまったほど」と自虐的に話し始めるも、沖縄での時間を愛おしく語る。
「撮影が早く終わった日はショッピングモールのライカムに皆でワイワイしながら行って、楽しむこともありました。そもそも、同世代の人間が共同でこれだけの時間を過ごすことってなかなかないじゃないですか。これが次の日の撮影の活力になっただろうし、例えるなら、高いレベルの修学旅行に来ているような。私自身も心から好きな時間と空間を過ごせました。こうした共同性を育む学校のようなものを作らないといけないとも思ってます」
すべての10代が真剣に頑張るきっかけに
ドラマでは、転校した沖縄の高校で初日から不良たちの縄張り争いに絡まれる主人公のタクをRUIが演じ、TAIKIは親友のミック役、KANONは沖縄の繁華街「コザ」でつながる友人のヨウジ役、edhiii boiは存在感のあるビームくん役を演じる。いずれもドラマ出演は初めてのことだったが、堤監督は「演技指導は基本しませんでした。リハで多少は教えましたが、彼らの感性と理解力に任せたスタイルです」と言い切る。それには根拠があった。
「人間誰しも“演技をやれ”と言われたらできると僕は思っています。私もあなたもできるんです。ただ、人に見せる芝居となると話が違ってくる。感情を動かすまでのところにいくには、それなりの素質が必要です。演技のレッスンをたくさん積んだ人はそのチケットを取ることができるだろうし、取れない人もいるだろうし。ただ今回の4人に関しては音楽という軸を通じて、瞬発性や理解力といった演技との共通項を持ち合わせています。何より感動を届けるという仕事を既にされています。だから、演技指導がいらなかった」
堤監督が太鼓判を押す4人の演技に期待が膨らむ。しかも、単なるヤンキードラマに終わらない骨太のメッセージがあることがSKI-HIの言葉から伝わってくる。
「10代の彼らと過ごしていると誇らしく思うと同時に、現代の10代特有の潜在的な問題がはらんでいると感じることがあります。今の10代は少子化の煽りもあり、多くはリアルのコミュニティと同等以上にネットの中で存在しがち。そしてそこには冷笑系やインスタントなコンテンツがあふれています。そうすると、コミュニケーションの希薄さにもつながり、ある種の無謀さを丁寧に育て、本気で夢を見ることが難しくなってしまう。そんな世の中だから、ドラマの中とはいえ、10代である彼らが生身でぶつかってくれることによって、同調する周波数が絶対に生まれると思うんです。すべての10代にとって何かに真剣に頑張るきっかけを作ることができるんじゃないかと。かつての10代の人たちもそれを思い出せるものになると思っています」
タイトルは沖縄で“ニライカナイ”と呼ばれる理想郷の入り口に立つという意味が込められる。それは、高校生たちが人生の明暗の分かれ道にいることを指してもいる。彼らがどう切り開いていくのか。オーディションとはまた違った本気の眼差しを見ることができるかもしれない。