クロード・フォンテーヌ初来日直前に語る、ボサノヴァ、レゲエら異国情緒が共存する交差点

ブラジルのボサノヴァ、ジャマイカのロックステディ、古きよきフレンチ・ポップス。「どれも好き」という人も多そうな3つだが、これらをひとつの作品にまとめたシンガー・ソングライターがいる。クロード・フォンテーヌ。生まれも育ちもロサンゼルスだが、そのサウンドは異国情緒に溢れている。2019年のセルフタイトルのデビュー作、2024年の『La Mer』とも、英語、フランス語、ポルトガル語が行き交う場所への旅に誘うようなサウンドが詰まっている。初来日を目前に、インタビューを試みた。

ー音楽活動を始めたきっかけは何でしょうか? どのような子ども時代だったか教えてください。

幼い頃からずっと芸術に浸かっているような、創造的な子どもでした。映画、演技することと歌うこと、音楽が大好きで、私の想像力と強く結びついていました。昔のヨーロッパの映画スターと彼らが出ている映画がとくに大好きで。10代から作曲を始め、大学卒業後にショーで演奏するようになったんです。

ーデビュー作と『La Mer』ともに唯一無二ともいえる独特のアプローチが魅力です。古いレゲエやボサノヴァに、フレンチポップを彷彿とさせる歌い方を合わせる音楽性はどのように生まれたのでしょう?

私は過去の時代の音楽を、ずっと好んで聴いてきました。そういった音楽は深く心を動かし、夢を見させてくれるんです。生まれつきノスタルジックな性格みたいで、自分の好みにもそれが反映されていますね。ロンドンに住んでいたときにワールド・ミュージックが好きになり、古い、でも私にとっては新しいレコードに出会いました。フランス文化が大好きな両親のもとで育ち、フランス贔屓でもある。そういった、愛するものすべてを形にしたのが私の音楽なんです。それらを共存させているわけです。

ーデビュー作と『La Mer』の間に6年間を置いた理由は、コロナ禍以外にもありますか?

いいえ、空いたのは5年です! コロナ禍が主な理由ではありますが、正直なところ、自分で誇りに思えるような作品を作るには時間がかかるもの。少なくとも、私はそうですね。とても忍耐強いタイプの人間だと思いますよ。

Photo by Estevan Orio

ーほかのインタビューで名を挙げていたロンドンのレコード店、 Honest Jon'sについて伺います。じつは、私も大昔、大学時代にロンドン旅行でこのお店に通ってスカとロックステディのレコードを買い集めた経験があります。どのようにこのお店を見つけたか教えてください。

それはすてきですね! 多くの人にとって思い出深い場所ですよね。以前、ロンドンに短い間だけ住んでいたことがあって。そのときに滞在したアパートがオネスト・ジョンズのすぐ近くだったんです。はじめの数週間、毎日のように食料品の入った重い袋を持ちながら通り過ぎて、いつも気になっていました。それである日、お店に足を踏み入れたとたん、魅了されてしまって。世界中の音楽を集めた、とてもユニークなキュレーションに完全に虜になりました。Honest Jon'sでそれまで手を出さなかったジャンルに触れて、音楽についてたくさん学びました。そこで出会った音楽には、これからもずっとインスピレーションを受け続けるでしょうね。

ーそのときに出会ったレコードのなかに、ケン・ブースの「Artibella」があって、とてもインスパイアされた、とも語っていました。日本にもスカ、ロックステディ・ファンは多く、人気があるアーティストです。彼の音楽のどのあたりに惹かれましたか? 

「Artibella」を聴いて、あの時代のレゲエ・ミュージックからインスピレーションを受けた音楽を作りたい、と思ったんです。私が愛する歌と音楽のすべてが詰まっているから。時代を超越した古典。そして、渇望や憧れ、愛、痛み。私が愛するショパンやジョン・コルトレーンの音楽にもある要素ですね。言葉で表すのはとても難しいけれど、音楽を聴いて自分自身がよりはっきりと見えてくるような、内面が映し出されるような感覚は何事にも替えがたいですよね。

ーもうひとつ、ボサノヴァも取り入れていますね。ポルトガル語やフランス語のタイトルもありますが、日常会話でもマルチ・リンガルなのでしょうか?

そうではないけれど、語学は大好きで長年、フランス語を学んできました。今はイタリア語を勉強しているんですよ。

クロード・フォンティーヌはロサンゼルスのレーベル、イノベイティブ・レジャー(Innovative Leisure)と契約しており、最新作『La Mer』の日本盤はランブリング・レコーズからCDが発売されている。イノベイティブ・レジャーのウェブサイトによると、『La Mer』はフォンテーヌの想像の中だけに存在する神話上の島での日常、愛の話を綴ったコンセプト・アルバムだ。設定はフィクショナルでささやき声のような彼女のヴォーカルもドリーミーだが、それを支える演奏は驚くほど地に足がついている。それもそのはず、レゲエはソウル・シンジケートのトニー・チンやスティール・パルスのオリジナル・メンバー、ロニー・マックィーン、ボサノヴァの曲ではセルジオ・メンディスのバンドメンバーといった、手練れのミュージシャンを揃えているのだ。

ー最新作『La Mer』の話をしましょう。架空の島が舞台というコンセプトがとてもすてきです。自分の中で登場人物を生み出すところから始めたのでしょうか?

私はいつも、そうなんです。多かれ少なかれ、登場人物とフィクションの設定が頭にあります。物語を書くのが大好きで、ずっと想像力と直結した作品を作っているんですよ。このアルバムを書いている間、私はとても孤独でした。だから、愛する人たちと一緒にしばらく暮らしたいと思う場所を作ってみたんです。

ーアートワークではあなたの髪が海水で濡れていますが、あなたも島の住人という設定で合っていますか?

私は海のそばで育ちました。子どもの頃からほとんど、毎年夏になると海に向かうんです。一番、幸せな思い出が大好きな人たちと浜辺で過ごす長い日々であり、このレコードにもその気分を満たしたかったのです。

『La Mer』アートワーク

ーデビュー作からすばらしいミュージシャンたちを起用されていますね。トニー・チンはレゲエ・ファンのあいだで知られるソウル・シンジケートのメンバーですが、彼とはどのように知り合ったのでしょうか?

私のレコード・レーベル、イノベーティブ・レジャーとプロデューサーのレスター・メンデスがトニーに連絡を取ってデモを送り、レコーディングで演奏してくれるか聞いてくれたんですね。嬉しいことに、彼は私の音楽を気に入ってくれて、それ以来、一緒にレコーディングや演奏をしています。

ーボサノヴァの曲も、セルジオ・メンデスのツアーに参加したミュージシャンたちによって演奏されています。彼らと組むセンスと行動力が凄いですが、彼らとの出会いも教えてください。

彼らもやはり、レーベルとレスターを通じて知り合いました。ロサンゼルスにはブラジル人ミュージシャンのすてきなコミュニティがあり、私は才能豊かな彼らとコラボレーションできて、とてもラッキーでした。

ーそのレスター・メンデスはサンタナやシャキーラと組んできた大物ですが、作品にはどのように関わっているのでしょうか?

レスターと私で、すべての曲を一緒に作っています。私が歌詞を書き、彼がプロデュースする。レスターとは肩に力を入れずに作業ができて、それまで経験したことのない特別なコラボレーションでした。私たちはとても似ていて、共感しやすい繊細さの持ち主です。影響を受けて強く惹かれたものもほとんど同じだし。レスターのようなコラボレーターを見つけられるのは、深く満足できる贈り物のような出来事ですよね。

Photo by Matt Correia

ー差し支えない範囲で、レコーディング方法について教えてください。ミュージシャンと一緒にスタジオに入って歌詞やメロディを聴かせ、演奏をつけてもらう昔ながらの方法なのかな、と思ったのですが。

私たちは、ミュージシャンにかなり詳細でわかりやすいデモを送りました。彼らとは全員、同じ部屋で一斉に演奏をしているんですよ。レコーディングはヴァレンタイン・レコーディング・スタジオという、ロサンゼルスの歴史あるスタジオでおこないました。古いリボンマイクやテープを使って、インスピレーションを受けた音楽の時代のレコーディング方法をなるべく忠実に再現して録音しています。

ーブルーノート東京での来日公演がとても楽しみです。ツアーメンバーの紹介を含め、どのようなステージになりそうか教えてください。

私もとても楽しみなんです! ブルーノートで演奏できるなんて、ほんとうに光栄です。私は才能あるブラジル人のミュージシャンのトリオと演奏します。彼らは長年、セルジオ・メンデスのバンドのメンバーで、ブルーノートで演奏した経験もあります。ギターのクレベール・ジョルジ、ベースのアンドレ・デ・サンタンナ、ドラムのレオ・コスタですね。私の2枚のレコードに収録されている、ブラジルにインスパイアされた曲をすべて演奏する予定です。

ー音楽はもちろん、質の高い食事や飲み物も人気のヴェニューです。あなたはどのような食べ物を好むか、お酒を嗜むのであれば好きな種類を教えてください。

じつは、両親がレストラン業界の仕事をしているうえ、母がシチリア人なので、食べ物に対する情熱を受け継いでいます。お酒はあまり飲みませんが、ワインについて学ぶのも好き。幸運にも小さい頃から本格的なワイン造りに触れ、教育を受けてきました。料理も好きだし、レストランやその土地の料理を体験する旅も大好き。だから今回、初めての東京への旅に対して、とても気持ちが昂っています。

あちこちの文化が好きな人は多いだろうが、インスピレーション元への敬意を大切に、ひとつの作品にまとめられるアーティストは珍しいだろう。ステージはボサノヴァのカラーが強くなりそう。クロード・フォンティーヌが作る、ノスタルジックなのにまったく新しい音楽をぜひ聴いてみてほしい。

<ライブ情報>

2025年4月15日(火)、16日(水)Blue Note Tokyo

https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/claude-fontaine/

※4月14日(月)には、恵比寿のBLUE NOTE PLACEにて、デュオ編成のプレビューイベントも開催

https://www.bluenoteplace.jp/live/claude-fontaine-250415/

<リリース情報>

Claude Fontaine

『Le Mer』

発売日:2025年3月12日

label: Innovative Leisure / Rambling RECORDS

LP盤 価格:¥6600円(税抜)

CD盤 価格:¥3600円(税抜)

=収録曲=

1. Vaqueiro

2. Love The Way You Love

3. Green Ivy Tapestry

4. Laissez-Moi Laimer

5. Concha Do Mar

6. Lover's Vow

7. Camaçari

8. Small Hours

9. Relíquia

10. Marmalade Haze

11. Kissing The Sun

12. Chuva De Verão