2025年2月、サントリーホールディングスが発表した「男性社員の育児休職取得率100%達成」は、国内企業の中でも画期的な取り組みとして注目を集めた。その背景には、単なる制度整備にとどまらない、組織文化への深い働きかけがあったという。
今回は、同社のDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)推進を牽引する秋山憲太さんに、取り組みの詳細と今後の展望について聞いた。
成功ポイントは「子の誕生を早く知る」&「意識を高める」こと
――男性育休取得率100%を実現できた背景には、どのような支援体制があったのでしょうか?
男性育休取得をするにあたり、これまで会社として二つの課題があると考えていました。
一つ目は、会社が社員の子どもの誕生をどれだけ早期に把握できるかという点。把握が遅れることで会社から社員への情報提供やコミュニケーションが遅くなります。結果的に、育休取得が後ろ倒しになったり、取得の期限を迎えてしまったりすることが課題でした。
二つ目は、組織単位で、育休を取る意識をどれだけ高められるかという点です。この二つを解決するため、新たな制度を設けたり、セミナーを開催したり、さまざまな取り組みをしました。
――具体的な取り組みについて教えてください。
まずは、「子の誕生予定申請」を導入しました。子どもの誕生予定を事前に申請してもらうことで、会社からの情報提供や対話のタイミングを早期化。育休取得を計画的に進められるようにしました。
また、「仕事と育児の両立計画書」を導入することで、育休取得対象者が上司と今後のキャリア観を共有しながら業務の引き継ぎ計画を作成しました。これによって取得時期の後ろ倒しを防ぎ、スムーズな取得を促進しました。
そのほか、育休の一部を有給化して取得のハードルを下げたり、職場全体で理解と支援の空気を育てるために上司と共にセミナーへ参加したり、保育園に入れなかった場合や緊急時などに利用可能な「シッターサービス費用補助」を導入して子育て期の不安を和らげるようにしました。
――会社がサポート体制を整えることが大切ですね。社員同士で情報交換を行う機会もあったのでしょうか。
社員の自主的な取り組みでさまざまな機会があります。例えば、社内コミュニティの「SUN-co-NEsT(サンコネスト)」は、オンラインでの子育てに関する情報交換や相談会などを実施。拠点ごとのリアルランチ会も開催されていて、育児と仕事を両立するための知恵を共有し合う場になっています。
取得日数は平均25日、今後は"質"の向上へ
――育休の取得日数や今後の課題について教えてください。
2024年度の男性社員の平均取得日数は25日です。今後は、100%の取得を維持し、「より長く」「より有意義に」取得してもらえるよう、取得期間の延長にも取り組んでいきたいと考えています。
――今後の制度拡充について教えてください。
今後は育児に限らず、より広い「ライフプラン」の観点からの支援にも力を入れて、「自身のキャリアについてもっと考えてもらうきっかけづくり」を提供したいです。
そのためにも「情報」は重要なので、現在はキャリアや公的制度などの情報をまとめた動画を制作中しています。
すでに第1弾として「イントロ編」「病気・ケガ編」「財産形成編」をリリースしているほか、5月には第2弾として「介護、出産・育児編」などを予定しています。あわせて、男性育休制度をわかりやすく紹介するハンドブックも完成間近です。
「休める組織」は強い組織
――育休制度が会社に与える影響をどう捉えていますか?
病気や介護など、チームのメンバーが何らかの理由で休暇を取ることは、育児休暇以外でもあり得ることです。だからこそ、業務の属人化を防ぎ、チームで支え合う体制を築くことが重要です。
「子の誕生予定申請」や「両立計画書」といった施策が、そうしたチームのアジリティを高めるきっかけになっていると感じています。結果として、育休は組織力強化にもつながっていると思います。