
プロレスリング・ノアに稀代のダークヒーローが誕生する事件は、2025年の元日に日本武道館で起こった。それまでNOAHの若手選手のひとりだった小澤大嗣は、将来を期待される存在ではあったものの、海外遠征を経て練習中のケガによって欠場していた。しかし、2024年11月の愛知大会で当時のGHCヘビー級選手権王者であり、所属するユニットのリーダーであった清宮海斗の背後を手に持った松葉杖で急襲。衝撃のヒール転向を果たした。
OZAWAとなった彼が口にしたのは、腐敗しているというプロレスリング・ノア内部に対する不満と、清宮の生々しいプライベート事情の暴露。どこまでがリアルで、どこまでがフィクションなのか、その境界線があまりにスリリングなOZAWAの言動にプロレス界が揺れた。そして、復帰戦でありながら、いきなりのタイトルマッチ、さらには日本武道館大会のメインという大舞台で、OZAWAはプロレス史に刻まれるインパクトを残してみせた。驚異的な身体能力によって体現する技の数々や突発的なブレイクダンスなどの小馬鹿にしたようなムーブで、チャンピオンの清宮を蹂躙。さらに、フィニッシュのReal Rebel(ワンステップ式のフェニックススプラッシュ)で、OZAWA革命を決定的なものにした。以降、プロレスリング・ノアにOZAWA現象が巻き起こり、急速に観客動員数が増加している。ジャンルを超越した存在になる可能性を秘めているダークヒーロー、OZAWAとは何者なのか? Rolling Stone Japanが迫った。
─OZAWA選手は今年の元日に開催されたプロレスリング・ノアの日本武道館大会のメインでGHCヘビー級王座を最短記録となるデビュー2年4カ月で戴冠するとともに、その試合内容がプロレス史に残るインパクトを与えたわけですが、僕もあの試合をABEMAのPPVで観ていて、あまりの衝撃にあてられて、そのあと15時間くらい寝ちゃったんです。起きたら、家族に怒られて(笑)。
それは寝すぎだな。
─ですよね(笑)。NOAHの観客動員も右肩上がりに上がっていて、ここ最近の後楽園ホールは3大会連続札止めと。このOZAWA現象をご自身ではどう受け止めてますか?
いや、俺はもう周りの声とか本当に興味ないんで。ここまでも自分がやりたいことをやってきただけだし、いい声も、悪い声も、本当にどうでもいい。まぁ、でもなんでこういう状況になったかっていうのは──俺はNOAHに入門したときからこの団体に雑に扱われてきて、そういう不満をいざプロレスでぶつけてみたら、世間のやつらもまったく同じような思いをしてたということなんじゃないか? そこがリンクして共感を得たのかなって。
─本当にその通りだと思います。あらゆるジャンルで予定調和をぶっ壊してリセットしてくれるようなダークヒーローが求められている時代なのかなと思っていて。OZAWA選手の存在はまさにそれで。
そういう側面もあるんじゃないか。
─あと、OZAWA選手のダークヒーロー性にはどこか愛らしさもあって。笑いのセンスにも知性を感じるというか。
それはあれだな、べつに自分は特別に頭がいいとは思わないけど、他のNOAHの選手たちがアホすぎるというか(笑)。それで、相対的に見て頭がいいふうに見えてしまうんじゃないか。もう、本当にアホばっかりで。
─(笑)。その笑いのセンスはどこで磨かれたんですか?
まぁ、昔から女の子のことばっかり考えてたからな。自分は顔で勝負するタイプではないと思ってたんで、内面で勝負しようという感じではあった。男は中身でしょうっていう感じだな。
─それで言ったら、今は死ぬほどモテてるんじゃないですか?
もう、夜も寝れないな。
─DMとかもめちゃくちゃくるでしょう?
毎日、リアクションしてほしいんだろうなってDMばっかり送られてくるな。かわいい子だったら返すかもしれないけど、ほとんど無視だな。
─試合内容も、飛び抜けた身体能力に裏打ちされた技の数々がありつつ、その色付けがかなりトリッキーで。いきなりスクワットしたり、あえて自爆したり。
プロレスはなんでもありだからな。好きなようにやればいいと思ってる。プロレスは自由なんだから枠にとらわれる必要なんてなくて。なのに、周りの選手を見ていると、どんどん自由じゃなくなってるようなプロレスばっかりやってるから。もったいないよ。
─所属するユニット、TEAM 2000Xはヒールなのに、OZAWA選手の高い求心力によって、あんまりブーイングが起きないみたいな現象も起きてますよね。
試合介入とか凶器を使ったりとか、一般的に見たら嫌われることをしてるんだけど、TEAM 2000Xがすごすぎるからな。応援されたくないのに勝手にされちゃうみたいな。その現象には俺も困ってるよ。
─そこも今っぽいのかなって思うんですよね。こないだの後楽園ホール大会でも、普段まったく試合をしないヨシ・タツ選手を求めるコールが起きたりして。
ヨシ・タツさんはバカにされがちなポジションになってるけど、WWE時代はスーパースターだったからな。今は我々のレベルに合わせてくれてるんだよ。ヨシ・タツさんくらいのスーパースターは試合なんてしなくていいんだ。そこにいるだけでいい。
─OZAWA選手は試合のとき以外はいつもスロットを打ってますよね?
そうだな。スロットより楽しいことはこの世に存在しないからな。スロットを打つためにReal Rebelを飛んでる。
─スロットの軍資金を稼ぐために(笑)。スロットはプロレスよりおもしろいですか?
プロレスもおもしろいけど、スロットのほうが、脳汁が出るんでね。プロレスは命を賭けないと脳汁が出ないけど、スロットはべつに命を賭けなくても手軽にインスタントドーパミンが出るからな。本当は今すぐスロットを打ちに行きたいし、こんな取材に応えてる暇はないんだよ。
Photo by Masato Yokoyama
最初に好きになった選手はミスティコ
─すみません(笑)。なるべく愚問はないようにするので、もう少しお付き合いください。OZAWA選手はどういう背景でNOAHの門を叩いたんですか?
昔から競輪が大好きでな、競輪選手になろうと思ったけど、試験にちゃんと落ちて。じゃあプロレス目指してみるか、という感じでいつの間にか入ってた。
─プロレスのどんなところに惹かれたんですか?
最初に好きになった選手はミスティコだ。(ミスティコの出自である)メキシコのルチャ・リブレが何かもよくわかってなかった。とにかくアクロバティックな動きをするミスティコを見てた。
─じゃあメキシコに行って本格的にルチャを学びたいとか、そういうのもなく?
まったくなかった。
Photo by Masato Yokoyama
─OZAWAさんの身体のサイズ(181センチ、93キロ)は公表されている数字よりも大きく見えるし、ここまで飛べるのは驚異的だなと思うんですけど、これは才能ですかね?
才能はもともとあるんだと思う。トリッキーな動きができるようになりたいだけだから、ある程度自分がやりたい動きができるようになったら、あとは漫画を読んでたな。
─周りから怒られたりしませんか?(笑)。
一方的な圧力をかけてくるやつには昔から反抗してたな。とにかく抗う。それで、やりたいことをやる。それでさらに向こうが圧力をかけてきても、そこで屈しなければだいたいのやつはあきらめるんだよ。
─現代をたくましく生きるヒントかもしれない。
あきらめない心。それが大切なんだ。それで、やりたいことを、自分を貫き通すわけだ。
Photo by Masato Yokoyama
─あとは、ブレイクダンスですよね。元日の日本武道館でOZAWA選手が大きなインパクトを残した要因のひとつに、突発的なブレイクダンスのムーブもあって。ブレイクダンスって基本的にヒップホップ由来のブレイクビーツで踊るじゃないですか。そこで音楽が好きになったりはしなかったんですか?
俺の場合はとにかくリズムに乗る楽しさ、技を決める楽しさが好きだったんで、音楽自体を好きになることはなかったな。
─でも、そこで培われたリズム感は確実にプロレスに活きてますよね。プロレスって、ものすごくリズム感が問われるジャンルだと思いますし。
たしかにリズム感は重要だな。プロレスがダメなやつはリズム感が悪いと思うよ。
─OZAWA選手が本名の小澤大嗣から変貌を遂げた大きな原動力になっているのは、道場の厳しい上下関係やデビューしてからの不当な扱いだったわけですよね。もしそれがなかったら、今のOZAWA選手はなかったんですかね?
間違いなくなかっただろうな。プロレスリング・ノアがこんなバカな団体じゃなければ小澤大嗣としてプロレス人生を謳歌してたはずだよ。このOZAWAという存在は、プロレスリング・ノアが生み出したモンスターなんで。負の遺産なんだよ。
─負の遺産って自分で言う人に初めて会いました(笑)。でも、真っ黒な光って感じですよね。
プロレスリング・ノアの汚い部分を全部固めたらOZAWAが誕生したみたいな、そんな感じ。ゴジラにおけるヘドラみたいな。本当は心では泣いてるんだよ。でも、俺がやらなきゃ誰がやるんだ? 誰もプロレスリング・ノアを変えられないだろ? だから、ヒールとか言われてるけど、俺は本当のヒーローなんだよ。
─裏を返せば、OZAWA選手は誰よりもNOAHに対する愛があるとも言えると思うんですよね。今まで誰もやったことのないやり方で団体をひっくり返して、押し上げるという。ファンの期待感の核にあるのもそこだと思うし。
まぁ、NOAHが俺をプロレスラーにしてくれたという事実は動かないからな。でも、あまりにその内部が腐りすぎてるんでね。若手時代の恨みは絶対に消えないし、個人的にムカつく選手には徹底的にやりたい。本来であればスーパーベビーフェイスの俺だけど、スーパーベビーフェイスでやっていくとムカつくやつに徹底的にいけないだろ。素直に生きたらこうなったという感じだな。
Photo by Masato Yokoyama
大事なのは、侘び寂び
─GHCヘビー級ベルトを巻いたまま、ここからどんな風景を見たいと思ってるんですか?
まぁ、基本的には自分がやりたいようにやってそれに賛同するなら勝手に賛同してくれって感じだけど、NOAHがもっと高みにいって、それでプロレス自体がもっとメジャーなジャンルになれば、俺としてももっと働きがいがでて、脳汁が出るんじゃないかとは思う。
─スロットの軍資金も増えるし。
そこにつながるな。結局、すべては自分のためだ。
─他団体の選手と戦ってみたいという思いはないんですか?
べつにないな。
─今、ABEMAでWWEの中継がされていて、WWEとNOAH間で選手が行き来したり距離感も近いじゃないですか。たとえばWWEがOZAWA選手の求心力に惹かれてオファーがきたらどうします? WWEのロイヤルランブル(30人の選手が時間差で登場するバトルロイヤル。事前発表がされていない選手は入場曲が鳴った時点で出場があきらかになる)にOZAWA選手がいきなり登場したりしたら、それこそこちらの脳汁はヤバいことになりますけどね。
まぁ、スポット参戦とかだったらそれなりの金も入ってくるだろうし、べつに出てもいいけどな。でも、アメリカに住むとかは、無理。スロットがないだろ。
─ラスベガスには本場のスロットマシンがあるじゃないですか。
いや、日本のスロットはクオリティが全然違う。日本のスロットのほうがすごいよ。ラスベガスとかカジノ系のスロットは当たり外れしかないから。日本のスロットも当たりか外れなんだけど、当たりまでの過程がめちゃくちゃ楽しいんだよ。「え!? これは当たり!? 外れ!?」みたいな。そこに脳汁が出るんで。
─恋愛の駆け引きにも通じるような。
そうだ。全部見えてるより、ちょっと隠れてるほうが楽しいんだよ。シュルレアリスムみたいな感じだよ。
─ゼロヒャクじゃつまらんと。プロレスの楽しみ方もまさにそうですよね。
そう、ゼロヒャクはつまらない。1回当たったら、「バコーン! メダルがジャー!」じゃ風情がない。大事なのは、侘び寂びなんだ。
─愚問だったらすみません、音楽に興味はないとのことですが、たとえばシンガーデビューしてみませんか?とか、そういう話がきたらどうします?
それは面白いかもしれないな。
─おっ!
興味はなくはないな。基本的に音痴なんでね。逆にそれがおもしろいかもしれない。斉藤ブラザーズ(全日本プロレス)が歌ってる「どっち?」とか、面白いじゃん。あれは近年稀に見る最高の音楽だと思うよ。
─OZAWA選手から全日本プロレスで人気が爆発している斉藤ブラザーズの名前が出るのは興味深いですね。いつか「ALL TOGETHER」(日本プロレスリング連盟が主催し複数の団体の選手が出場するチャリティー大会)とかで観たいです。
まぁ、ああいうオイシイやつらと絡めたら面白いと思うな。
─最後に。OZAWA選手の現在進行形の戦いは、WWEから新日本プロレスを主戦場にしていた期間を経て、約11年ぶりにNOAHに再入団したKENTA選手との抗争です。4月14日の後楽園ホールで開催されるタッグマッチでのノーDQマッチ(武器の持ち込み自由、反則裁定なしのハードコア形式の試合)があり、そして5月3日の両国国技館大会では、OZAWA選手対KENTA選手のGHCヘビー級選手権が行われます。そこに向けてひとこといただけますか?
まぁ、両国でのタイトルマッチは決まってはいるものの、実際は4月14日の後楽園がKENTAの引退試合になるんで。後楽園で生き延びることができたら、ご褒美としてタイトルマッチをやってやるよ。あくまで両国はご褒美マッチなんで。身体もケガで傷だらけだし、あいつのコンディションじゃGHCは取れないだろ。引くに引けなくて名乗りを上げちゃったんだろうけど、俺にはKENTAの心の声が聞こえるんだよ。「俺を終わらせてくれよ。本当はもう引退したいんだよ」っていう。あいつは「俺は生きるためにNOAHに戻ってきたんだよ」とか言ってるけど、強がりでしかない。ファンもね、全盛期のKENTAを知ってるやつは今の動きを見えてたら「切ないプロレスになっちゃったな」って思ってるだろ? だから、俺が終わらせてあげる。これは俺の優しさだ。
─ちなみに今からスロットを打ちにいくんですか?
もちろんだ。すぐに行く。
「プロレスリング・ノア25周年記念大会 MEMORIAL VOYAGE 2025 in KOKUGIKAN」
5月3日(祝・土)開始:15:00 開場:13:30
会場:東京・両国国技館
https://www.noah.co.jp/schedule/663/
プロレス映像配信サービス・WRESTLE UNIVERSEで独占生中継!
https://www.wrestle-universe.com/
▼決定対戦カード
<GHCヘビー級選手権試合>
OZAWA(第46代王者)vs KENTA(挑戦者)
※王者にとって4度目の防衛戦