大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で鳥山検校役を演じた市原隼人にインタビュー。徹底した役作りや演じていく中で芽生えた思いなどを聞いた。

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』鳥山検校役の市原隼人

江戸時代中期の吉原を舞台に、東洲斎写楽、喜多川歌麿らを世に送り出し、江戸のメディア王にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く本作。

市原演じる鳥山検校は、盲人組織・当道座の大親分。当時吉原一の花魁と言われた瀬川(小芝風花)を高値で身請けするも、心までは自分のものにできず、蔦重への思いを感じていた。そして、6日放送の第14回「蔦重瀬川夫婦道中」で、高利貸しをしていたことへの裁きが下された鳥山。瀬以(瀬川)は鳥山との離縁を言い渡され、蔦重を思い続ける自分への優しさだと察して鳥山に礼を言うという展開が描かれた。

大河ドラマへの出演は3度目となる市原。実在の人物を演じる際は、血のつながっている子孫に会ったり、お墓を訪れたりするようにしているそうで、「大河ドラマに限らず、実在の人物を演じさせていただく際は敬意を払って、その血筋の方にもしっかりご挨拶させていただいて演じています」と明かす。

今回の鳥山検校は、実在の人物だが謎に包まれており、御子孫に会うことや墓に手を合わせることはできず、資料も少なく、「心残りがあった」「すごく難しかった」と吐露するも、「しっかりと失礼がないように真摯に向き合おうと覚悟を決めて入りました」と、自分にできる最大限の役作りに取り組んだ。

その一つとして、東京視覚障害者生活支援センターを訪問。結婚を控えている視覚障害者が、相手の顔を見たことはないけれど「すごく素敵で」と話しているのを聞いて、「目に見えないものの素晴らしさ」を感じたと言い、「形あるものはいずれ壊れていくかもしれない。でも、形ないものはいつまでも自分の中で壊れずに大切にしていけるという新たな希望を見出すことができました」と語る。

また、「視覚障害をお持ちの方々のお話を聞いて、孤独と向き合うことも感じました」と振り返る。

「『誰かが返事や相槌を打ってくれないと、誰もいないのと一緒なんです』と。孤独と寄り添っているところがあり、その痛みがわかるからこそ、逆に相手の隙に入ることができてしまうというのが鳥山検校だと思います。それはいい風に捉えることもできれば、悪事にも使うことができてしまうというのが人間の恐ろしいところで、その中で希望を見出せたのが瀬川で、希望の光だったと思います」

暗闇の世界で味わった「人生で感じたことがないほどの恐怖」

暗闇の中で視覚障害者の誘導のもと、さまざまな体験を行う「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」にも参加し、そのときの感覚を現場でずっと持ちながら演じたという。

「視界が1%もない暗闇の中で5人ぐらいが手をつなぎ合ったり話し合ったりしながら進んでいく中で、風を感じたり、水に触れたり、高さが低い通路を通ったり、寝転んでみたり、ご飯を食べたり。正直最初はすごく恐ろしくなりました。自分がどこにいるかもわからないという孤独な世界に恐怖を感じ、おそらく人生で感じたことがないほどの恐怖で、これからこの世界でやっていかないといけないんだという思いになりました」

演じる際は、自身が提案した白濁したコンタクトレンズを着用し、ほとんど見えない状態だったという。

「フェイドがかかった状態で20%見えればいいかなという。相手の輪郭はなんとなくわかるけれど、横から光が入ると反射で視界が0になる状態で。芝居している最中はほぼ見えない状態でした。なので、段取りの前に1人で先に現場に入り、どう動こうかというのを念入りに確かめました」

白濁したコンタクトレンズで“ほぼ見えない”状態を作り出したことで、「視覚は全く頼りにしない」演技になったそうで、「常に周囲の音や匂いや感覚、空気が変わる雰囲気というものだけを頼りにしていたので、普段とは全く違う芝居の仕方になっていると思います」と振り返る。

また、「瞬きもしないようにしました」と明かす。

「すごく迷いましたが、目をつぶってしまうと生々しさがなくなってしまう感じがあったので目を開けました。完全に見えてない芝居ではなく、周りがドキッとしてしまうような、すべて見透かされているような、実は目が見えているのではないかと思わせる所作という、その間がすごく難しかったです」