シップデータセンター(ShipDC)が事務局を務めるIoS-OP(Internet of Ships Open Platform)コンソーシアムは2月末、オンラインにて「第3回内航船デジタルセミナー~内航デジタルの先進的取り組みと外航デジタルの活用可能性を検討~」を開催。内航船に関わる政府の取り組み、および内航デジタルの取り組みなどを紹介した。
内航海運を取り巻く状況は
その冒頭、協賛者である日本内航海運組合総連合会から河村俊信理事長が挨拶した。内航業界としては、内航のDX化が進むことが「事業の効率化」「安定輸送の確保」「船員不足の解消」の一助になる、と河村理事長。
そのうえで、内航海運を取り巻く状況についてあらためて説明する。そもそも船舶を運行する内航運送事業者(オペレーター)は、所有している船舶のほか、貸渡し事業者(オーナー)から調達した船舶も使って荷主から引き受けた荷物の搬送を行っている。
「ひと昔前は、かなりの活況がありました。しかし現在、オペレーターの数は600~700社、オーナーは1,000社を少し上回るくらいの規模まで減少しました。会社の規模も(外航業界と比べると)小さく、中小零細企業が99%を占めています。船舶1隻のみで事業を営む”一杯船主”も多いのが現状です。船舶に設備投資できる余力は大きくなく、新技術の開発・導入に対しては大きなハードルがあります」と河村理事長。
荷主についても紹介。内航海運では、石油製品、液体ケミカル製品、バラ積みの石炭・石灰石・セメント、鉄鋼製品などの貨物を取り扱う。(基本的には)1社の内航運送事業者が請け負い、タンカーや一般貨物船を使って運搬している。輸送区間は、荷主の工場からグループ内の配送センターへ、あるいは顧客の工場まで、というケースが多い。その多くの場合において、荷主は元請けとなる少数の内航運送事業者と結びついている。なお内航運送事業者は、下請けの2次のオペレーター、3次のオペレーターを通じて貨物を輸送することもある。また荷主がグループ内に物流子会社をつくり、元請けのオペレーターとなるケースもある。
荷主、オペレーター、オーナーの関係性について、河村理事長は「長期に渡るもので、密接に結びついています」「効率的で安定的な貨物輸送のため、3者による船舶の整備は欠かせません」と説明。また「内航船の整備については、荷主のニーズに沿った特別な船型、運行システムの採用など、外航船と比べても荷主の意向が強く反映されています」とも話す。
そして船員について。内航貨物船では500トン未満の小型船なら4~5名が、大型になれば7~11名が乗船している。勤務形態は、内航貨物船なら(基本的には)3か月乗船して1か月の休暇が与えられる。乗船期間中はもちろん帰宅はできず、ごく限られた空間の中で限られた人間との濃密な時間を過ごすことになる。最近の若い船員の関心事は、もっぱら乗船中にインターネットに接続できるか、ということ。「ネット環境が悪いことで、船を降りる船員さんもいます。各船主さんもいま、大変な意識を持ってこれに取り組んでいます」と河村理事長。
船に乗るためには、海技免状(免許)が必要となる。特に小型船舶になれば必要最小限の船員しか乗れないため、海技免状が欠かせない。しかし取得に際しては相応の時間がかかる。いま国が中心となって運営している船員養成機関は最低でも2年以上の就学期間を要するため、船員の確保難の解消に向けたハードルにもなっていると河村理事長は指摘する。
さらに造船事業者についても触れる。近海船・内航船・漁船などをつくる中・小型の造船所も大半が中小零細企業であり、新しい技術の開発・導入は困難な状況。「今後、必要な技術をどのように開発していくか、ひとつの課題になっています」と河村理事長。ただ最近では造船所に代わり、内航事業者、機器メーカーなどが横で連携して開発組織をつくる動きも出ている、と紹介する。
内航海運の課題として、船員の高齢化となり手不足、船舶の老朽化、荷主の物流改革への対応の遅れ、DX化の遅れ、などを挙げた河村理事長。そのうえで、内航船のDXに求めることとして「業界の実態に即したものであることを期待します。内航海運には、外航海運のような巨大企業はありません。資金的にも技術的にも制約があります」「内航海運事業者、造船関係者だけでなく、荷主のニーズにも着目してもらえたら」「内航海運の切実な課題を解決する提案であって欲しい」とする。最後は「DX化が遅れた業界ですが、その分、改善余地も大きいことが期待できます。課題は色いろとありますが、DX化により内航輸送がより良いものとなることを願っております。皆様の引き続きのご協力、連携をお願いしたいと思います」とまとめた。
船舶産業の変革実現に向けて
続いて、国土交通省 海事局 技術企画室長の松本友宏氏が「内航海運のDXとGXの推進」というテーマで講演。そのなかで松本氏は「船舶と陸(オフィス)の間で運航データ、貨物情報などをやり取りする仕組みが不可欠です。これまでもデータを連携し、一元的にリアルタイムで把握・情報共有できるようなプラットフォームの構築が進められてきましたが、より内航海運のニーズに沿った形で開発していく必要があります」との認識を示す。
国土交通省では今年度から、造船所、内航海運事業者などと共同して技術開発を前に進める『内航変革促進技術開発支援事業(NX補助金)』に着手している。松本氏は「海事人材は高齢化が進んでおり、確保・育成が喫緊の課題です。上記の取り組みにより船員の労働負担が減り、生産性が向上することを期待しています」と話す。なおこの補助金は令和6年度は13件が採択された。
自動運航船の実用化に向けた取り組み、CO2削減を目的にした省エネ船に移行する試み、内航カーボンニュートラルに向けた燃料転換についても説明。デジタル化を進めながら、これらの取り組みについても進めていきたい、と話した。
新たなソリューションを紹介
このあと、機器メーカーの担当者らが新製品・新技術について紹介していった。寺崎電気産業は、船上データ収集装置(TMIP)を紹介。これは「実海域性能の把握」「効率運航・安全性の向上」「メンテナンス性の向上」を目的にデータを収集したい海運事業者に向けて開発されたもので、担当者は「弊社のオンボードプラットフォームであるTMIPを導入することで、データ収集にまつわるハードルを大きく下げることができます」とアピールした。
古野電気は「自律船関連の取り組み、およびARナビゲーションの新機能」について紹介。無人運航船プロジェクトMEGURI2040では船舶交通量が多い東京湾における実証、また12時間以上にわたる長距離・長時間の無人運航実証を2022年に実施済み。今後は瀬戸内海を結ぶ離島航路船などで実用化を目指す、としている。また航行・操船システムのARナビゲーションについて紹介。タグボートが死角に入った後もグラフィックで分かりやすく表示できる機能、夜間・悪天候など視界が制限される状態でも他船の情報が一目瞭然に分かる機能などを伝えた後、新たな機能により全周AR360°表示が可能になった、と紹介した。
このほか、シップデータセンターは「船社に貢献するIoS-OPの取り組み」、IMCは「船舶管理システムClassNK CMAXS PMSによる内航船の保守業務支援」、中国塗料は「船底防汚塗料におけるデータ活用の取り組み」、商船三井テクノトレードは「改良型PBCFおよび風利用推進」について紹介。最後に、日本海事協会は「船舶のサイバーセキュリティ」について紹介した。