叱ると怒るは本当に違う? なぜスポーツ現場で体罰がなくならないのか【…

 

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令和7年に入っても、スポーツ界において体罰をめぐる問題は後を絶たない。3月はじめには、高校野球の名門・龍谷大平安高の原田英彦監督が、部員に反省を促す“強めの指導”を行った責任を取る形で、自ら監督の職を下りた。

 なぜ、指導者は叱りたくなるのか。『脱・叱る指導 スポーツ現場から怒声をなくす』の著者である臨床心理士・村中直人氏に、叱る指導に潜む危険性を解説してもらった。(文・村中直人)

 

ネガティブ感情で相手をコントロールする

 

 そもそも、どのような行為を「叱る(指導)」と呼ぶのか。ここを明確にしなければ、議論は進んでいきません。さまざまな考えがあって当然ですが、私自身は次のように定義づけています。

 

「権力のある人がネガティブ感情(苦痛、辛い、怖いなど)を使って、相手をコントロールすること」

 

「叱ると怒るは違うもの」と考える人もいると思いますが、それは権力者側の論理にすぎず、大切なのは受け手側の感情です。

 

 ついつい叱りたくなるのは、「人間が生来的に持っている処罰欲求」と考えることもできます。言葉の通り、「悪いことをしている人を処罰したい、苦しみを与えたい」という欲求です。

 

 誰かを叱ったあと、相手の行動に変化が見えたとき、どんな感情を抱くか想像してみてください。ある種の“満足感”や“気持ちよさ”が芽生えた経験はないでしょうか。処罰感情の充足とともに、自己効力感も高まり、“ご褒美”を手にできるのです。

 

社会の秩序を維持するために、「処罰欲求」は必要なものであり、「正義感」と言い換えることもできるでしょう。ただ、エスカレートしすぎると、〈叱る依存〉につながっていく恐れもあるのです。

 指導者のみなさんに知っておいてほしいことがあります。

 

 それは、どれだけ愛情を注いで叱ったとしても、「叱られる側が自ら学ぶモードにはならない」ということです。もっと正確に言えば、「学びのモードが邪魔される」と表現したほうがいいかもしれません。

 人間はネガティブな感情を体験し、強いストレスを感じたとき、脳内にある「扁桃体」を中心とする神経ネットワークが活性化します。近年の研究では、このネットワークが活性化すると、知性や理性に重要な役割を果たす「前頭前野」の活動が大きく低下することがわかっています。

 

 この状態に陥ったとき、人が選択する行動は「戦う」か「逃げる」のどちらか。その場では指導者の言うことを聞いて反省しても、それは多くの場合単なる逃避(逃げる)行動に過ぎません。主体的に深く学んだかとなると、決してそうではありませんので、指導者からすると「何度言ったらわかるんだ!」と言いたくなる状況が再び生まれてしまうのです。

指導者の「最上位目的」を考える

 

 スポーツ指導の現場は、叱る行為が多用されやすい環境が整っていることも理解しておいたほうがいいでしょう。

 

「権力格差」(指導者と選手)が明確なうえに、「密室性」が高い。外部の目が入りにくく、指導者の言葉が強く通りやすい環境であるのです。

 

 裏を返せば、叱る指導を手放すカギは、「権力格差」と「密室性」を意図的に緩めることです。選手が練習メニューを決めるなど、自己決定の場面を増やしていく。自己決定できる喜びや学びは、大人が思っている以上に大きなものがあります。

 

 指導者としての「最上位目的」を明確にすることも、大切な要素になります。「哲学」や「信念」と置き換えてもいいでしょう。競技を通して、どんな力を身に付けてほしいのか。

 

「何が何でも勝ちたい」

 

「選手たちの考える力を育みたい」

 

 最上位目的が曖昧な人ほど細かいことにこだわり、叱りたくなる傾向にあります。「選手たちの考える力を育みたい」と思うのであれば、選手自身が創意工夫し、試行錯誤できる環境を整えようとすると思います。

 

「そのやり方では成長するまでに時間がかかる」と思われる指導者がいるかもしれませんが、人の成長とは元来、時間がかかるものです。時間をかけた分、自分で考えて、決めて、試行錯誤する学びの中で、何かコツを掴んだときには、飛躍的に伸びていく可能性があります。

 

 生来的に、「処罰欲求」を持つからこそ、「叱る指導」を手放すのは難しいことですが、「罰では人は学ばない」のもまた事実です。指導者として、叱りたくなる欲求との付き合い方、手放し方を考えることが、今まで以上に大切になっていくはずです。

 

 

村中直人(むらなか・なおと)

1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。

一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学び方の多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成にも力を入れている。現在は企業向けに日本型ニューロダイバーシティの実践サポートを積極的に行っている。著書に『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊国屋書店)、『「叱れば人は育つ」は幻想』(PHP研究所)、『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)がある。

 

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【了】