接待の強要を疑われる企業風土が問題視される中、接待を業態とするナイトビジネスへの風当たりはますます強い。

そんな逆風をものともせず、いわゆるキャバクラと呼ばれる業界の負のイメージを払拭し、働く女性の地位向上を目指すベンチャー企業がある。売上高90億円(2024年度)を達成した株式会社バルセロナだ。

同社の急成長を支えるキーパーソンが、最高マーケティング責任者の杉浦誠太さん。入社以降、発展途上の業界に革命的な変化をもたらし、売上を4倍以上に押し上げた。

東大卒の彼がなぜバルセロナに入社したのか、そこで直面した苦労やビジネスの醍醐味についてうかがった。

―― 自己紹介をお願いします。

杉浦誠太です。現在、バルセロナのCMO(Chief Marketing Officer)を務めています。メインは新規集客のためのデジタルマーケティングで、もう1つは業務のDX化を始めとするIT推進関連。2つの領域を主に担当しています。

キャバクラは鎖国されてきたような業界なので、いろいろと発展途上なんです。特にIT領域はめちゃくちゃ遅れていて、いかにデジタルを取り込んでいくのかを常に考えてますね。

―― 東大からどうやってナイトビジネスに辿り着いたのか、大変興味があります。学歴から教えていただけますか。

中高は、神奈川県にある中高一貫の浅野中学・高等学校に進学しました。当時の浅野は東大合格者を輩出する進学校でしたが、私自身は高3の6月まで部活に打ち込んでいたタイプ。東大を目指す学生を「違う世界に住む人」という目で見ていたくらいです。

―― 部活は何を?

ハンドボールです。中学で入部した時はみんな未経験者だったのでスタートラインは同じでしたが、あっという間に差が開きましたね。能力も体力もなく、レギュラーどころかベンチ入りもできなかったんです。

何度、辞めようと思ったかわかりません。それでも高校に入っても続けたのは、そこで終わる自分を認めたくなかったから。どこまで諦めないのかを試したかったんだと思います。

―― レギュラーになれないまま6年、よく続けましたね。

朝も昼も練習、部活が終わっても、ひとり残って練習。通学は両足に4キロのウエイトをつけて筋トレしていました。レギュラーにはなれませんでしたが、最後のインターハイ予選でメンバー入りすることはできました。努力をし続ければ必ず伸びる。この時の経験でかなり自信がついたと思います。

―― 東大受験に舵を切ったきっかけも、部活での経験が大きいのでしょうか。

勉強は好きで、部活の合間もコツコツ続けていました。難関コースにギリギリ進めたことで「頑張れば行けるかも?」と、東大がぼんやりと視野に入って来た感じです。

とはいえ、夏の模試ではC判定、12月の模試ではD判定…。努力をすれば絶対に伸びることは部活で学んでいたので、最後は追い込みです。睡眠は3時間まで絞り、寝ないように背中に棒を入れて頑張りました。漫画かよ! って感じですが(笑)。

―― バルセロナ社との出会いを教えてください。

東大在学中のインターンシップが最初の出会いです。バルセロナは2018年に業界で初めて新卒採用を実施しましたが、経営水準を上げる戦略として、東大、京大、旧帝大の学生に声がかかったんです。私も2泊3日の3dayインターンに参加しました。

―― ナイトビジネスに対する不安はありませんでしたか。

私自身はキャバクラに行った経験がなく、初めて知ることばかりでした。でも、実際にバルセロナのインターンシップに参加してみると、何も不安に思うことがなかったんです。たとえば反社会勢力のような人がいるとか、社員の言葉遣いが荒いとか、世間一般が抱くイメージとはぜんぜん違いました。

むしろ、そういう負のイメージを刷新していきたいというのがバルセロナの想いだったので、こんなに開拓しがいのある業界は逆にないぞ…と思いました。

―― 具体的に業界のどんな点を開拓したいと思ったのですか?

IT分野に疎いことはすでにお話しましたが、それ以前に、給料がちゃんと支払われない、ハラスメントが常習化している、そうした風土が依然あることがわかりました。他の業界では淘汰されているような古い価値観が残っているからこそ、私でも価値を残せるかもと思ったんです。

私の学歴だけを見ればいわゆるエリートだと見られがちですが、ハンドボール部で落ちこぼれだった過去があるように、能力が秀でている人間ではありません。何かで1位を取ったこともないし、親や社会にすごく認められた経験もない。いつも上に這い上がらないとって、思い知らされてばかりでしたから。

―― つまり、ニッチな業界でオンリーワンの存在になろうと?

そうです。ありふれた業界のなかで埋もれるより、他の人が行かないような業界にチャレンジしたほうが、自分の価値を最大化できると思いました。どうせやるなら、何者かになりたいじゃないですか。

―― 大学卒業後はそのままバルセロナ社に?

いえ、卒業後は外資系の戦略コンサルに就職しました。一流企業に身を置いて、社会を変えていく仕事をバリバリしたかったからです。でも2年で退職しました。何か嫌だったとか、大変だったというわけではなく、むしろ楽しかったんです。だけど、より厳しい環境で手応えを感じたかった。社会を変えるインパクトをもっと感じたくてバルセロナに転職し、いま丸5年が経ちます。

―― やりがいを感じていますか?

楽しいです。やりがいもあります。顧客や売上のデータ分析、デジタルマーケティングやSEO対策など、さまざまなマーケティング手法の導入、お客様の会員証アプリやキャストのための営業管理アプリの開発など、概念すら存在していなかった分野をゼロから構築しています。

自分が作ったものを他社が取り入れるケースもあるんです。業界のスタンダードになっていく点は、特に達成感を感じますね。

―― ナイトビジネスに対する世間の偏見を感じることは?

めちゃくちゃあります。逆風だと感じることは多いですね。1番多いのは、取引できないと言われること。プレスリリースの配信サービスや求人掲載のサービスを筆頭に「利用規約で決まっている」「上長に確認したらNGでした」といった回答で、断れられることはざらにあります。

―― 今後、そうした偏見に対しどう取り組んでいく予定ですか。

バルセロナが反社と一切関係がないこと、キャストへの強要もないことは調べてもらえればわかることです。でも社会通念上、問題だと言われるなら、自分たちが積極的に業界のイメージを変えていくしかありません。

まさに、それがバルセロナの一番大きな挑戦で、業界全体の常識を変えるゲームチェンジャーになれると信じてやっています。

―― 株式上場を目指していると聞きました。

そうなんです。4、5年以内のNASDAQ上場を目指しています。監査を通って上場が認められるということは、信用に値する企業という証明とほぼ一緒。私たちはそう捉えています。 それだけで私たちの立場が大きく変わることはないと思いますが、「バルセロナさんだったらいいですよ」って言ってくれる企業がひとつ、ふたつ増えていくかもしれない。そのための1歩なんです。

―― 現在の事業規模を教えてください。

札幌に6店舗を展開し、24年の9月には初めて福岡の中洲に出店しました。社員数は約100名、キャストの数は約600名。売上高は昨年90億を達成し、今年は130億を見込んでいます。ありがたいことに、私が入社してから平均40%の成長率で拡大し続けています。

「インテリが集まる頭でっかちの店が成功するわけない」って、中洲に出したばかりの頃は下馬評がすごかったんです。でも、今は毎日満員の営業でほっとしています。他社よりもいい取り組みをしている自信はありますが、歴史ある地域に受け入れてもらえるかはとても不安だったので…。

―― 他社よりいい取り組みとは?

ひとことで言うと「普通の会社」…。いや、それ以上に、大手にも引けを取らない企業かもしれません。バルセロナではキャストさんの売上や出勤データを分析し、努力や結果を重視するのは当然。一般的な企業が行うPDCA(Plan, Do, Check, Action)もちゃんと実践しています。

また、将来を見据えたキャリア設計も一緒に行い、キャストさんとのミーティングも高頻度で行っています。

―― 業界全体を底上げしていく画期的な取り組みですね。

今はまだ、キャバクラで働く女性たちの社会的地位は高くありません。僕らはそれも底上げしたいし、将来、女性が就職したいランキング1位の会社になりたいとも思っています。 バルセロナは福利厚生をしっかり整えていて、コロナ禍では子ども手当を支給しました。予防接種も無料で受けられますし、託児所の整備や資産運用もサポートしています。

働くキャストさんの中には、学生さんもいればシングルマザーさんもいて、家庭の問題で教育を受けられなかった女性もいます。学がないと生きづらい世の中でも、ちゃんと稼げる場所を提供したい。それを実現するためにも事業を今後も拡大し、最終的には業界全体に新しい価値を生み出したいんです。

―― バルセロナ社はキャバ嬢と呼ばず「キャスト」という言葉を使われていますよね。

キャバクラで働く女性たちは、まだまだ性の対象として見られがちです。それを根本から変えていくのが「キャスト」と呼ぶ一番の狙いです。

たとえば手の届かない芸能人という存在がいて、少しだけ身近に感じるアイドルグループがいて、直接会いに行って応援できる地下アイドルがいる。お客様を喜ばせる存在として、同じライン上にキャストさんがいると僕らは思っています。だから「キャバ嬢」という言葉は使いません。

実際、キャストさんのファン化は進んでいて、自分の「推し」に会いにくる顧客は多く、なかには女性のお客様もいますよ。

―― 就職や転職に悩む若者にメッセージはありますか?

企業のネームバリューを優先したい気持ちも理解できますが、いまは昔よりも「個」にスポットが当たる時代。自分の価値を最大化する道を模索してみるのもいいと思います。

大手企業でナンバーワンになる難易度は高くても、私自身はバルセロナに転職したことで自分の価値を最大化できました。それは、自分の得意分野で変革をもたらし、売上を4倍以上に拡大したことが証明しています。嬉しいことに、最近では旧帝大卒などの同じ志を持った優秀な若手の入社も増えています。

「個」の視点で就職先を考えるのも悪くないよ、というのは伝えたいですね。

執筆:ぎぎまき
写真:佐藤 登志雄
編集:学生の窓口編集部