
昨年、フォルクスワーゲン本拠地のヴォルフスブルクでゴルフの生産50周年が祝われた通り、ゴルフはビートルの後継車としてVWでもっとも成功した車種となった。半世紀で3800万台以上を販売し、これは1日あたり2000台のゴルフが世界中でオーナーの元に届いていた計算になるという。
【画像】VWゴルフ1から8.5まで。最新モデルまで脈々と受け継がれる根源的な魅力(写真23点)
欧州Cセグメント・コンパクトで、長年のベストセラーであるという販売量の話だけではない。5人が乗れ、使いやすい荷室と大開口のハッチバックを備えつつも、安全性を担保したコンパクトカーとして、実用性や走行性能、静的・動的なクオリティにおいても、ゴルフは欧州の指標であり続けてきたのだ。
歴代VWゴルフを振り返る
初代ことゴルフIはいうまでもなく、ジウジアーロの手による若々しく鮮烈な2ボックス・シルエットが印象的だった。実用性と生産性をも高度に実現したデザインは、横置きFFによるモダン・ドライブの刷新という概念を雄弁に語る、自動車を越えて広くインダストリアル・デザインの傑作だった。1974年のデビューから2年ほどで生産台数は100万台に達したほどだ。
また日本でもヒットして昭和世代には馴染み深い、ゴルフIIへのフルモデルチェンジというか進化は、その後のゴルフの方向性を決定づけた。初代のDNAを最大限に残しつつ、触媒コンバーターやABS、AWD化といった、当時を席巻していた最新技術に対応できるパッケージと、80sならではのモダン・タッチを兼ね備えていた。フルモデルチェンジしても、まったく異なるコンセプトに生まれ変わるでなく、あくまで時代の要請する進化を反映する方向性だ。ゴルフIIは1983年(欧州デビュー)から1991年の生産終了まで、じつに約630万台が生産された。
続くゴルフIIIは、初めてフロントエアバッグや衝突時のエリアコントロールによる衝撃吸収といった概念による安全性を強化していた。6気筒モデルのVR6やステーションワゴンが登場したのもこの世代だ。
ゴルフIVは1997年に発表され、すでに4世代目にしてアイコンとしてのステイタスを意識していた。それは太いCピラーと高剛性・低重心設計のボディからもたらされるスポーティな走りで、それらを可能にした前提は、ESPによるアクティブ・セーフティの拡大、あるいはハルデックス・システムによるAWDドライブだった。R32のようなハイパフォーマンス仕様も加わり、モデル末期には早くもDSG搭載が始まった。
21世紀初のゴルフとなったゴルフVは2003年に発表。欧州のベストセラーカーとしての存在感を固めるべく、クラスレスなまでの質感を実現して、ミドルアッパー以上のセグメントをも脅かす1台となった。それを可能にした要素とは、ボディパネル間をレーザー溶接で繋ぎ合わせることで先代比+35%のねじれ剛性を確保したボディ、4リンクリアサスペンションによるロードホールディング、さらには油圧式から電動に改められたパワーステアリングなどだ。大衆車にレーザー溶接は当時としては大きな驚きをもって迎えられたが、スケールメリットあればこそ可能な投資でもあった。
6世代目ことゴルフVIは2008年に本国で登場し、再び安全性に焦点を当てつつレーザー溶接ボディに磨きをかけ、このクラスでは珍しかったユーロNCAPの5つ星を実現した。ヘッドライトや坂道発進などアシスト機能も充実した他、DCCによるアダプティブ・シャシー制御も導入された世代だ。
そして直近の先代、ゴルフVIIは2012年に登場し、VWグループの基幹プラットフォームMQBを初採用することで、前世代より100㎏もの軽量化を実現した。グループ内の横置きFFおよびAWDの他車種は、ホイールベースやトレッド、ボディ外寸は自由に変えられるが、クラスレスであることを実現したゴルフはモジュラー化し、ある意味、メカニカル的には究極の完成型だったかもしれない。しかし時代はADAS機能など数々の先進的なインテリジェント機能を必要とし、エレクトロニックの先、インフォトロニックが求められつつあった。e-ゴルフのようなフル電動化モデルもこの世代から生まれた。
そしてゴルフVIII(8)は2019年に誕生、欧州コンパクトとしてMHEVによるハイブリッド化を先駆けた。ヘッドライトやランプ類はLED化され、スマート化・デジタル化は著しく、DCCを進化させつつヴィークルダイナミクスマネージメントも導入している。
最新ゴルフ8.5の仕上がりは?
そして今回、ゴルフ8のマイナーチェンジ版となる「8.5」に都内で試乗してきた。まずエレガント系のグレードたる「スタイル」だが、フロントグリル下部の開口部がよりシンプルな2枚ルーバーに改められ、ハイビーム照射を500mにまで強化した新IQ.ライトの「離れ目」2灯の視線と相まって、よりモダンな雰囲気に。VWエンブレムはイルミネーション式となり、ボディサイドのオーナメントも廃され、全体的にスマートさがより増した。
インテリアについてはさりげなく、劇的に変化している。まずタッチスクリーンが10インチから12.9インチへ、かなり大型化された。デジタルメータークラスターからの一体感、ひと繋がりのデザイン性では前期型が優るものの、やはり表示が大きく走行中に断然、情報が読み取り易い。演算処理の速度や画面のタッチセンサー感度も上がっていて、操作の容易さで明らかに8.5世代が上回る。何よりタッチスクリーンの下部に、ゴルフ8でバックライトがなくて見づらい・扱いづらいと不評だった音量調節やエアコン操作のタッチスライダーが、バックライト式になった。メニュー階層も練り直され、深掘りしなくても欲しい要素にたどり着きやすい。
ガソリンエンジン+MHEVの構成自体は変わらないが、スタイルはひきつづき4気筒・1.5Lターボは250Nm・150ps仕様であるのに対し、アクティブの旧3気筒・1Lターボは4気筒・1.5Lターボの220Nm・116㎰仕様に置き換えられた。いずれ電装系のシステムが一新され、セルモーターを省いてBSG(ベストスタータージェネレーター)がエンジン始動を兼ねるようになった。モーター出力も旧12kW(約16ps)から14kW(19ps)へ向上し、電気によるアシスト運用を強める方向だ。
ただし電気が関与するのは電気モーター駆動だけではなく、アクチュエーター制御にも及び、気筒休止機構にも改善が図られた。以前はコースティング時、2番と3番のシリンダーをバルブを塞いで休止させていたが、ピストンは上下していた。だが今回はスライドで気筒休止専用のカムプロファイルを導入し、低負荷時に1番と4番が完全に停止させて2気筒走行する仕組みとした。些末なメカニカル・ロスを潔しとしない、VWの執念を感じさせる改良だ。
実際に1.5Lの方を都内を走らせてみると、ストップ&ゴーの振舞いやマナーによりスムーズさが増した。どこで駆動がICEに切り替わっているか、はたまた電気に戻ったか、あるいはアシストが効いているのか分かりづらいほどだが、電気のアシスト量が増えてICEとの協調制御も一段と滑らかになった。加速のレスポンスと伸び、そしてパドルで回生の強弱がつけられることと、ブレーキのタッチまで申し分ない。高速道路の中間加速ではワンテンポ挟みはするが、穏やかだが息の長い加速が始まり、臍を噛むような思いはせずに済む。電動パワステも適度にしっとりしたフィールで、ADASの淀みない制御を含め、スタイルなら確かに日常の移動でイージーさ、かつクラスレスな高級感を感じられるだろう。
ただし乗り心地の柔らかさ、脚のしなりの穏やかさでいえば、リアがトレーリングアーム式サスペンションで16インチホイール仕様のアクティブが、有利といえる。スタイルのような肩周りのサポートまで効いたスポーツシートでない点を我慢する必要はあるが、MHEVのモーター駆動が必要十分以上にトルクを埋め合わせ、街中でのドライバビリティもスタイルの落ち着き感に対し、こちらは軽快だ。しかも、それはパタパタした雑味を伴うものではない。動的質感だけならeTSIアクティブの16インチでパッケージオプションを検討したくなるが、静的質感まで考慮すればeTSIスタイルが妥当な選択肢となるだろう。
電動化を中長期戦略で進めつつも、ICEにこれだけ改良メニューを見い出しては磨きをかけてきた。渋々と移行したMHEVというより、そこに8.5世代の根源的な魅力を、乗り手は見い出せるはずだ。
文:南陽一浩 写真:フォルクスワーゲン
Words: Kazuhiro NANYO Photography: Volkswagen