何しろ、ほとんどの登場人物が「犯人ではないか」と思わせる言動を見せていた。根っからの悪人ではないものの、それぞれ怪しさやずるさなど負の感情を感じさせる人物がズラリ。

一時的に入試本部の留守を任されたほか、事件を扱ったネット掲示板を見つけた音楽教師・滝本みどり(南沢奈央)。滝本と交際中ながら生徒の石川衣里奈(山崎紘菜)とも恋仲にある体育教師・相田清孝(中尾明慶)。ライバル的な有名私立校の出身で頭が切れる英語教師・小西俊也(徳山秀典)。契約更新の打診がないことに焦り、試験当日も不可解な行動があった数学講師・村井祐志(篠田光亮)。

答案の異変に気づいた最初の人物である美術教師・宮下輝明(小松利昌)。問題が起きた試験会場の責任者で、東大出身の気難しい社会科教師・水野文昭(阪田マサノブ)。息子が同校を受験することになり、答案用紙の採点ができない英語教師・松島崇史(羽場裕一)。かつて採点ミスなどのトラブルを起こしたことがある英語教師・坂本多恵子(高橋ひとみ)。

入試を取りまとめる立場でクールに立ち回る入試部長・荻野正夫(斉木しげる)。過去の採点ミスからプレッシャーを感じ、教師たちに入念な指示を出す校長・的場一郎(山本圭)。

その他でも同窓会会長で息子が同校を受験する沢村幸造(入江雅人)、夫が県会議員で娘が同校を受験する芝田昌子(生田智子)。さらに美山加恋、柾木玲弥、高杉真宙、清水尋也が演じた受験生たちにも犯人の疑いがあったほか、ブレイク前の中村倫也もキーマンとして出演していた。

ちなみに、主人公の新任教師・春山杏子(長澤まさみ)は若く明るい帰国子女に見えたが、「湊かなえ作品」だからこそ徐々にあやしく見えてくるところはさすがの脚本。これだけ怪しげな登場人物を書き分けられることが実力の証しであり、小説ではなく連ドラだからこそできたところが意義深い。

今に通じるネット掲示板の書き込み

同作のチーフ演出は、『世にも奇妙な物語』シリーズ、『警部補 古畑任三郎』、『僕の生きる道』などを手がけた星護。特に90年代には熱狂的なファンが多かった演出家であり、その星が6年ぶりに連ドラを手がけたのが『高校入試』だった。

星は『世にも奇妙な物語』に加えて、『ボクたちのドラマシリーズ』で男女入れ替わりの『放課後』とタイムスリップの『幕末高校生』を手がけたことから、ファンタジーの印象が強い人が多い。その後に手がけた『僕の生きる道』は、主人公が余命わずかの教師というシリアスな設定ながらも、どこかファンタジーのような軽さを感じさせる演出を採り入れ、視聴者の間口を広げていた。

その点、『高校入試』も受験生の人生を左右する「入試をぶっつぶす」というクライムミステリーながら、教師たちの軽妙な会話が続くシーンが多く、時に学校が舞台のシチュエーションコメディにも見える。星の演出によっていい意味で「湊かなえ作品にしてはイヤミス度が低い」からこそ間口が広いのかもしれない。

そして星の演出でもう1つ特筆すべきは、ネット掲示板を使った演出。ネット掲示板に書き込まれた文字をこれほど画面いっぱいに映したドラマはあっただろうか。第1話から劇中で頻繁にその文字がインサートされていたが、それくらい回数も文字の大きさも際立っていた。

「最終目標が高校合格、って15歳で人生決まるのか?」「学歴自慢をするのは、人生のピークがすでに終わってしまっているヤツ。今の人生に満足している人間は、過去の自慢なんてしない」「オレは合格発表の翌日、勉強机捨てた」「一高出て、フリーター。それでも親は自慢する」

その大胆な演出がミステリーの色を濃くするだけでなく、視聴者に「教育とは?」「受験の意味は?」などの意味を問いかけていた。その掲示板は試験中や終了後の様子も書き込まれ、学校関係者の裏切りを思わせるなどミステリーを加速。同時に、匿名の書き込みに苦しめられる展開は最終話まで続き、SNSが発達した令和の今にも通じる物語と言っていいだろう。

最後に、長澤は『コンフィデンスマンJP』で大胆不敵な拝金主義の詐欺師、『エルピス-希望、あるいは災い-』で冤罪事件をめぐって戦うアナウンサー、映画『スオミの話をしよう』では5人の男と結婚し失踪した人妻を演じるなど、貫禄十分という印象が強いのではないか。『高校入試』はその長澤が25歳の時に主演を務めた作品であり、フレッシュな演技はすでに懐かしさを感じ、貴重な映像に見える。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。