冬場になると、「高齢の人が浴室やトイレで亡くなっていた」という話を耳にすることがありませんか。それは、「ヒートショック」が原因だったかもしれません。ヒートショックは、急激な温度変化により血圧が大きく上下することで引き起こされるもので、まだ寒さの続くこれからの時期にも注意が必要です。
この記事では、ヒートショックのメカニズムや起きやすい状況、予防法について詳しく解説します。
■ヒートショックが起こるメカニズムとは?
ヒートショックとは、暖かい部屋から寒い部屋へ移動するなど、急な温度変化によって血圧が大きく上下することで起こる健康被害です。この血圧の急激な変動により、心臓に大きな負担がかかり、失神や不整脈、さらには脳卒中や心筋梗塞などの深刻な症状を引き起こすことがあります。特に入浴中に発生すると、溺死や急死につながることもあります。
冬場は暖房の効いた暖かい部屋で過ごすことが多いですが、住宅の断熱性能によっては、浴室や脱衣室は外の気温とほぼ変わらない寒さということもあります。お風呂に入ろうとして暖かい部屋から出ると、まず、自律神経の働きにより身体が外気の寒さに対応しようとして血管が収縮し、血圧が上がります。しかし、お風呂に入り浴槽に浸かると、今度は浴槽の熱いお湯に対応しようとして血管が拡張し、血圧が下がります。
さらに、入浴後に脱衣室が寒いとまた血圧が上昇し、血圧が乱高下してしまうのです。このように、寒い日の入浴は短時間に血圧の変動を繰り返し、これがヒートショックのメカニズムであると言われています。
また、以下のような方は、特にヒートショックを起こしやすい傾向があります。
<高齢者>
高齢者は特に注意が必要です。日頃元気な人でも、血圧の変化をきたしやすく、体温を維持する生理機能も低下しているからです。
<高血圧の人>
血圧の急激な上下変動(乱高下)による低血圧が起きやすく、意識障害を起こす危険性があります。
<糖尿病、脂質異常症の人>
動脈硬化が進んで血管の機能が低下したり、余分なコレステロールなどが血管壁にたまったりしているため、高血圧や脳卒中、心筋梗塞を起こす危険性があります。
■ヒートショックが起きやすい状況
ヒートショックは、家の中でも特にトイレと浴室で発生しやすいと言われています。伝統的な日本家屋の場合、浴室とトイレが北側に設置されており、暖房設備がないことも多いため、冬場はトイレと浴室の室内温度が低い状態になりやすいからです。
床がタイル張りなどで冷たくなっていると体感温度はさらに下がりますし、浴室やトイレでは服を脱ぐ必要があるため、身体がより寒さの影響を受けやすくなります。中でも、全身が露出する入浴時にヒートショックは起きやすいとされています。
ヒートショックによる症状は、軽度であればめまいや立ちくらみ程度で済み、その場合、動かず安静にしていれば症状はおさまります。しかし、重度の場合は失神や心臓発作などの意識障害、脳卒中、心筋梗塞を引き起こす可能性もあります。特に、入浴中に浴槽内で失神すると、溺れて亡くなることもあるため注意が必要です。
■ヒートショックを予防するには
ヒートショックを防ぐには、ヒートショックが起きるメカニズムを理解したうえで、あらかじめ以下のような対策を取っておくことが大切です。
1.入浴前に脱衣室や浴室を暖めておく
温度の急激な変化を避けるには、入浴前に脱衣室や浴室を暖房器具で暖めておきましょう。暖房器具を使う以外にも、浴槽にお湯を入れる際は高い位置からシャワーで給湯し、蒸気で浴室全体を暖めるといった方法もあります。他にも、浴槽のふたを開けておく、足裏が冷たくならないよう脱衣室の床にマットを敷いておくといった対策も効果的です。
2.リスクの高い人はできるだけ日没前に入浴する
高齢者や血管機能に問題を抱えている人など、ヒートショックのリスクが高い人の場合、浴室内の温度が低い時間帯の入浴は避けたほうがいいでしょう。特に一人暮らしの人は、できるだけ日没前の入浴を心がけましょう。日没前なら、日没後と比べて室内と浴室との気温差を小さく抑えられます。
特に、人の生理機能として、午後2時〜4時は温度差に適応しやすい時間帯と言われています。この時間帯に入浴すれば、血圧変動によるショックに耐えやすくなるでしょう。
3.食事直後や飲酒時の入浴は控える
食事をした直後(1時間以内)や飲酒時、薬物(睡眠薬など)の服用後は、血圧が下がりやすくなります。特に、食後に血圧が過度に低下してしまう状態を「食後低血圧」といい、めまいや失神などの症状が現れます。食後低血圧は糖尿病の人や高齢者に多く、これが冬場にはヒートショックの引き金になることもありますので、入浴は食後ではなく夕食前に済ませるようにしましょう。
4.お湯の温度は41度以下にする
入浴時の血圧低下を避けるには、お湯の温度を低くしておくことも大切です。42度より高い温度ですと心臓に負担をかけるため、湯船のお湯は38度〜41度で設定しましょう。入浴前にかけ湯をしたり、手や足など心臓に遠い部分から少しずつ温めたりすると、温度上昇による心臓への負担を減らせます。
また、浴槽に浸かる際は首まで浸からず胸のあたりまでにしておくこと、浸かる時間は10分程度にしておくことも心掛けましょう。
5.一人での入浴を控える
高齢者などヒートショックのリスクが高い人の場合、可能であれば公衆浴場へ行く、家族の見守りがある時間帯に入浴するなどして、一人での入浴を避けましょう。入浴することを家族に伝え、入浴中は脱衣室から声がけをしてもらうのも効果的です。
■ヒートショック予報も参考に
ヒートショック予報とは、「気象予測情報にもとづく家の中でのヒートショックのリスクの目安」で、日本気象協会が提供しています。ヒートショック予報は、リスクの低い順から「油断禁物」「注意」「警戒」「気温差警戒」「冷え込み警戒」の5段階に分かれています。
住んでいる住居の構造や設備、体調などによって健康への影響は異なりますが、冬場の寒い時期は、この予報を参考にヒートショックに備えるのも効果的な対策法の一つでしょう。
最後にヒートショックの対策に関して、総合内科の専門医に聞いてみました。
寒い季節は心臓や血管にとって負担が大きく、心血管疾患による入院や死亡は夏に比べて約20%増えるといわれています。特にヒートショックは、寒暖差によって血圧や脈拍が大きく変動し、血管が収縮するため心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。さらに、寒くなると人は運動不足になったり、美味しいものを食べ過ぎたり、気分が沈んだり、インフルエンザなどの感染症が流行したりと、心臓や血管には厳しい条件がそろいがちです。
だからこそ、対策が重要です。お風呂やトイレの温度差を減らすために暖房を活用し、脱衣所や浴室を温めることが重要ですし、バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠、ワクチン接種なども健康維持に役立ちます。私自身、暖かい冬のおしゃれを楽しみ、スキーや登山で体を動かし、大切な人たちと体暖まるものを食べながら大笑いする時間を大切にしています。寒さに負けず、冬ならではの楽しみを見つけながら、心も体も、そして家の中もぽかぽかにして過ごしましょう!